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"代謝機能障害関連脂肪性肝疾患" と、日本が "優等生" とされる肝臓に関するデータとは。

[2026.07.28]

本日は「世界肝炎デー」・「日本肝炎デー」です。そんな肝臓について考える日に、昨日に引き続き肝臓のおハナシをさせていただきます。「肝臓についてのおハナシ最終日」にふさわしく、昨今極めて多くなった「(いわゆる)脂肪肝」についてです。「いわゆる」とつけましたが、このあたりの名称は最近めまぐるしく変化し、2026 年 4 月の改訂で「MASLD:代謝機能障害関連脂肪性肝疾患」という、非医療者にはなかなか覚えづらい名称となりました。ただ、本ブログでは「わかりやすさ重視」で(いわゆる)脂肪肝として、従来の名称をそのまま使用させていただきます。

さて、「脂肪肝」と聞くと、どのような人を思い浮かべるでしょうか。毎晩かなりのお酒を飲む人。体格の大きな中年男性。脂っこい食事ばかりしている人。そんなイメージがあるかもしれません。もちろん、そのような方に脂肪肝が多いのは事実です。しかし実際の診療では、ほとんどお酒を飲まない方、見た目にはそれほど太っていない方、女性や比較的若い方にも脂肪肝が見つかります。脂肪肝は、「不摂生なひとにみられる病態」というわけではないのです。

肝臓は、余ったエネルギーを中性脂肪という形に変えて蓄える働きを持っています。食事から入ってくるエネルギーが多い、運動量が少ない、インスリンが十分に働きにくい、脂質の代謝に異常がある――そのような状態が重なると、肝細胞の中に脂肪が蓄積していきます。肝臓に脂肪がたまった状態がいわゆる「脂肪肝」です。肝臓はお腹の右上にありますが、皮下脂肪のように外から触って分かるわけではありません。自覚症状もほとんどないため、健康診断の血液検査や腹部超音波検査で偶然見つかることが多くなります。

脂肪肝と診断された方の中には、「脂肪がついているだけですよね」と安心する方もいます。たしかに、脂肪が蓄積しているだけで、炎症や線維化がほとんど進まない方もいます。しかし一部では、脂肪の蓄積をきっかけに肝細胞へ炎症が起こり、修復を繰り返すうちに線維化(硬くなって肝組織の機能が低下する状態)がが進みます。さらに進行すると、肝硬変や肝細胞がんへ至る可能性があります。特に肥満や糖尿病などに伴う脂肪肝炎では、慢性肝炎と同様に肝線維化が進み、肝硬変や肝がんへと進展するリスクは小さくありません。大切なのは、脂肪が「あるか、ないか」だけではなく、その肝臓に炎症が起きているのか。すでに線維化が進んでいるのか。今後進行しやすい条件がそろっているのか。そこを見分ける必要があります。

以前、お酒をほとんど飲まない人に起こる脂肪肝は、NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)と呼ばれていました。その中でも炎症が強いものは NASH(非アルコール性脂肪肝炎)。と呼ばれていました。最近では上述したように、名称が変更されつつあります。肥満、糖尿病、高血圧、脂質異常症など、代謝の異常と関連する脂肪性肝疾患を「代謝機能障害関連脂肪性肝疾患」、英語の頭文字を取ってMASLDと呼ぶようになりました。そして「炎症と肝細胞障害を伴う病態」は MASH です。日本肝臓学会でも、従来の NAFLD/NASH 診療ガイドラインが、今年 4 月から MASLD 診療ガイドラインへ改訂されています。

名称が変わったのは、単に医学者が新しい横文字を作りたくなったからではありません。「お酒を飲まない」という否定形だけで病気を定義するより、肥満、血糖、血圧、脂質などの代謝異常との関係を正面から捉えたほうが、病態の本質に近いからです。脂肪肝は肝臓だけの問題ではありません。血糖値が高くなり始めている。中性脂肪が高い。血圧が上がってきた。内臓脂肪が増えてきた。睡眠時無呼吸症候群がある。そうした全身の変化が、肝臓という臓器に映し出されていることがあります。肝臓は、からだの代謝状態を映す「鏡」と言ってよいのかもしれません。

