むかしテレビに新幹線ができる前に「ひかり・こだま・のぞみ」と名付けられた 3 兄弟が出ていてびっくりしました。
世の中には何組かの有名な "3 兄弟" がいます。古くは中国地方の戦国 大名・毛利元就の息子、隆元・元春・隆景(三本の矢で有名ですが、そのときは長男の隆元はすでに没しており、このハナシを聞いたとすれば孫の輝元であったと言われますが)が、浅井長政とお市の方の遺児、茶々・初・江(兄弟ではなく姉妹ですが)。最近ならボクシングの亀田 3 兄弟とかでしょうか。医学の世界では幕内 3 兄弟(全員外科医で長男の博康先生が元・東海大学名誉院長、次男の雅俊先生が元・日赤医療センター名誉院長、三男の晴朗先生が聖マリアンナ医科大学名誉院長、というスゴい経歴です)が有名です。ちょっと前に「だんご 3 兄弟」なんてのもありましたが。
幕内晴朗先生は心臓血管外科医でしたが、心臓といえば心電図。当院でも特定健診受診の方や高血圧などの心血管系疾患をお持ちの方、ときどき来られる胸痛や腹痛(腹痛が心筋梗塞の初期症状、なんてこともあるので)の患者さんなど、多くの方に行われる検査です。心電図は 1903 年にオランダの生理学者・医師のウィレム・アイントホーフェン先生によって測定されたのが初と言われており、アイントホーフェン先生はこの業績によって 1924 年にノーベル賞を授与されています。現在も心電図の波形に P, Q, R, S, T, U と名付けられているのは先生がそのように決めた名残です。その後 1930 年代、東大の循環器科医、呉建 先生によって心電図の臨床応用・発展が進められ、呉先生は 6 度もノーベル医学・生理学賞に推薦されています(残念ながら受賞はありませんでした)。
第二次世界大戦後は電子工学の進歩により、心電計は急速に小型化され、病院だけでなく当院のようなクリニックや救急の現場でも利用可能となりました。1960 年代にはトランジスタ化、1970 年代にはデジタル化が進み、データ保存や解析が容易になりました。さらにホルター心電図(長時間記録用の携帯型心電図)が登場し、日常生活中の不整脈や虚血発作の検出が可能となりました。
21 世紀に入ると心電図はますます身近なものになっていきます。その一般化に貢献しているのがスマートフォンやウェアラブルデバイス。これらに搭載された簡易心電図機能により、患者さんが症状を自覚する前に治療を要する不整脈を拾い上げることができつつあります。AI 解析の導入も進み、従来では見逃されやすかった微細な変化の検出や、心不全・突然死リスクの予測にも応用が広がっています。
このように、心電図は約 120 年の歴史を経て巨大な実験装置から日常的な健康モニタリングツールへと進化しました。医師の診断を助けるだけでなく、患者自身の健康管理に役立つ技術として、今後もさらなる発展が期待されています。ただ、よく「スマートウォッチみたいな手首につけるウェラブルデバイスで全部わかればよいのに」みたいなことをおっしゃる方がいますが、それはちょっと難しそうです。
現在標準的な心電図検査を行うにはカラダに 10 個も電極を装着します(1 つはアースのため)が、これは心臓の電気的活動をとらえるのに「観察する方向」が 12 個必要なためです(ですので通常の心電図検査は「12 誘導」と呼ばれます)。例えば「心臓がどこでリズムを取っているか」とか「心臓全体の電気の流れ(電気軸)」を確認するには I 誘導と II 誘導が必要ですし、心房という部分に負荷がかかっているかどうかは II 誘導と V1 誘導がほしいですし、心筋梗塞でどの血管がやられているか類推するにはさらに多くの誘導で記録した心電図が必要です。今後 AI の進歩によって、病気になる前に患者さんのデータや家族歴、喫煙歴など様々なパラメータを細かく入力しておいたうえでそういったウェラブルデバイスを使うときちんと重大な心疾患を予測できる・・・みたいな未来が来ることを待ちたいと思います。
ところで冒頭で紹介した 3 兄弟、最近の芸能人でいえば 菅田将暉さん・こっちのけんとさん・菅生新樹さんが有名ですね。次男のこっちのけんとさんが 2024 年の紅白歌合戦で歌ったのが「はいよろこんで」(https://www.youtube.com/watch?v=jzi6RNVEOtA&list=RDjzi6RNVEOtA&start_radio=1)。この歌のサビ前歌詞に「鳴らせ君の 3 から 6 マス トントントンツーツーツートントン」というフレーズが出てきます。これは心電図でわれわれが心拍数を確認するときにチェックする "RR 間隔" と呼ばれる範囲の基準値で、3 マス = 心拍 100 回/分、6 マス = 心拍 50 回/分 で「3 から 6 マス」が基準値範囲内、ということで、実にわれわれ医療者が聴いていて嬉しい歌詞になっています。
面白いところに目をつけるひとですね(^o^)
