わかっちゃいるけどやめられない、というのは本当にそうなんです。
30-40 年くらい前までは、テレビを観ているとなんかカッコ良さげな白人男性が馬に乗ってなんか美しげな女性を助けてなんか素敵げな風景に向かって走り去っていく、みたいなキラキラげなタバコのコマーシャルがたくさんありました。特に洋モク(この言葉はもう死語みたいですが)の CM です。あとは JT も「・・・あっ、ディライト」「あなたにジョイフルタイム」とかいって タバコ産業ながら、良いイメージを売っていました。すでにテレビや成人確認なしのネットでのタバコ CM は禁止されている現在から考えるとゆるやかな時代でした。
そして JT が 1998 年に株式公開買い付けをして子会社化し、院長が がん研有明病院 でレジデントしていた頃にはさかんに制吐薬である「セロトーン」を売っていた鳥居薬品が塩野義製薬が株式公開買い付けをしたあとの今年 8 月、株式上場廃止となりました。タバコ関連産業が世の中の表舞台からは一歩引いたところに下がる。時代の流れですね。
そんなタバコですが、ここ秦野は伝統的にタバコと関連が深い街です。秦野は江戸時代、18 世紀初期に起こった富士山噴火に影響で、降り積もっった火山灰により土地が痩せてしまいます。そんな土地でも容易に栽培できることから葉たばこが広がり、国分(鹿児島)・水府(水戸)と並んで「三大葉たばこ産地」に数えられていました。そのため戦後の 1984 年まで地域の大きな地場産業であり、その伝統により、現在も「秦野たばこ祭り」は市内最大のお祭りです(当院も少額ながら地域振興のためと寄付をしています)。
そんなタバコですが、当院では敷地内禁煙、日々患者さんには節煙・禁煙を呼びかけるなど、現在は健康を害する代表的な嗜好品と考えられています(実際にそうなので仕方ないのですが)。
このタバコについて、ただただ「減らせ、やめろ」と言っても上手くいかないので、これまでに科学的根拠(エビデンス)が示された治療法について紹介します。まずはバレニクリン(商品名チャンピックス)。これは、ニコチン受容体の部分作動薬であり、禁煙支援において最も効果的な薬剤の一つとされています。複数の研究結果から、バレニクリンはプラセボや他の禁煙薬(ブプロピオンやニコチン代替療法)よりも高い禁煙成功率を示しています。ついでシチジン。これはタバコのニコチンを分子構造が類似している天然アルカロイドで、ニコチンがくっつく "鍵穴" に先回りすることで禁煙を助けます。JAMA Network という、由緒ある雑誌でその有用性はニコチンパッチよりも高そうだ、という結果が出ています。
あとはアプリなどのデジタルデバイスの導入で禁煙維持率の向上がみられたり、経済的インセンティブとして、「減煙・禁煙するとボーナスを与える」という動機づけをつけた会社では喫煙本数が有意に減少した、などの研究があります。
禁酒やダイエットについての論文にも通じることですが、喫煙や飲酒、甘いものを食べるようなきっかけ(トリガー)を徹底的に断ち切る。例えば「ランチのときに必ず吸ってしまう」ヒトは、日々のランチを「(禁煙である)オフィスで食べる」ようにする、とか。これは 2-4 週間の初期に有効性が高いと言われています。
いずれにしても、ただ「やめろ」と言ってもなかなかやめられません。ですので最近よく精神医学で取り入れられているのが「認知行動療法」です。これについては日記などの記録をしっかりとつけたり、セルフトークとして自分と対話するようにしたり、それに特化したスマホアプリなどを活用すると上手くいく確率があがるとのことです。これについて深堀りしたいのですが、TED talk のなかに素晴らしくわかりやすいものがあります。ジョナサン・ブリッカー博士によるこの方法についての説明です。院長は昔から駄菓子が好きで、どうしてもついつい「蒲焼さん太郎」とか「チョコバット」などの "子供の頃からのおなじみの味" を(安いせいもあり)スーパーに行くと買ってしまう、ということがありました。しかしながら 10 年ほど前にこの動画を観てからだいぶコントロールできるようになった気がしています。
どうしてもなにかをやめたいのにやめられない、という方、観てみてください。参考になると思います(https://www.youtube.com/watch?v=tTb3d5cjSFI)。
