ひとつの症状にも様々な病態があります。診察中は症状に関わることなんでも話して下さい。
もう 10 年以上前のハナシですが、2013/12/14 の東洋経済オンライン(https://toyokeizai.net/articles/-/26424)で大人用オムツの売上高が子供用のそれを上回った、というニュースがありました。高齢社会のリアルワールドデータとして非常に象徴的な内容ですが、それからもう 10 年が経過してしまいました。
最近当院の外来でも「尿もれをなんとかしてほしい」ということで受診される 50 歳以上の方は多いです。このとき、われわれ泌尿器科医はまず尿路(尿の通り道、すなわち腎・尿管・膀胱・尿道を指します)の異常、特に下部尿路と呼ばれる膀胱・尿道異常の有無について問診、診察をします。
しかしながら尿路のみが原因ではない尿失禁が意外と多いのです。例えば糖尿病でコントロールがついていない方。40 代、元気そうなやや小太りの男性が尿失禁を訴えたらまずは血糖値と尿糖チェックは必須です。院長も尿失禁をなんとかしてほしい、として来院された初診の 40 代男性にすぐ随時血糖値を測定したところ、520(200 を超えていたら要注意の数値です)でただちに糖尿病治療を開始した経験が少なからずあります。
そういった尿失禁の原因を、福島県立医科大学会津医療センターの 山中克郎 先生がわかりやすくまとめています。
D: Drug(薬物)
I: Infection(感染症)
A: Atrophic vaginitis(萎縮性腟炎、女性のみ)
P: Psychological(精神科/心療内科疾患)
E: Endocrine(内分泌系の異常、糖尿病など)
R: Restricted mobility(運動制限)
S: Stool impaction(宿便)
頭文字をとると "DIAPERS" で「オムツ」の英単語になります。
クリニックに泌尿器科の症状で来院したとしても、その症状をつきつめていくと実は泌尿器科以外の病気によるもの、ということは他分野もふくめて医療ではよくあることです。こういった場合に正しい診断にたどり着くには十分な問診が必要です。尿もれなどは、特に女性は男性医師には細かく説明しづらいと思いますが、些細なことでも構いません。必ず現在ある症状を余さずわれわれに伝えるようにしてください。患者さんが話してくれる症状に関する情報が診断確定の大きな助けになります!
写真は山中先生の名著である『外来を愉しむ "攻める問診"』です。時間が限られている外来診療ですが、なるべく患者さんから効率的に診断へとつながるような情報を引き出していく話術・問診術をこれからも勉強していきたいです。