ハミガキと、のど風邪と、膀胱全摘と。
院長は歯があまりよくありません。小学生の頃からいつも歯科検診で虫歯を指摘され、しょっちゅう歯医者で削られていました。おかげで現在口腔内にたくさんの銀歯があります。よくないですね。その反省から、医師になってからはしっかりと歯磨きをしており(それでも歯科の先生には「ブラッシング・ケアがまだまだ下手」と言われていますが)、あまり虫歯はできなくなりました。
院長がそんな小学生の頃によく家にあった歯磨き粉が「デンター T」というライオンの製品です。院長と同じ茅ヶ崎市立茅ケ崎小学校出身の加山雄三さんが CM に出ており、リンゴを丸かじりして「このハミガキを使うと歯グキから出血しない!」みたいなことを言っていました(ライオンの公式サイトではありませんが、本日 YouTube で検索かけるとこの CM を観ることができました)。このデンター T、末尾の T は製品に含まれている "トラネキサム酸" という成分の頭文字となっています。このトラネキサム酸、風邪のシーズンでよく処方されます。というのは、この薬に「咽喉頭炎の腫脹・出血・炎症」など、いわゆる "かぜ" 症状で来院された「ノド痛」に有効だからです。ほかにもじん麻疹や湿疹に随伴する皮膚の腫脹・発赤にも使われたり、(自費診療ですが)肝斑にも用いられることがある、用途が広い薬です。
最近、そんなトラネキサム酸について、「開腹による根治的膀胱全摘術を受ける患者に対して(止血作用のある)トラネキサム酸の予防投与で輸血が減少するかどうか」を検討する臨床試験(TACT Trial)についての結果が報告されていました。結局トラネキサム酸の輸血減少効果は乏しかった、という結果だったのですが、こういった(新薬ではなく)昔からある薬にライトをあてて小さなテーマであってもしっかりと無作為割付してエビデンスレベルの高い研究成果として論文化することは素晴らしいと思いました。
新しい薬・新規治療のほうが注目され、学会でもスポットライトが当てられやすいのは事実です。しかしながら「持続可能な医療経済」というコンセプトなのか、「昔から使用されているが現在の臨床研究手法で検証されていない薬剤を再評価する」、という動きが最近のジャーナルをみていると確かにあるように思われます。こういった薬に対しては薬品会社が研究費を提供してくれるということはあまりない分、臨床医が本当にほしいデータを手に入れることができるところもあると思います。研究費がないとなかなか有意義な臨床的な検証はできないのですが、こういった研究に資金提供してくれる有志の団体・個人が今後、医療を正しいカタチで進歩させることに協力してくれることを期待しています。
・・・そんなことを思いながら本日も歯を磨いて寝ます。
写真は愛用のタフトブラシです。歯間を攻めるのにちょうどよいです。