サプリメントや健康食品で『◯◯ に効く!』と謳っているものはたくさんありますが、何でも鵜呑みにせずに今回書いたことなどを参考にしてみてください。
外来をしていると、患者さんからかなりの頻度で聞かれる質問の一つに「サプリメントは飲んだ方がいいですか?」とか「この健康食品を摂取しても大丈夫ですか」というものがあります。テレビやインターネットでは日々さまざまなサプリ・健康食品(と銘打ったもの)が紹介され、「これを飲めば元気になる」「○○に効く」といった情報が溢れています。その一方で、医療者の立場からすると「それ、本当に効くのか?」という疑問も同時に浮かびます。
まあ結論から言えば、多くのサプリメントは医学的に確立したエビデンスが十分とは言えません。にもかかわらず、現実には多くの方が日常的に摂取しています(統計をとると 1/3 くらいが日常的に使用しているそう)。この「エビデンスは弱いが、需要は強い」というギャップの中で、私たちはサプリメントとどう付き合っていくべきなのでしょうか。
まず大前提として、医療において「効く」と言うためには、しっかりとした臨床試験、特にランダム化比較試験(RCT)によって有効性が示されている必要があります。これは薬剤の世界では当然のことであり、例えば高額な抗がん剤や認知症治療薬などはもちろん、高血圧や糖尿病に対する平時から使用される医薬品ももちろん、少なくともここ最近 10-15 年以内に認可されたものは、厳密な試験を経て承認されています(COVID-19 に対する治療薬など、一部の「迅速審査により承認された薬」を除きます)。一方で、サプリメントの多くはこのレベルの検証を受けていません。もちろん研究が全くないわけではありませんが、対象人数が少なかったり、研究デザインが不十分であったり、結果が一貫していなかったりと、「積極的に推奨できる」と言えるものは限られています。
さらに重要なのは、「効果がないことが証明されているわけではない」という点です。エビデンスが乏しいというのは、「効かない」と断定できる状態ではなく、「よくわからない」という状態です。この曖昧さが、サプリメントをめぐる議論を複雑にしています。
ではなぜ、多くの人がサプリメントを利用し続けるのでしょうか。
一つは、「体に良さそう」という直感的な安心感です。食品由来であること、自然由来であることなどが、ときに「安全である」というイメージにつながっています。実際は植物とか自然のものでもカラダに悪いものはたくさんあるのですが(キノコの毒など)。また、「薬ほど強くないから副作用も少ないだろう」という期待もあります。これも紅麹サプリの事件であったように、単なるイメージで実際とは異なるのですが。
もう一つは、「自分でできる健康管理」という側面です。医療はどうしても受け身になりがちですが、サプリメントは「自分で選び、自分で摂る」という主体性があります。このコントロール感は、健康意識の高い方ほど魅力的に映るものです。
さらに、プラセボ効果(思い込みによる効果)も無視できません。「これを飲んでいるから大丈夫」という安心感が、実際の体調に良い影響を与えることもあります。有名人を CM に使いたがるのもこの効果を狙ったものでしょう。
では医師として、サプリメントをどう捉えるべきでしょうか。基本的には「エビデンスが十分でない。だから原則あまり勧めない」という立場になります。しかし現実の診療では、それだけでは済まない場面も多くあります。患者さんがすでに使用している場合や、強く希望される場合、あるいは「害が少なく、一定の合理性がある」と判断される場合などです。またもうひとつ、院長含め医師自身が使っていて、効果を比較的しっかりと感じられるもの、も院長は自分の責任で勧めることがあります。これは、医学論文の「考察(Discussion) パート」でときどき用いられる、"We believe that ◯◯..." という言い回しに似ています。論文は科学的であることが求められますので、評価方法(Method)と結果(Results)から導かれる内容について論じるのが基本ですが、それらの部分で評価していないことでも、結果から類推される内容について、「今回の検討では触れていないのでまだ確定的なことは言えないが、われわれの研究グループはきっと ◯◯ であることを期待している」と述べることがあります。それと同じ感じで「自分はよいと思うのですが試してみますか・・・?」と聞いてみるのです。これは科学的に厳密な意味での推奨とは異なりますが、長年の臨床経験や知識の中で、「少なくとも変なものではない」と判断できるものに限っています。そのため当院では、「完全に否定もしないが、過剰な期待も持たせない」というスタンスを基本にしています。
院長はサプリメントとの付き合い方として、いくつか大切なポイントがあると思っております。
まず第一に、「主役ではない」という認識です。健康の基本はあくまで、食事・運動・睡眠です。サプリメントはそれらを補うもの(そもそもサプリメント、という単語の意味がそれですし)であって、代替するものではありません。ここを履き違えると、「飲んでいるから大丈夫」と生活習慣が疎かになる本末転倒な状況になります。
第二に、「過剰摂取を避ける」ことです。サプリメントは食品扱いであっても、成分によっては過剰摂取で健康被害を引き起こす可能性があります。特に脂溶性ビタミンやミネラルは注意が必要です。
第三に、「情報の出どころを意識する」ことです。広告や口コミはどうしてもポジティブな情報に偏りがちです。できるだけ一次情報や医療者の意見を参考にし、「なぜそれを飲むのか」を自分なりに説明できる状態で選ぶことが重要です。
そして最後に、「原則として一時的に使う(=なるべくいつからはやめることを前提にする)」ことです。何となく続けているサプリメントは意外と多いものです。効果が実感できない場合や、目的が曖昧になっている場合には、一度中止してみるという判断が大切です。
サプリメントの世界は、科学と信念の中間にあります。完全に科学で割り切れるものではない一方で、全くの非科学でもありません。この曖昧な領域において大切なのは、「盲信しないこと」と「頭ごなしに否定しないこと」のバランスです。医療者としては、「効くかどうかは断言できないが、こういう背景があり、こういうリスクがある」という情報を丁寧に伝える責任があります。そして患者さん自身が、その情報をもとに納得して選択することが重要です。サプリメントは万能ではありません。しかし、うまく使えば「健康への意識を高めるきっかけ」にはなり得ます。その意味で、サプリメントは単なる物質ではなく、「健康との向き合い方」を映す鏡のような存在とも言えるかもしれません。
過度な期待も、過度な否定もせず、適度な距離感で付き合うこと。それが、サプリメントとの最も現実的で健全な関係ではないでしょうか。
ちなみにこれまでに比較的科学的根拠がはっきりしているサプリメントとして、葉酸(特に妊産婦。胎児の中枢神経形成に役立つ)とオメガ 3 脂肪酸とビタミン D(+カルシウム合剤)があること、当院で販売しているサプリメントは院長がすべて試し、その機序が説明でき、効果を感じられたものだけを置いている、ということを一応付記しておきます。
