クリニックでフルーツを販売する、ということはあまりないと思いますが当院では ◯◯◯ の患者さんのために用意しています。
膀胱炎は最も一般的な細菌感染症のひとつであり、女性に多い病気で、当院にも少なくとも 1 日に 1 名は膀胱炎の患者さんがいらっしゃる、という印象があります。今年の 8 月 30 日、日本経済新聞の紙面上で「酷暑疲れとぼうこう炎」というタイトルで取材を受けた記事が掲載されました。記事のなかで院長と一緒に出ていらしたのが東大の教授を経て日赤医療センター院長を歴任し、現在は杏林大学特任教授でいらっしゃる本間之夫 先生でした。数回自分の講演で座長をしていただいたことがあるのですが、本間先生とご一緒できて大変光栄でした。
そのなかで、膀胱炎についてのハナシをいろいろととさせていただいたのですが、ひとつ言いたかったものの、「日本のエビデンスがあまりないから」ということで言わずに済ませたことがあります。それがクランベリージュースの効果です。
クランベリージュースは欧米ではずいぶん前から「膀胱炎の痛みを和らげたり、予防したりする、よく知られた民間療法」として飲まれてきました。特に米国の泌尿器科医が言っていたのですが、「アメリカでは膀胱炎だけで受診する、っていうひとはそんなに多くない。クランベリージュースとか水を大量に飲んで 1 週間くらい頑張るっていうケースが多いんじゃないか」と聞いたことがあり(その先生はシカゴからクルマで 3 時間くらい離れた田舎で診療しているひとだったのですが)ます。実際にいくつかクランベリージュース vs. 抗菌薬、という研究もあります。ただしクランベリージュースで膀胱炎が抗菌薬と同様に治療効果がある、という報告はありません。
ただ、英国の BBC が行ったアンケートでは、「多くの女性がクランベリージュースで膀胱炎が治る、再発も防げると信じている」と回答しており、そういう方は常に冷蔵庫にクランベリージュースを常備しているそうです。クランベリーが注目される理由は、キナ酸や強力な抗酸化作用を有するポリフェノール(なかでも「プロアントシアニジン(proanthocyanidins)」)を含んでいるためです。これは細菌が膀胱の壁に付着するのを防ぐと考えられています。リンゴジュースやブドウジュース、ダークチョコレートにも同じ成分が含まれていますが、クランベリーのものとは種類が違います。そのため、理論的には(顕微鏡上、またはヒト以外の生体を用いた実験では)クランベリージュースを飲むことで膀胱炎を予防できる可能性を示唆するデータが示されています。
ちなみに 2012 年頃に報告された系統的レビュー(いくつかの論文をまとめたもの)では、クランベリーを含む製品が膀胱炎の発症リスクを減らす可能性があると報告されています。特に、繰り返し膀胱炎を起こす人や、1 日 2 回以上ジュースを飲む人で効果が高いようです。錠剤よりジュースの方が有効とされる理由は、有効成分の吸収が良いためと考えられています。ただし、すべての研究で同じような効果が出たわけではなく、試験ごとに差がありました。一方、その 3 か月後に発表されたコクラン共同計画(Cochrane Collaboration)のレビューでは、異なる結論が示されました。このレビューでは、24 件の臨床試験を分析しましたが、クランベリー製品を飲むことで感染を予防できる「可能性はあるが、明確な証拠は得られなかった」という結論でした。これらの研究では、参加者は少なくとも 1 か月間、クランベリージュースを摂取していました。
そのなかで、この系統的レビューで大きな影響を与えた研究を紹介しましょう。319 名の女性を対象にした比較的大きな研究です。過去に膀胱炎を起こした女性を、(A) 1 日 2 回クランベリージュースを飲む群、(B) クランベリー成分を含まない「偽ジュース(見た目・味ともに同じ)」を飲む群、に分けて 6 か月間追跡しました。この研究では再発率に差は見られませんでした。ただ、この研究における偽ジュースは、実際にクランベリー製品を製造するオーシャンスプレー(Ocean Spray)社が提供しており、味と見た目があまりにも似ていたため、本当に "偽" だったのか疑問が残る、という Letter が出されたりしているので、ちょっと微妙なところとなっています。
まあ、現時点での結論としては、クランベリージュースは膀胱炎の再発を減らす可能性があります、と言うにとどまります。しかも、効果を得るには毎日2回、長期間飲み続ける必要があります。多くの人は続けるのが難しく、実際に研究でも途中離脱者が多く見られました。ただし、いくつかの論文でクランベリージュースを飲んでいた群の "副産物" として歯垢の付着予防による虫歯発生や歯周病発症率の低下や皮膚のツヤ(乾燥をおさえる)アップによる美肌効果を実際研究に参加した被検者が実感した、と記載されており、女性(おそらく男性にも)には少なくとも(過剰に飲む、例えば 1 日 3 回 200 cc ずつとかしなければ)プラスには作用してくれそうです。
また、治療目的での効果についても、コクランレビューが調べていますが、現時点では十分なデータがなく、明確な結論は出ていません。「クランベリーで治った」と感じている人もいますが、それが本当にクランベリーの効果か、あわせて飲んだ大量の水分による効果なのか、そのひとの免疫によるもの効果なのかは、対照研究がなければ判断が難しいところです。
結局のところ、尿路感染症に確実に効く治療は抗生物質のみです。このブログでも再三お伝えしていますが、抗菌薬の耐性が増えるなか、膀胱炎のような比較的 "simple and easy" な疾患には抗菌薬に替わる代替療法があるとよいのですが、現時点では院長はクランベリージュースがその「決定打になるとはいえない」と思っています。
しかしながら、1 年に 4-5 回以上繰り返す方や、抗菌薬をなるべく体内に入れたくない、という希望がある患者さんもいらっしゃいますので、当院では(これは宣伝ですが)「クランベリーを中心としたドライフルーツ」を販売しております。美肌効果などが期待できる他のフルーツもあわせてありますので、特に女性をターゲットにしておりますが、ドライフルーツには比較的うるさい院長と院長の息子も納得する味に仕上がっていますので、是非お買い求めいただければ幸いです。
