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ここ二十年で治療ならびに疾患概念が大きくに変わったウイルス性肝疾患、でも針刺し事故には注意です。

[2026.07.27]

一昨日・昨日に引き続き「沈黙の臓器・肝臓」にフォーカスをあててブログを書いています。本日も肝臓について考えてみましょう。

院長が医師になった二十数年前と「劇的に変わった」といえる診療が「ウイルス性肝疾患」です。代表的なのは B 型肝炎・C 型肝炎ですね。明日、7 月 28 日の「世界肝炎デー」「日本肝炎デー」も、もともとは「ウイルス性肝疾患に対する正しい理解を広げ、検査、受診、治療につなげること」を目的として始まったものです。

まずは C 型肝炎から。院長が医学生だった 1990 年代後半、当時治療の中心は「インターフェロン」という注射薬でした。インターフェロンは、ウイルスを排除するために人間の免疫反応を後押しする薬です。これは一定の効果はあるものの、週に何度も注射を行い、発熱・全身倦怠感・関節痛・血球減少など、さらにはときに脱毛や抑うつ症状など、多彩な副作用がありました。その後、ペグインターフェロンやリバビリンという薬が加わり、治療効果は少しずつ向上したものの、治療期間は長く、副作用はさらに強く、しかも最後まで治療を続けてもウイルスが消えない患者さんが少なくない、という治療でした。

院長は消化器が専門ではなかったので、どうしても門外漢として、他診療科の疾患をイメージや印象で考えることが多かったのですが、この頃の C 型肝炎に関するイメージは「大変な治療を、治るかどうか分からないまま続ける、という覚悟が必要な疾患」という感じだったのを覚えています。

C 型肝炎は一部「予防接種などの注射を回し打ちしていた時代に本人の落ち度なくうつされた」というケースもあり、それは高齢の方に多かったため現在でも 80 歳を超える患者さんの中には、肝炎の話題が出ると「C 型肝炎の治療は、熱が出たり、髪が抜けたりで大変でしょう」と話される方がいます。その記憶は間違いではありません。ただし、その後治療は大きく変化しました。

C 型肝炎治療を大きく変えたのが DAA、すなわち「直接作用型抗ウイルス薬」です。以前の治療がヒトの免疫を介してウイルスを攻撃していたのに対し、DAA は C 型肝炎ウイルスが増殖するために必要な酵素やタンパク質を直接阻害します。敵の周囲を盛り上げて味方に攻撃させるのではなく敵の増殖装置そのものを止めるという、「より根治的」な治療にシフトしました。

それに伴い日本では(2014 年からだったと思いますが)インターフェロン(自宅で自己注射。そのため注射針回収などの手間がありました)を使わず、飲み薬(DAA)だけで治療する方法が本格的に始まりました。現在では、患者さんのウイルスの型、肝硬変の有無、以前の治療歴、腎機能や併用薬などを確認したうえで、多くの場合 8~12 週間程度、薬を内服します。これにより適応のあるケースでしっかりと治療選択を行えば 90% 以上の患者さんでウイルス排除を目指せる時代になっています。むかしを知っている院長からすると隔世の感があります。医療においてあまり大げさな言葉は安易に使うべきではないと思いますが、C 型肝炎治療の変化は、まさに「革命的」といってよいかもしれません。

C 型肝炎の治療では、治療終了後も一定期間、血液中に HCV-RNA(C 型肝炎の RNA)が検出されない状態を確認します。これをSVR、「持続的ウイルス学的著効」と呼びます。簡単に言えば、「治療を終えて時間が経過しても、ウイルスが見つからない」という状態です。

