この臓器が行っていることを機器に肩代わりさせようとすると、バイオ工場 ひとつ分くらいが必要と言われているほど様々です。
昨日に引き続いて肝臓のハナシを。以前本ブログにも書きましたが肝機能については 2023 年 6 月に日本肝臓学会が「奈良宣言 2023」を発表しました。これは「健康診断で測定される肝機能検査値の ALT 値が 30 を超えた場合、かかりつけ医を受診することを推奨し、肝臓病の早期発見・早期治療につなげることを目的」としています。この肝機能、今月(9 月 2 日)の NHK 「首都圏情報ネタドリ!」という番組で特集されていたので注意されている方も多いと思います。そのなかで肝機能で有名なのはアルコールですが、それ以上に "甘い飲み物(いわゆる清涼飲料水で糖分が多いもの、特に熱中症対策として今夏多く飲まれたスポーツドリンクなどを冷やして飲むとき)" が肝臓に与える負担が大きくなることが放送されていました。最近知り合いの消化器専門の先生も「中学受験に向けて頑張っている小学生が、毎日夜遅くまで勉強を頑張るために親に与えられたエナジードリンクの影響と思われる若年性脂肪肝を呈していた」というハナシをしていました。そのくらい甘い飲み物というのは脂肪肝に悪い影響を与えます。
当院健診でも脂肪肝は多くみつかります。では、肝機能に異常が見られた方にわれわれがどのように検査を進めているか、具体的に述べてみます。慢性肝炎と呼ばれる病態についてすべての検査を行うと、調べる血液検査の項目は下のようになります。
(1) 一般的な検査: 血算, AST, ALT, ALP, γ-GTP, T-Bil, LDH
(2) 肝炎: HBs 抗原と HCV 抗体
(3) 原発性胆汁性胆管炎: 抗ミトコンドリア M2 抗体
(4) 原発性硬化性胆管炎: MRI 検査(胆嚢・胆管・膵管を同時に撮影する MRI 検査法)
(5) 自己免疫性肝炎: 抗核抗体, IgG
(6) ウィルソン病: 結成セルロプラスミン, 尿中 Cu(銅)
(7) ヘモクロマトーシス: フェリチン, 血清鉄, TIBC
(8) α1-アンチトリプシン欠損症: α1-アンチトリプシン
・・・とてもこんなたくさんの検査をすべての肝機能数値異常を指摘された方で調べることは現実的ではありません。ですので
まず初回検査として AST, ALT, ALP, γ-GTP, T-Bil, LDH を検査して緊急性が高い病態でないかをまず確認。このとき内服薬(サプリメントや健康食品も! 青汁(ケール)で肝機能障害が出た、なんて報告もあるので)や飲酒歴も詳細に聴取
パターン A(AST と ALT 高値)⇒ HBs 抗原・HCV 抗体・抗核抗体・IgG・腹部エコー
パターン B(ALP と γ-GTP 高値) ⇒ 抗ミトコンドリア抗体・腹部エコー
パターン C(γ-GTP 単独高値) ⇒ 腹部エコー
(このときすべてに共通する腹部エコーも含めて 脂肪肝 / アルコール性肝障害 / 薬剤性肝障害 チェック)
・・・こんな感じで対応し、このときのデータが悪い、または最初は悪くなくても徐々に悪くなった場合は肝臓専門医に紹介、という方針としています。
まとめると、「採血と腹部エコー」のみである程度交通整理し、詳しいところは専門の先生にしっかり調べてもらう、というのが非肝臓専門医である院長の考え方。このとき肝臓のエコーは可能な限り詳細にみて、あわせて胆嚢(これは必ずみる)と膵臓(これは少しテクニックが必要で、患者さんの体型や胃内容物の状況などによってなかなか描出できない部位もしばしば)もきちんと評価するようにしています(ときに膵の腫瘤性病変(嚢胞とよばれる水のたまりやときに膵がんもみつかることが!)。
肝機能障害にはなかなか「これを飲めばよくなる!」みたいな薬はありません。地味な食事指導・カロリー管理・節酒/禁酒指導が診療のメインとなります。進行してからでなく、「少しでも数値が高い」と言われたら「どうせアルコールのせいだろう」決めつけずに是非医療機関を受診してくださいね。
