いきなり固有名詞!医師は患者にはもちろん、恋愛のときに相手にも嫌われやすいと思われます。
昨日、YouTube 動画「謎解き統計学 | サトマイ」を紹介させていただきました。本日も朝起きて身支度を整えながら彼女の "ジャーナリングの有用性と続け方" についての動画を視聴していました。「メモ魔」的なところがある院長としては「これまでなんとなくやってきたことが報われた」気がして清々しい気分で朝を迎えられており、今週最後の外来もこれから気分よく行うことができるハズ!という自己効力感にあふれています。
さて、昨日「ちょっと何言ってるかわからないひと」の特徴として
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いきなり!固有名詞
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日記帳
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強すぎる AT フィールド
を挙げましたが、本日はその中で、まだ触れていない 1. について深堀りしていきましょう。
この「いきなり!固有名詞」。例えばこういった会話です。
上司:「今回の案件だけど、まずは RFP に基づいて SLA を締結し、その後 PMO 経由で KPI をモニタリングしていく流れになるから」
若手社員:「……えっと……RFP? SLA……? PMO……? あの……すみません、ちょっとついていけてません」
上司:「え、知らないの? Request for Proposal、Service Level Agreement、Project Management Office の略だよ。で、KPI は Key Performance Indicator。全部基本用語だから覚えてね」
若手社員:「あ、はい……(結局どうすればいいんだろう……?)」
英語をチョコチョコ挟んでくる意識高い系がしそうなこの会話。このように、相手の知識や理解の前提条件を無視してハナシの冒頭から横文字の固有名詞や略語を連発すると、聞き手が理解できずに置いてけぼりになってしまいます。これ、医療現場において患者さんに対する医師の説明で意外とある気がします。
医師:「今回の尿検査ですが、やはり顕微鏡的血尿が続いていますね。IgA 腎症の可能性も否定できないので、腎生検を考慮する必要があります。」
患者:「……はい? えっと……アイジー…? それって何でしょうか」
医師:「IgA 腎症といいます。IgA っていう免疫グロブリンとよばれるタンパクが腎臓の糸球体という部位にくっついて炎症を起こす病気でして、慢性腎炎の代表格です。」
患者:「ああ……その……糸球体とか慢性腎炎っていうのは……?」
医師:「糸球体は腎臓のフィルターみたいな部分で、そこに免疫複合体が沈着するとメサンギウム細胞の領域が増殖して……」
患者:「メサ……すみません先生、ちょっと全然ついていけてなくて……」
医師:「あ、失礼しました。つまり、“腎臓に炎症が続いて、将来的に腎臓の働きが落ちてしまうかもしれない病気” の可能性があるんです。」
患者:「はぁ、それならなんとなくわかります・・・」
医師が同僚や患者さんに話すとき、われわれがつい口をついて出てしまうのが 「専門用語」や「略語」 。
さらに学会発表やカンファレンスでも、医師はいきなり研究の名称やや論文タイトルを出すのはよくある話です。「いや、それはもう SPRINT 試験の結果からわかるように、もっと血圧を下げないといけないよ」とか言って、若手が「何それアスリートのハナシ?何言ってるかわからない・・・」状態になったり。こういたことをなぜやってしまうのか?以下の原因が考えられます。
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自分にとっては当たり前すぎるから説明を省いてしまう
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時間がないので端折りたい
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専門性をアピールしたい(無意識マウントのことも)
これらはすべて「自分の知識の地図」を相手も持っている、という誤解から生じています。カンファレンスや学会などの医師同士ならともかく、患者さんにこれではいけません。ではどうすればよいでしょうか。院長が心がけているのは
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まず一般名詞で中学生でもわかるくらいの言葉を使って伝える「腎臓というおしっこをつくる臓器に起こる病気なのですが・・・」
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相手のレベルを測る質問をはさむ:「ここまででわからないことありますか?なんでも聞いて下さい」
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略語は使わない。どうしても使うなら説明する:「IgA というのは免疫グロブリンというタンパク質で・・・」
- たとえ話を挟んでわかりやすくする:「メサンギウム細胞というのは腎臓の組織にある血管を守るように血管の間にクッションみたいにあり・・・」
ということでしょうか。「多すぎる専門用語は相手を置いてけぼりにし」がち。上記のようなことを心がけるだけで、驚くほど伝わり方が変わるハズで、"専門性" と "わかりやすさ" の両立は可能です。そんなことを考えながら日々診療中に緊張しつつも楽しく説明しております。
