ごく短時間の睡眠障害でも大きな事故につながりうるということを(特にこれから年末年始で長時間運転する方は)よく覚えておきましょう。
一昨晩、いろいろあって 11:00 に床に就いたのに夜中の 0:30 に起こされる、そしてその後眠れなくなるという、睡眠を愛する院長にとってはツライことがありました。せっかく寝たのに起こされると本当にイヤですよね。おかげで昨日は昼間にだいぶ眠くなってしまいました。パワーナップ(10〜20 分の短い昼寝。効果的にこれをとることで脳を再起動できるほど回復します)をしてなんとか乗り切りましたが。
院長が医者になった 2001 年はまだ「研修医」という公的な制度はなく、現在のように「守られるべき存在」では到底ありませんでした。23:00 まで病棟に張り付いて仕事をし、6:00 にはまた病棟に来て土日もほぼなし。ですが初めての月給は 12 万円だったことを今でも覚えています(東京ひとり暮らしでこの給料はキツかった・・・当直バイトで食いつないでいました)。そんな過酷で体力勝負であった時代、よく同僚がカルテを書きながら寝ていたりして、エンターキーを押したままの状態で記載途中の電子カルテが
「身体所見・血液検査結果から、クッシング症候群を疑うがああああああああああああああああああああああああああああああ」(これはタイプ間違いではありません、疲れた研修医が寝たままキーボードの "A" を押し続けている状態です)みたいになっていることをしばしば見かけました。というか、自分もときどきやっていました。若干ヨダレも出しつつ。
こういった「思わぬところで一瞬寝てしまう」ことをマイクロスリープ(=瞬眠。「暁を覚えず」の "春眠" ではありません)と呼びますが、これはときに「大きな事故」につながります。例を挙げてみましょう。
・スリーマイル島原子力発電所事故: 1979 年、ペンシルベニア州のスリーマイル島原子力発電所で発生した原子力事故。空気弁が閉じるという小さなエラーで安全装置が働き緊急停止しましたが、機械の故障と人為的なミスが重なり炉心が冷却されずメルトダウン。放射能が漏れ出し、半径 8 km以内の住民に避難勧告が出されるなどの大事故でした。後に行われた裁判で、従業員の人為的ミスは睡眠不足による疲労が指摘されています。
・スペースシャトル「チャレンジャー」爆発事故: 1986 年、米国で「チャレンジャー」が打ち上げ直後に爆発、大破し乗組員 7 人全員が亡くなりました。院長は小学校 4 年。確かテレビでほぼリアルタイムに観ていた記憶があります。NASA 職員が長時間労働と睡眠不足により、機体の整備不良を発見できなかったことが原因とされています。この事故を契機に、アメリカでは全土に約 3000 もの睡眠センターが設立、睡眠に対する研究と国民への啓蒙活動が活発化したおおきなきっかけとなった事故となりました。
・チェルノブイリ原発事故: 1986 年、ソ連のチェルノブイリ原子力発電所 4 号炉で起きた原子力事故。定期点検中に溶解炉で爆発が起こり、31 名が死亡しました。周囲に大量の放射性物質が放出され周辺住民は移住を余儀なくされるだけでなく、甲状腺がん・乳がん・膀胱がんの発生に明らかな増加がみられるなど健康被害も甚大でした。この事故も作業員の睡眠不足による操作ミスが原因と考えられています。
・山陽新幹線オーバーラン: 2003 年、JR 西日本山陽新幹線の運転士が福山駅を定時発車後、所定速度で運転中に約 8 分間居眠り状態となりました。その後岡山駅に到着した際、新幹線が ATC(自動列車制御装置)の動作により所定停車位置の約 100 メートル手前で自動停止するという事案が発生。車掌が確認したところ、運転士は居眠り状態であり、声がけで目を覚ましたものの、当該運転士が「病気でない。」と主張、それが認められて結局新大阪まで運転が継続されました。この事案を受け、国土交通省では直ちに全国の鉄軌道事業者に対し睡眠時無呼吸症候群等に起因する可能性の高い事故事例等を再調査するとともに、当該症状の認識を新たにして健康管理等に所要措置を講じるよう通達しました。さらに、本件が、鉄道のみならず、陸・海・空の各交通機関に共通する問題であり、同様の事態に起因する交通事故を未然に防止するための対策を至急検討するきっかけとなりました。
こういった大事故(およびそれにつながるインシデント)の多くに、「睡眠」が関わっています。何らかの原因によって招いた睡眠不足やもともと担当者が罹患していた睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害です。「睡眠不足」についてはたかが「寝不足」、されど「寝不足」……これまでの経験から次につながる有効な改善策を医療だけでなく社会全体で考える必要があります。
先程紹介した「マイクロスリープ」。これは医学的には「局所睡眠(=Local sleep の訳。脳全体は覚醒状態であるものの、その一部は眠っている状態。厄介なことに本人は起きていると思っており、たとえば乗り物を運転中などでは視覚情報の欠如や一瞬の不注意と思われるような事態が起こり、事故につながる)」となっている場合があり、周囲からこのような状態は気付かれづらく、診断が遅れることがあります。是非次のようなことがあったら是非医療機関を受診して相談するようにしてください。
- 大きないびき: 同室のひとが寝られないくらいの大きないびき。
- 無呼吸: いびきに伴うことが多い、睡眠中の一時的な呼吸停止(家族に指摘されることが多いですが、本人が窒息感で目が覚めることも)。
- 強い眠気: 日中に突然の眠気を感じ、仕事や会議中に居眠りしてしまうこともある。
- 全身の倦怠感: 疲れが取れない、体が重いといった感覚が続く。
- 頭痛: 特に朝に頭痛がする
- 寝起きの口やのどの渇き: 口呼吸になりやすいため、朝起きた時にのどがカラカラに乾いている。
- 起床時の頭痛や倦怠感: 睡眠が十分にとれていないため、すっきり起きられない。
むかし「24 時間働けますか」というコピーがありましたが、現在はもってのほかです。睡眠をもっと大切に考える社会なるよう、夜勤や 24 時間営業店などのありかたも今一度考えるべきときに来ているような気がします。
今日も早く床に就いて明日に備えたいと思っております。愛犬のマルが夜中布団に上がってきて院長を起こさないようにしてくれることを祈りつつ。