ただ、注意すべき点もあります。C 型肝炎ウイルスが消えれば、肝臓がその日に新品へ戻るわけではありません。長年の炎症によって肝臓に線維化が進んでいた方、すでに肝硬変に近づいていた方では、ウイルスが消えた後にも肝細胞がんのリスクが残ります。火事は消えても、建物に残った損傷まで瞬時に元へ戻るわけではないことと似ているかもしれません。したがって、治療が成功してももともとの肝障害が進んでいた患者さんでは、定期的な血液検査や腹部超音波、必要に応じて CT・MRI などを続けます。肝炎情報センターも、ウイルス排除後、とくに進行した肝疾患があった場合には、肝がんを念頭に置いた経過観察が重要だとしています。「ウイルスが消えたので、二度と肝臓を調べなくてよい」というわけではありません。「治療」とその後の「経過観察」は がん や心疾患でもそうですが、セットで考える必要があります。

一方で B 型肝炎も、治療は大きく進歩しました。ただし C 型肝炎とでは、薬により目指す目標が異なります。C 型肝炎では多くの場合でウイルスを体内から排除する「治癒」を目指せます。一方、B 型肝炎ウイルスは、肝細胞の核内に非常にしぶとい形で残ろうとします。現在の治療薬で、ウイルスを体内から完全に排除することは簡単ではありません。そこで B 型肝炎ウイルスによる慢性肝炎では、核酸アナログ製剤と呼ばれる治療薬を用いて、ウイルスの増殖を長期間にわたり抑え、肝炎のさらなる進行・肝硬変/肝がんへの進行 を防ぐことが治療の中心になります。降圧剤を飲んで血圧を良好に保つように、ウイルスを十分に抑え込んだ状態を維持する、と考えると分かりやすいかもしれません。そのため、自己判断で薬を中止するとウイルスが再び増殖し、肝炎が悪化することがあります。中止できるかどうかは専門医による判断が必須です。

そしてこの B 型肝炎。院長が長年専門としてきた「がん」、特にその薬物治療(よく化学療法と言われるあれです)と重要な接点があります。化学療法によって免疫系の働きが抑えられると、過去に感染して静かに潜んでいた B 型肝炎ウイルスが再び増殖することがあり、「HBV再活性化」と呼ばれます。

やっかいなのは患者さん本人が、「自分は B 型肝炎になったことはありません」と思っていても、症状がないまま感染し、自然に肝炎が落ち着いている場合がある、ということです。そのため、化学療法を始める前には、B 型肝炎ウイルスに現在感染していないかだけでなく、過去に感染した形跡がないかも調べます。

・・・やや難しいハナシになりましたが、肝炎ウイルスに感染しているかどうかは、通常の検査(昨日紹介した AST や ALT など)だけでは分かりません。B 型肝炎は主に HBs 抗原、C 型肝炎はまず HCV 抗体とよばれる検査項目を採血で調べます。厚生労働省は、過去に一度も検査を受けたことがない方には、「少なくとも一回は肝炎ウイルス検査を受けるよう」勧めています。ただし、手術前・妊娠時・献血時などに、本人が「肝炎検査を受けた」と意識しないまま検査されている場合もあります。まずは昔の健診結果や入院時の検査結果を確認してみましょう。

治療が進歩した、といってもまだまだ手強い肝炎ウイルス。しかもかつて C 型肝炎は「非 A 非 B 肝炎」と呼ばれていた頃もありました(A 型でも B 型でもない肝炎ウイルスの総称。1970 年代まで使用された用語。このほとんどは C 型肝炎でした)。ということは、未知の肝疾患に関連するウイルスが今後出てくる可能性もゼロではありません。新型コロナウイルスで「人類は感染症の脅威から逃れることはできない」ことを学んだはずですが、それでもなお現在は「喉元過ぎれば・・・」のコトバどおり、なんとなくそういったものを忘れようとしているかのごとく振る舞っています。少なくともわれわれ開業医は、ウイルスや細菌など、微生物については常にいろいろとアンテナを張って知識のアップデートが遅れることのないよう、新たな知見の学習を怠らないようにしたいと思います(進歩がはやくて大変ですが・・・)。まずは院内で絶対にスタッフの「針刺し事故」が起こってほしくないので、針を使う医療行為に遵守するルールを一度見直してみたいと思います。

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