わが国の医療はいいところがたくさんあるので "パッケージ化" して諸外国に日本式医療機関とか建てられないものでしょうか。
少し前に 2023 年度の国民医療費が 48 兆円 915 億円、という報道がありました。前年度と比較すると 3.0% 上昇です。昨日選挙投開票日でしたがいくつかの政党が「医療費が高すぎる」ということを述べておられました。それが正しいとすると、医療費を下げる、ということが是となります。開業医という立場で気持ちを隠さず言えば、経営のことを考えると医療費削減は、昨今の非常に厳しい経済状況では「お願いですのでやめてもらえませんか」という気持ちです。
こういった場合、医学にかかわらずサイエンスの世界ならば必ず "比較" をするはずです。「◯◯ という薬が優れている!副作用が少ない!」と声高に述べたところで誰しも「・・・何と比べて?」となりますので。では日本の医療費について、対 GDP 比で諸外国と比べてみましょう。
まず、2024 年時点における OECD 諸国の医療費(対GDP比)の現状をみてみると、調査対象国の中で突出して高い水準にあるのは米国で対 GDP 比 17.16%。これに続くのが、ドイツ(12.27%)、オーストリア(11.78%)、スイス(11.77%)、フランス(11.54%)といった欧州諸国。日本はというと 10.63%で G7 の中では中間くらいに位置しており、英国(11.13%)をやや下回り、イタリア(8.44%)を上回る水準でした。こうみてみると、「日本の医療費は高すぎる」という議論は本当に言い切っていいのか、少し立ち止まる必要もあるのではないかと思います。
ただし、この医療費のなかで「公費」、すなわち日本でいえば「社会保障費」などの国民負担(税金および税金みたいなものも含む)でまかなっている部分が全体の 85% と多くを占めます。そして日本の医療といえば「国民皆保険」。すなわち「医療へのアクセスの良さ」が間違いなく世界トップクラス。保険証一枚(マイナ保険証とかになったのでもう「一枚」ではないのですが)で全国どこでも受診でき、待ち時間はあるとしても「受診そのものができない」ケースは極めてまれ、という国です。OECD 諸国でここまでアクセスを広く保障している国は少数派で、英国は家庭医によるゲートキーパー制、アメリカは保険加入状況で事実上の壁が立ちはだかり、ドイツやフランスも紹介制・役割分担がより明確となっています。これは日本が誇ってよい制度だと思います。
しかも医療費についても「自己負担は原則 1〜3 割」・「高額療養費制度あり」・「医療破産が社会問題になりにくい(少なくとも院長のまわりではほとんど聞いたことがありません)」などの(特に)アメリカと比べたときの決定的なアドバンテージがあります。
しかし一方で問題は「その安い医療費負担と良好なアクセスを誰が担っているか」。当然医療をあまり利用しない若者と、医療者の献身によりまかなっている事実です。これは短期的には優秀ですが、長期的には持続性に黄信号で、ついにここ最近は黄信号が赤信号に点滅しつつあるように感じます。
現在のような「医療ユーザー(主に高齢者)フレンドリー」・「負担者と医療者ハードモード」はそろそろ見直す時期に来ているように思います。そのためには当院のような小さなクリニックをはじめ、いくつかの医療機関が統合したり整理されたりする "痛み" も必要かもしれません。そして基幹病院の役割、地域の小さな医療機関の役割、高齢者の介護を主として担当する施設の役割、在宅医療の役割など、これまで曖昧にして少し誤魔化してきたものを、さすがにそろそろ大きな視点で総合的に考えて整理・統合するタイミングになったのではないかと愚考します。
自民党が大勝した衆議院選挙でしたが、新しい政権にはそんなことを期待して、あまり詳しくない政治にも関心を持っていきたいそろそろ 50 歳の院長でした。
