われわれ医療者は "ベストを尽くします" としかいえませんが、実際に "結果はすべて" とも思ってひとりひとりに向き合っています。
最近睡眠についての知識をこのブログで数日続けて述べています。このように「ブログに書く」とか「YouTube 等で話す」「まわりのひと(院長の場合は患者さんなど)に伝える」というのはなにか "習慣づけ" とか "知識を増やしたい" "勉強したい" ときにはとても有効な方法です。たとえば「自分は弁護士になる!だから毎日 12 時間以上勉強する!」と YouTube などで宣言したひとが、「今日は近所にできた美味しいラーメン屋さんをレポートしま〜す♬」という動画はなかなかアップできません。人はだれでも「言行は一致させたい生き物」だからです。ですから最近ときどき診療のときに「毎日毎日長文のブログを書いておられて大変でしょう」と言ってくださる患者さんがいますが、大丈夫です。アウトプットすることで自分へのインプットになっていますので。このブログは半分は患者さんへの情報提供、半分は自分のための知識整理および日記的な記録を目的として書いています。
そして今回で睡眠に関する話題は最終回。当院で治療されている方も多い、「閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)」についてです。これは先日も紹介した 2003 年 JR 山陽新幹線岡山駅でおきた事故で有名になりました。東京行の新幹線が、所定の位置より約 100 m 手前で止まり、3 両ほどがホームからはみ出したままとなりました。車掌が運転席に駆けつけると、運転士は腰かけたまま眠っておりました。運転士は停車後も車掌に起こされるまで眠り続けていました。この運転手は体重 100 Kg を超えるいわゆる肥満タイプであり、「5-6 年前から睡眠中に何度も目が覚める」と周囲に話していました。検査の結果、OSA であることが判明。
OSA が関連した電車事故はその後も数件起きており、県内では 2019 年 8 月の横浜市営地下鉄での事例が報道されています。ブルーラインの踊場駅(この頃院長は上大岡にある病院で外来診療バイトをしていたのでこのとなりの戸塚駅を毎週利用していました)構内でオーバーラン事故が起きました。当該電車を運転していた運転士が事故後に精密検査を受けたところ、重症の OSA と診断されたということです。 ただ横浜市交通局は事故との因果関係について「明確でない」とし、事故の原因は「運転士が居眠りをし、ブレーキを操作しなかったこと」と結論づけた、と報道されています。現在、公共交通機関の運転に携わるスタッフは OSA の有無など、睡眠障害についての検査を 3 年に 1 度受ける必要があります。この運転士はこの事故の 2 年前に検査を受け、「医療措置は不要」とされていました。
この報道がでたときに Yahoo ニュースコメントなどであったのが『「医療措置は不要」と診断した医師は責任をとるべき」という意見です。こういったことは「精神科医師が退院を許可した患者さんが事故を起こしたとき」にも出てくる意見です。
こういった意見に対して医師としては伝えたいのは、「医療は全く万能ではない」ということです。そもそも医学は確率の学問であり、「0 もなければ 100 もない」世界です。院長も勤務医時代に行った手術で数例ですが、「なぜこんな事態に至ったのか今でもわからないし、結局神の視座からしかみえない原因があるんだろうな」というケースを経験しました。具体的には書けませんが。
たとえば OSA に対しては CPAP(シーパップ: 持続陽圧呼吸の略で。鼻または鼻+口に装着したマスクから一定の圧力の空気を送り込み、睡眠中に気道が塞がる =無呼吸になる のを防ぐことで、いびきや日中の強い眠気を改善します)という有効な治療があります。上述の市営地下鉄の事例で、この運転士に OSA の診断が確定していて、普段はしっかり CPAP を使っていたにもかかわらず事故を起こしたとしましょう。このとき、報道には「OSA の運転士がちゃんと医療機関にかかって CPAP も使っていたにもかかわらず事故を起こしました」程度の情報しか出てきません。しかしながら、実際は以下のような点が検証されるべきです。
・この運転士の CPAP の使い方は適切だったか
・前日に夜ふかしなどしていなかったか
・その日の勤務環境にいつもと異なる過酷さがなかったか
・OSA とは関係なく、運転中に居眠りしてしまうような別の睡眠障害が新たに発症していなかったか
などなど。ストーリーがわかりやすいニュースがあったらそれを鵜呑みにせず、背景に少し思いを馳せてみることがリテラシーです。われわれ医療者ができること、は少しでも「こういった疾患があること」「決してまれではないこと」「医療に 100% や絶対はないこと」などをしっかりと啓蒙していくことでしょうか。
ということでおやすみなさい!
