ふたりの藤子不二雄先生が生み出した多くの素晴らしい作品に育てられて 48 歳になった今、ふと思ったこと。
子どもの頃に読んだ本や観た映画は強烈にアタマに残るものですね。それらが名作であればあるほど。院長の両親はいろいろとあって離婚しました。院長が小学校高学年になったとき、「気づいたら親父が家からいない」、という感じだったのでふたりにどのようないきさつがあったかは子どもの自分にはよくわかりませんでしたが。幸い、そのあとは母親とその母、すなわちおばあちゃんが自分を立派に育ててくれましたのでふたりは大変感謝しています。
院長は二学年上の兄と二人兄弟ですが、父親はまだ一緒に住んでいるとき、家族のなかで明らかに弟である院長との仲が一番良かったです。なぜかはよくわかりませんが両親が別れたひとと話すと、「父親は子どもの年若い方(要するに末っ子)と仲良くなりがち」という "あるある" が(院長調べですが)、あるようです。
そんな父親ですが、よく自分に名作マンガを買ってきてくれました。ひとつは今でもときどき読み返す藤子不二雄先生(当時はまだ A 先生と F 先生が分かれていなかった)の『まんが道』。愛蔵版のものすごく分厚いやつです。小学校高学年であの作品を読んで影響され、いきなりマンガを当時の算数ノートに描き始めたものの、あまりの大変さに 3 時間で漫画家を諦めたことを今でもよく覚えています。人物はともかく背景をちゃんと描くのってホント大変でした。
『まんが道』のなかにも出てくる藤子不二雄先生による初めての単行本が『UTOPIA・最後の世界大戦』。これは 1953 年ですからもう 70 年以上前の出版で、内容的には(『まんが道』作中作で読んだのと、復刻版が出た 2011 年に購入して初めて "通し" で読みました)手塚治虫先生の世界観に似た SF モノなのですが、戦後わずか 8 年でこのような作品を、しかも当時まだ 20 歳前の若者が描いたということを考えると驚くほどの完成度を誇る作品です。
この "ユートピア"。イギリスの思想家トマス・モアが生み出した言葉で「理想郷」として登場する架空の国家です。ユートピアの「ユー」は英語の "No" で「トピア」が場所を表す "Place" と組み合わせてできた単語、というのが皮肉好きの英国人ならでは。
医療制度についても、院長が医学生の頃、すなわち 30 年くらい前までは、すでにバブルは弾けておりましたが、講義や実習で教授たちが「日本の医療制度は素晴らしいものです」と言っていました(特に米国のそれと対比して)。しかし、現状をみてみると問題は山積みです。
- 増大し続ける社会保障費(「医療費」とは言っていないことがポイント)
- IT 化・DX 化が遅々として進まない旧態依然とした臨床の現場(いまだに FAX とか使わないといけない・・・)
- 技術を磨いても、患者さんのために休日返上で頑張っても経済的な見返りの少ない医療者の給与体系(主任教授まで出世して診療はもちろん、教育や研究、教室の運営などをこなしても大学からの年収は 1x00 万円で診療していない基礎医学系の教授とあまり変わらなかったりする)
- 医療における最後の砦ともいうべき国立大学病院の大赤字状態(重症患者さんに高度な薬を投与したり、世界標準であるはずのロボット支援手術(手術コストが高いにもかかわらず腹腔鏡手術と保険点数の差がなかったりする)を行えば行うほど赤字が積み上がっていく)
- これまでは医師のやりがいだけでなんとかやってきた "大変" な診療科(消化器外科・心臓血管外科・脳神経外科など)に進む若手は少なくなり、"ラクでコスパ・タイパのよい" 診療科が人気になる(直美(ちょくび)などの社会現象)
・・・書いていて少し暗くなってきてしまいました。医療制度が生活における満足度に占める割合は大きく、どんなに理不尽な世の中でも「医療機関に行けばきちんとヒトとして診療が受けられる」という安心感の現代の日本において極めて大切なセーフティネットです。しかしながら、限られた経済的・人的・時間的資源をどう分配するかという点で、必ずトレードオフが生じます。たとえば、患者負担を軽くすれば医療へのアクセスは改善されますが、財源の逼迫が避けられません。一方で費用抑制を優先すれば、現場の医療者は疲弊し、サービスの質が落ちていきます。
「どこかに完全な答えがあるはずだ」と考えてしまうと、現実とのギャップに失望し、制度そのものへの不信感を強めることにもつながります。ユートピアが「存在しない場所」と名付けられたように、医療における理想郷もまた幻想。できれば政治家や政治に関して社会に発言する立場にある方は、是非とも耳触りの良い言葉ではなく「どういったやり方が最も優れたトレードオフか」ということをしっかりと表明してもらいたいと思います。「医療を取り巻く状況が一度ボロボロにならないと一般のひとも医療者もわからないのでは」とシニカルに諦観する医師も院長のまわりにはいますが、ほかの分野はともかく、「医療がボロボロになる」ことは絶対に避けなければいけないはずです。近い未来において、医療制度についての政策が選挙の焦点になることを期待したいと思います。
・・・大好きなマンガのことを書いていたのが一変してだいぶマジメなブログになってしまいました。本日の診療中、特別考えさせることがあったわけではありません。念のため。
