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このまま ◯◯◯ を使っていると 20 年後くらいに ◯◯◯ が効かない病原体によるパンデミックのおそれも・・・((((;゚Д゚))))。

[2025.05.14]

COVID-19 パンデミック以来、「これは良いこと!」と感じる社会全体の共通概念として「熱が出ているひとは仕事をしないで家で休む」があります。パンデミック以前、特に昭和から平成 25 年くらいまでは「あんときオレは熱が出てても仕事したゼ!」みたいな、謎のマウント発言がしばしば聞かれました。特に患者さんの健康を管理するべき医師から(自分も恥ずかしながらそのようなことを少なくない頻度でやってしまっていた気がします)。しかし現在は「体調悪ければしっかりと休んで元気になってから復帰」ということがデフォルトの世の中になりました。良いことですね。

そんな現在の世の中。もうひとつ常識になって欲しいことがあります。それは「◯◯◯ はなるべく使わない!」ということ。◯◯◯ とは・・・抗菌薬です。抗菌薬とは、簡単にいうと「細菌をやっつけるお薬」のことです。むかしはよく「抗生物質」といわれていました。院長が子どもの頃は喉が痛くて熱が出たとき、近所のクリニックを受診したりするとすかさず医師から処方された記憶があります。この抗菌薬、院長は「風邪には出さない!」と決めています。それはなぜでしょうか。

風邪のほとんどはウイルスが原因!、だからです。抗菌薬はウイルスには効きません。「じゃあ、なんで風邪に抗菌薬出されることがあるの?」というツッコミもあるかと思います。実はそこに、今からお話しする「耐性菌」という問題が関わってきます。

「耐性菌(たいせいきん)」とは、抗菌薬が効かなくなってしまった細菌のこと。言ってしまえば、お薬に慣れてしまった悪いヤツらです。たとえば、昔はペニシリンという抗菌薬で楽勝だった細菌が、今では「そんなもんじゃ効かないよ~」とばかりに、ピンピンしている。そんな状況が起こっているのです。

これを医療の世界では AMR(Antimicrobial Resistance)=薬剤耐性と呼びます。ではどうして耐性菌は生まれるのか。これ、自然に発生する部分もありますが、一番の原因はヒト(処方する医師や一部患者さんも)による抗菌薬の使い方です。

  • ウイルスなのに抗菌薬を使ってしまう
     → 効かないのに、体内の良い細菌や、関係ない細菌をいじめてしまう

  • 出された抗菌薬を自己判断で途中でやめる
     → 中途半端に生き残った細菌が「鍛えられて」耐性化する

  • 他人の薬をもらって飲んじゃう
     → そもそもその人に合ってないし、量も期間もめちゃくちゃで逆効果

こんな使い方をしてしまうことが、これまでは意外と多かった。でもこうして生まれた耐性菌は、簡単な薬じゃ倒せません。最悪、どの薬も効かない「超多剤耐性菌」なんてモンスター細菌になることも…。

ちょっと現実の話をしましょう。

世界保健機関(WHO)によると、
このままだと2050年には、世界で年間1,000万人が耐性菌のせいで亡くなるかもしれないと言われています。

しかも日本は、抗菌薬の使いすぎが指摘されている国のひとつ。「薬を使えば多くの病気が治る」と思われがちですが、そんなことはなく、以前にも申しましたが「クスリ」は逆から読めば「リスク」。正しく使う必要があります。

■耐性菌が増えると、こんな困ったことが起こります。

  1. 風邪やちょっとした感染症でも、治療に時間がかかる・治らない

  2. 手術や抗がん剤治療のときの感染予防が難しくなる

  3. 感染が広がって、重症化・死亡リスクが増す

特に病院や施設などでは、院内感染という形で広がることも。一度耐性菌が出てしまうと、対応がすごく大変なんです。

ではどうするか。「耐性菌を減らす」には、医療者と患者さんが力を合わせることが必要です。

▼患者さんにできること

  • 「風邪に抗菌薬はいらない」ことを知っておく★

  • 処方された場合、医師はその病気が「細菌感染症」であると診断して投与していますので、その抗菌薬は医師の指示通り、きちんと最後まで飲む

  • 残った薬を自己判断で飲まない・他人にあげない

  • 感染対策(手洗い・うがい)をしっかり行う

▼医療者側でできること

  • 不要な抗菌薬は出さない姿勢(まれに救急外来などで「抗生物質ください!」という患者さんに出会うことがありますが、そういうときも不要と思われれば毅然とした態度で説明のうえ、抗菌薬以外の治療選択肢を検討する)

  • 感染症かどうか、きちんと検査する

  • 正しい抗菌薬を、正しい量・正しい期間で出す  

となります。

アタマがだるく、ノドに激痛あり、咳は止まらず熱は 38 ℃、強い倦怠感で朝からツラい・・・。そんな状態で医療機関を受診すると、なんとなくですが「抗菌薬ほしいなあ」と思うことがあるかもしれません。でも、ウイルス性の風邪に抗菌薬を出さないのは、むしろ “思いやり” なんです。むやみに薬を出すことで、耐性菌を生んでしまったら…次に本当に細菌感染になったときに、治療の選択肢が狭まってしまうんです。

「今回は自然に治る風邪だと思うから、薬はなしで大丈夫ですよ」そう言われたときは、ぜひ「この医者、ちゃんと考えてくれてるんだな」と思っていただければ。

抗菌薬は、医学が生んだとても素晴らしい武器です。でも、その武器を正しく使わなければ、私たちの手からすり抜けていってしまいます。耐性菌は、目に見えないけれど、確実に世界の健康を脅かす存在です。そしてその対策は、私たち一人ひとりの行動から始められるのです。クスリは必要最小限で。是非一緒に AMR 対策をやっていきましょう。未来のために。

・・・さて、上で院長が "★" をつけたところがあります。「風邪には抗菌薬を出さない」。これはいいとして、では「風邪」ってどうやって診断するのか?・・・ものすごくありふれた疾患、風邪。実はこれ、ときに診断はそう簡単ではありません。「風邪だと思ったら肺炎だった(これは聞いたことがあるかもしれません)」一方で「風邪かと思ったら悪性腫瘍だった(院長は少なからず経験したことがあります)」なんてこともあるのが臨床の難しいところ。明日は実は 奥が深い "かぜ症候群" について述べてみたいと思います。

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