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まだあまりマスコミなどで使われていない新しい疾患名 "ダイアベティス" について、最近当院でも多く使われているおくすりについて考えてみました。

[2026.06.06]

「糖尿病」が「ダイアベティス」と疾患としての名称が変わる。こう言われてだいぶ時間が経ちましたが、現時点でなかなか普及していないようです。「痴呆症」が「認知症」になったり、「精神分裂病」が「統合失調症」になったりしたのは「日本語 ⇒ 日本語」なので高齢の方でもわかりやすいような気がしましたが、ダイアベティス・・・一般の方が簡単に覚えられないのかもしれません。ただ、"ダイアベティス" の患者さんがひとり海外で体調不良になったとき、カタコトの英語で "ダイアベティス(Diabetes)" と周りの方に伝えることができれば大切な命が救える可能性もあるなぁ、とか思うとこういった変更も意味あるかも、なんて思ったりもします。まずは状況を見守りたいと思います。

"ダイアベティス" に関して、他の施設でもそうだと思いますが、当院でもここ数年、いわゆる「痩せ薬」に対する関心が一気に高まっているような気がします。ネットや SNS で大量に出てくる "痩せ薬としての GLP-1 受容体作動薬"。このクスリが出てきたことにより、これまでなかなか体重を落とせなかった方が、比較的短期間で大きく減量できるケースが増えてきました。当院ではあくまで "ダイアベティス" と診断された患者さんに投与しており、痩せ目的の患者さんには処方しておりませんが。

これは医学的にみると大変大きな進歩です。肥満は、単に「見た目」や「自己管理」の問題ではありません。"ダイアベティス" のほかに高血圧・脂質異常症・睡眠時無呼吸症候群・脂肪肝・心血管疾患はもちろん、整形外科領域ですが膝や腰の痛み、さらに泌尿器科領域では尿路結石症や ED など、多くの疾患と関係する重要な健康問題です。したがって、医学的に必要な方に適切に薬を使い、体重を減らすことには大きな意味があります。

しかし一方で、安易にこれらのクスリを「痩せ薬」としてリスクを考えずに使用する風潮には、少し注意が必要です。なぜなら、薬で体重が減ったことと、肥満に関連する疾患が “治った” ことは同じではないからです。2026 年に BMJ という、医療におけるプラチナジャーナルに発表された体系的レビュー・メタ解析では、肥満治療薬を中止したあとの体重変化が検討されました。その結果、薬をやめると体重は平均して月に約 0.4 kgずつ戻り、約 1 年半から 2 年で治療前の体重に戻ると推定されています。さらに、薬によって改善した血圧、血糖、脂質などの数値も、使用を中止してしまうと徐々に元に戻っていくことが示されました。

つまり、「薬を使っている間は痩せる。しかし、薬をやめると戻りやすい」ということです。これは決して、「だから痩せ薬は意味がない」という話ではありません。GLP-1 受容体作動薬は非常に強力なツールです。ただし、スマホも PC も悪用しようと思えばいくらでもできるように、これらもツールである以上、使い方を間違えると期待した効果は得られませんし、ときにはネガティブな効果ばかりが出現してしまうことがありえます。

これについては、たとえば降圧薬を考えてみましょう。血圧の薬は、飲めば基本的に血圧は下がります。しかし薬をやめれば多くの場合、血圧はまた上がります。だからといって「血圧の薬は意味がない」とは考えません。必要な人には継続的に使う価値があります。肥満症治療薬も、ある意味ではこれに近い面があります。肥満症を慢性的で再発しやすい病気と考えるなら、薬を長期的に使うという選択肢もあり得ます。ただし、高血圧の薬と少し違うのは、肥満症には食事、運動、睡眠、ストレス、生活リズム、社会環境など、血圧(もたくさんの要因があるのですが)よりもさらに多くの要素が関係しているという点です。特に食事というのは自分だけで黙食している分にはよいですが、接待として摂取する場面もあれば、社交の場として利用される場面もあるなど、患者さんの社会的状況と極めて深く関わりますので一概に「控えましょう」というのが極めて難しい。これが高血圧における塩分なら、「食事のときは、ラーメンや焼きそば、カレーなど、"一皿・一杯で完結する料理" は塩分が多いので定食などにしましょう」とか言えるのですが、「食事自体のカロリーを ◯◯ kcal まで減らしてください」とはなかなか言いづらいものがあります。

薬だけで体重を落としても、生活の仕組みが変わっていなければ、薬をやめたときに体は元の状態へ戻ろうとします。人間の体には、体重を一定に保とうとする強力な仕組みがあります。体重が減ると、食欲が増えたり、消費エネルギーが下がったりして、体は「失った体重を取り戻そう」とします。これは意思が弱いからではなく、生物として自然な反応です。だからこそ、「痩せ薬」を使うときに大切なのは、この GLP-1 受容体作動薬を “ゴールにしない" ことです。薬は、生活を変えるための “きっかけ” として使う。これが最も現実的で、患者さんの利益につながる使い方だと思います。

薬によって食欲が落ち、体重が減り始めると、体が動きやすくなります。膝や腰の負担が軽くなり、階段を上るのが少し楽になります。睡眠時無呼吸が改善する方もいます。血糖や血圧の数値が良くなる方もいます。この時期は、生活習慣を変える絶好のタイミングです。たとえば、食事の量だけでなく「質」を見直す。甘い飲み物や間食を減らす。タンパク質を適切にとる。野菜や食物繊維を増やす。夜遅い食事を避ける。いきなり激しい運動をするのではなく、まずは歩く時間を少し増やす。睡眠時間を確保する。こうした地味な取り組みを、薬の助けを借りながら定着させていくことが重要です。薬を使って体重が減っているのに、「食事は前と同じ」「運動もしない」「睡眠不足もそのまま」「薬をやめた後のことは考えていない」という状態では、薬を中止した途端にリバウンドしやすくなります。是非とも薬を "きっかけ" にするようにできるとよいですね。

最後に生活習慣病で大事だと思うこととして、最初から “出口戦略を考えておくこと" でしょう。GLP-1 受容体作動薬なら、始めるときには、「どれくらい体重を減らしたいか」だけでなく、「どの状態になったら薬を減らすのか」「薬をやめる可能性があるなら、その前に何を身につけておくのか」を一緒に考えておく。本来、肥満症治療の目的は、単に体重計の数字を減らすことではありません。血圧を下げる、血糖を改善する、脂肪肝を改善する、睡眠をよくする、膝や腰の負担を減らす、将来の心筋梗塞や脳卒中のリスクを下げる。つまり、健康寿命を延ばすことが目的です。そのためには、体重だけを見て一喜一憂するのではなく、腹囲、血圧、HbA1c(← 血糖コントロールの指標となる採血項目)、脂質、肝機能、腎機能、睡眠、運動習慣、食行動などを総合的に見ていく必要があります。

当院では、痩せ薬を単なる「体重を落とす薬」としてではなく、生活習慣を整え、健康を取り戻すための選択肢のひとつとして考えています。薬を使う場合にも、食事、運動、睡眠、合併症の管理を同時に進めることが大切です。「薬で痩せる」のではなく、「薬をきっかけに、痩せた状態を維持できる自分をつくる」。これが、これからの肥満症治療において最も大切な考え方のように思います。

一緒に考えながら "ダイアベティス" と付き合っていきましょう。

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