中学生のころ "わたしは ちくわ女" っていう絵が大好きだった院長が久しぶりにその漫画家先生作品と再会したのですが、それはある病気の経験に基づくものでした。
精神疾患、というとどんなイメージでしょうか。「よくわからない」「そばにいたら少しコワい」「自分にはあまり関わりがない」・・・。などと思う方が少なくないと思います。ただ、少し前(Kessler, 2007)の国際共同研究によると、日本人で一生の間にうつ病、不安症など何らかの精神疾患にかかる人の割合は 18% と報告されています。18%。5-6 人にひとり。おそらく「多い」と感じると思いますが、この研究によると、先進国のなかでこの数字は少ない方です(30% を超える国もあります)。この中には統合失調症などの精神病性疾患や認知症は含まれていません。現代日本社会の超高齢化を考えたとき、認知症の有病率(12% ほど)を思うと、精神疾患はありふれた病(やまい)(=コモンディジーズ)といえます。
そう考えるとある日突然、これまで普通に生活していた家族や身近な人が、精神科の病気を発症する、これは全く珍しい事ではありません。しかしそうは言っても。そうは言ってもです。その事実を前にすると、多くの人が強い戸惑い・混乱を覚えることでしょう。「まさか、ウチの人が」「気のせいではないか」「周囲に知られたらどうしよう」など。こうした思いから、問題をなかったことにしようとする、あるいはできるだけ隠そうとする行動に出てしまうことがあります。しかし、この「隠す」という選択は、結果として本人の苦しみを長引かせ、家族や周囲の負担をさらに大きくしてしまうことが少なくありません。
映画『どうすればよかったか?』。これは 2024 年に公開された日本のドキュメンタリー映画です。映画監督の藤野知明さんが統合失調症を発症した姉と彼女を取り巻く家族(ご両親)を 20 年にわたって記録したものです。以下 Wikipedia の本映画「あらすじ」から抜粋します。
札幌市で 1966 年に研究者の両親の間に生まれた藤野知明には 8 歳上の姉がいた。面倒見がよく、両親の影響を受け医師を目指したが、1983 年のある日、24 歳の姉に統合失調症の症状が現れる。父は、「姉を診た医師は『全く問題ない』と言った」と知明に告げ、姉を精神科の医療から遠ざけた。1992 年、知明は事実とかけ離れたことを話し続ける姉の声をウォークマンで録音する。この音声は姉の言動を記録した最初のもので、映画冒頭で使われている。知明は神奈川県に就職して実家を離れ、その後映像制作を学ぶ。2001 年よりホームムービーとして、帰省のたびに外出や食事など家族の日常の様子の撮影を始めた。2005 年に知明が帰省した際には、姉が単身で国外に行き保護されたこともあり、実家の玄関に南京錠が取り付けられていた。姉に最初の兆候が表れて 20 年以上が経ち、母に認知症の兆候が表れ、年老いた父一人では姉と母の二人を見ることは限界をきたしていた。
このホームムービーを映画として公開する承諾を得るにあたり、知明は父に問いかける。「当時の医療の水準では満足いく治療が期待できないと感じていたか」「家族に統合失調症の者がいることを恥として隠そうとしたか」そして…。
劇伴やナレーションは用いず、テロップも映像で伝えきれない部分を説明する最小限にとどめている。 (引用おわり)
ちなみに院長はこの映画をまだ観られていません。観たい観たいと思っていたのですが・・・と残念がっていたらその思いが通じたのか、2026 年 2 月 7 日より横浜でアンコール上映されることが決まりました!単館で 11:40 上映なのでなんとか時間をみつけて上映している間に横浜に足を運ぶつもりです。
精神科疾患というと、どこか「特別」「遠い世界の話」という印象を持たれがちです。しかし実際には、うつ病、不安障害、双極性障害、統合失調症など、精神科疾患は誰にでも起こりうる病気です。身体の病気と同じように、
・体質
・環境
・ストレス
・ライフイベント
といった要因が重なった結果として発症します。「性格が弱いから」「気合が足りないから」といったかつての頑固お父さんの意見みたいな理由では説明できないのです。ただ、"がん" 患者さんを「かかったのはアイツが弱いからだ」というひとはいない一方で、精神疾患はいまだに「本人の問題」として扱われてしまう、という悲しい現実があります。
そして最近、以下 3 冊の本を近隣の図書館に置いてあったこと、むかし好きな漫画家さんだった、という極めて "たまたま" な理由で読んだのですが、いずれも精神疾患に関わるものでした。
『うつ病になってマンガが描けなくなりました』。これは院長が大好きだったマンガ、『コージ苑』や『かってにシロクマ』などの作者、相原コージさんの作品。
『フリーター、家を買う』。これは『図書館戦争』で有名な有川浩さんの "ポスト青春小説" 的なノリの読後爽快作品。
『怖い患者』。これは癌研でレジデントだった頃に部長に薦められて一気読みするほど面白かった『破裂』を書いた医師兼作家の久坂部羊さんの作品。
これらについてはそれぞれブログ 1 回分くらいの内容紹介をしたいくらいなのでとりあえず今回は深堀りしませんが、とにかく精神疾患に関わる内容が医師の自分からみてもリアルに描かれています。どの本も面白いので是非皆さま読んでみて下さい。
さて、精神科疾患を発症したとき、本人以上に混乱するのは、実は周囲の人かもしれません。
・どう接すればいいのかわからない
・変わってしまった姿を見るのがつらい
・将来が不安になる
こうした感情が積み重なると、「とりあえず様子を見よう」「外には言わないでおこう」という判断につながります。これは決して冷たい行動ではなく、必死に守ろうとした結果であることが多い。しかし、精神科疾患の場合、「様子を見る」ことはしばしば悪い方向に進んでいきます。
まず、「精神科疾患は適切な診療によって十分回復が期待できる病気である」。このことをわれわれ医療者、特にメンタルヘルスの専門家ではない開業医が、日々の診療のなかで患者さんやそのご家族に十分説明すること。そして同時に大きなストレスを受ける "精神科疾患を発症した人を支える立場にある家族や周囲のひと" に対しても
「自分がしっかりしなければ」と無理を重ねる必要はない、とはっきり伝えること。これらを実践していきたいと思います。
そして、とりあえずのゴールとして「精神疾患患者となった身内を隠さなければならない」と感じる背景にある社会全体の偏見が薄れ、誤解が氷解していくこと。そのために少しずつでも「治療につなぐことが当たり前」という認識をひとつの小さな医療機関ではありますが、伝えてまいります。
早めに専門家につなぐこと、そして一人で抱え込まないこと。まずはこれらがアタリマエの認識になる社会をめざしましょう。
