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いつもアタリマエのように使っているもののウラを見て思ったこと。

[2025.09.27]

当院土曜日は診療しております。午前中だけでなく 15:30 くらいまで。ただし本日、第 4 土曜日は休診としております。これは小さな子どもを育てながら働いているスタッフが多いことや院長はじめスタッフが学会や研究会などに参加しやすい週末をせめて月に 1 回はもうけたい、という思いからです。あとは院内備品のちょっとした工事・修理・点検などを行えるように、ということもあります。

そんなわけで本日はクリニックのエアコンを業者の方に掃除(といってもすべて部品を分解して徹底的に行うスタイル)してもらいました。今年はとにかく暑かった、というかまだ暑いですね。昨日も秦野は 30 ℃ 超えでしたし。そんな今年はエアコンフル稼働状態。かなり汚れが溜まっていると思われましたので。

業者さんによると、エアコンが汚れやすいのが飲食店(焼肉屋さんとか)、美容室(染料などを使うためか)、化学物質を扱う工場などだそうです。当院のようなあまり強烈なニオイや特別な化学物質を使うことが少ない施設は「分解して徹底洗浄」までするのは 3-4 年に 1 回でよいのでは、とのことでした。

さあ、その掃除風景です。普段は表面のフィルター掃除したりまわりのホコリを落とす程度。しかし分解され、奥の奥に潜んでいた黒ずんだホコリやカビを目にすると、すごいですね。長年の汚れの蓄積が。目に見える範囲は清潔でもエアコンの深部では静かに汚れが積み重なっていました。ただ、業者さんが言うには「それほどひどくはないですよー。このくらいだったらカビとかアレルゲン物質による健康被害などはまずないでしょう」ということでした。当院は喘息を患っている方やアレルギーの方も来院されますので安心しました。ただこの「見えている部分」と「見えていない部分」のギャップ。「オモテ」と「ウラ」。そのコントラストは手術などの医療行為と重なっているように思われました。

手術ひとつとっても「オモテ」と「ウラ」(はあります。

  • オモテ:患者さんの前で見える部分。丁寧な診察、安心感を与える笑顔、モニターに映し出される検査データや画像。

  • ウラ:その裏で積み重なる膨大な作業。術前カンファレンス、臨床解剖に関する膨大な知識、麻酔科医や手術室スタッフとの協調、そして術後管理。患者さんの目には映らないプロセスが、安全を支えるために極めて重要です。

エアコンのフィルター掃除だけでは快適さを維持できないように、医療もまた「見えない部分」がなければ成り立ちません。手術で言えば、術前 ⇒ 病歴聴取、画像診断、リスク評価、手術チームスタッフの調整、手術に関する本人・家族への説明。術中 ⇒ 皮膚切開の位置(今はロボットや腹腔鏡で手術をするので体表のどこに "穴" を開けるかがとっても重要です)、大事な血管や解剖学的構造物(尿管など)の確保、縫合糸や "デバイス" と総称される手術補助機器の選択。術後 ⇒ 手術終了時の家族への説明(本人は麻酔からまだ醒めていないので)、疼痛管理、感染管理、ドレーン(手術操作部位に留置して術後出血や術後感染が起こったときにすぐわかるようにしておくためのカテーテル)管理、リハビリを含む日常生活復帰までの生活指導、退院前の本人・家族への注意事項などの説明。これはどの業界にも共通することと思われますが、オモテに出てこないところで無数の調整と配慮がなされています。

エアコンの掃除を見て気づいたことがあります。「ウラの構造を知ると、オモテが全く違って見える」ということです。これは手術を含めた医療行為も同じかもしれません。患者さんにとっては「胆石で炎症を起こしていた胆嚢を取ってもらった」「がんを切除してもらった」「心臓カテーテルで冠動脈にステントを入れてもらった」と最終的な行為が残ります。もしそのウラにある「合併症予防のための技術や工夫」「行った医療行為を分かりやすくするためのイラストなどを用いた説明」「出血などトラブル発生時の対応」などを患者さんに知っていただくことができたら、医療に対する敬意や信頼感はより深まるはずです。

以上のような思いから、院長はよく患者さんに説明するときに "手の内を見せる" こととしています。たとえば「腹痛」。非常に一般的な症状ですが、これがなかなか難しいです。理由として

  • 腹部以外の病気が腹痛をきたすことがある(心筋梗塞の原因血管である "冠動脈" が横隔膜という、"腹部と胸部の境界" に接しているため、詰まったときに腹痛が出現しうる)
  • 高齢者や精神疾患を持っているひとなどでは本人の訴えが乏しく、重症なのに重症感がないことがある
  • ひとくちで腹部といっても消化管・肝胆膵・泌尿器・婦人科・血管・神経・整形領域・皮膚など、さまざまな臓器が原因となりうる
  • 血管閉塞などでは腹部の診察しただけでは重大な疾患を見逃す可能性がある

などが挙げられます。実際に多くの論文で救急外来に来院した腹痛患者さんの 20-40% が「診断不明」として経過をみていく、という方針を取らざるを得ない(その結果、80% くらいのケースでは症状が改善し、残りの 20% くらいは入院が必要となるような疾患がその後の経過でわかる)、と報告されています。

上記のような "ウラ" の部分を患者さんに隠すことなくなるべく説明するようにしています。われわれ開業医は最初の最初で患者さんを診る立場。「後医は名医(ひとりの患者さんを後で診る医者ほど前に診た情報を踏まえて診察することになるので診断が絞られており、名医にみえる)」という言葉があるように、"初医" が名医になるのは難しいんです、と正直に伝えています。そのほうが患者さんも「腹痛が今後強くなったり発熱や嘔吐が出てきたらすぐにまた再診しないといけないんだな」という心構えができると思いますので。

夏場はかなりいろいろと仕事を抱えていたので本日はその残務を行いました。明日は日曜日でじっくり勉強や運動など、自分の時間を使える日です。しっかりと体調やアタマの中を整えて月曜日からの診療にまた備えたいと思います・・・という "ウラ" をチラ見せして本日のブログはここまで。

 

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