また、診療で想定される典型例として次のような方がいます。「40 代女性。飲酒習慣はなく、外見上は明らかな肥満ではないものの、健診で ALT 軽度上昇を指摘され、腹部超音波検査では脂肪肝、ここ数年で体重が 5 kg ほど増え、運動習慣がなく、中性脂肪と血糖値も少しずつ上昇」というケース。本人は、「太っているわけではないので、脂肪肝になるとは思いませんでした」と驚きます。しかし、脂肪がどこにつきやすいか、インスリンがどの程度効きやすいか、筋肉量がどれくらいあるかには個人差があります。BMI(体重kg ÷ 身長(m)÷身長 (m))が正常範囲でも内臓脂肪が多い方、筋肉量が少ない方、糖尿病や脂質異常症がある方には脂肪肝がみられます。逆に、体格が大きくても、すべての人の肝臓に強い炎症や線維化が起きるわけではありません。見た目だけでは判断できないのです。

くわえて以前は脂肪性肝疾患を、「お酒によるもの」「お酒によらないもの」と、比較的はっきり分けて考えていました。しかし実際の生活は、それほど単純ではありません。肥満や糖尿病があり、同時に一定量の飲酒習慣もある方は少なくありません。代謝異常とアルコールの影響が重なれば、どちらか一方だけの場合より肝臓への負担が大きくなる可能性があります。現在は、このような病態を MetALD(代謝機能障害アルコール関連肝疾患)として区分する考え方も導入されています。肝炎情報センターも、肥満、糖尿病、高血圧、脂質異常症などの代謝異常と飲酒が重なる場合には、節酒と生活習慣改善の双方が必要、と啓蒙しています。「お酒だけ減らせば、食生活はそのままでよい」でもありません。「体重を減らせば、毎日飲んでもよい」でもありません。肝臓は、人間が作った分類どおりに病気になってくれるわけではないのです。

ではドックや日々のエコー検査で偶然脂肪肝が見つかったらどうするか。まず肝炎ウイルス、飲酒量、薬やサプリメント、血糖、脂質、血圧などを確認します。先日紹介した AST、ALT、γ-GTPだけでなく、血小板数、アルブミン、ビリルビンなども見ます。特に「年齢、AST、ALT、血小板数から算出する FIB-4 index」は、肝臓の線維化が進んでいる可能性を推測するための簡便に用いられる使い勝手のよい指標です(ただしこの指標は診断を確定する検査ではありません。年齢の影響も受けますし、ほかの病気でASTや血小板が変化していることもあるので注意が必要です)。腹部超音波検査では、脂肪肝の程度、肝臓の形、腫瘤の有無、胆管の拡張、脾臓の大きさなどを確認します。必要に応じて、超音波や MRI による肝硬度測定、血液の線維化マーカー、CT や MRI などの専門医が行う詳細な評価へ進みます。

われわれ開業医が行うべきは「脂肪肝があります」で診療を終わらせるのではなく、「進行する可能性の高い脂肪肝ではないか」を評価すること。そしてかかりつけ医として「肝の脂肪を減らす方向にもっていくこと」かと思っています。脂肪肝の改善というと、すぐに厳しい食事制限を思い浮かべるかもしれません。しかし、必要なのは短期間の減量ではありません。甘い飲料や間食、夜遅い食事、過剰な炭水化物、脂質の多い食事、飲酒量などを振り返り、無理なく続けられる改善点を探します。

運動も重要です。運動には、消費エネルギーを増やすだけでなく、筋肉での糖の利用を改善し、インスリンを効きやすくする作用があります。日本肝臓学会は、脂肪性肝疾患に対する運動療法について、30~60 分程度の有酸素運動を週 3~4 回継続することで、体重減少を伴わなくても肝脂肪化の改善が期待できるとしています。最初から毎日 1 時間走る必要はなく、「まずは 10 分でよいから歩く」「エレベーターではなく階段を使う」「食後少しでよいので体を動かす」「週に数回、軽くてもよいから筋力トレーニングを行う」・・・。続けられる方法を "まず始めてみる" ようにすることが現実的です。

メディアやインターネットでは、「これを食べれば肝臓が若返る」「このサプリメントで肝臓をキレイに」といった表現を見かけます。しかし、肝臓に万能、といえるほどの根拠がある食品はありません。有名なのはウコン、シジミ、各種のハーブで、まあマイナスにはならないものが多いですが、健康食品はときに「むしろ肝機能障害を引き起こして肝臓を悪くする」ことも経験されます。肝臓に良いとされるものを追加する前に、まずは、「食べ過ぎていないか」「飲み過ぎていないか」「運動不足になっていないか」「処方薬以外に何を飲んでいるか」「高血糖や高血圧を放置していないか」、という基本を確認するほうが大切のように思います。

最後に「日本人が肝機能について、公衆衛生(病気にかかった個人を診察・治療する「臨床(病院の医療)」とは異なり、社会や集団全体を対象とする医学分野)に貢献している実績」を紹介してシメたいと思います。

WHO(世界保健機関)が 2015 年に発出した世界的な目標で、"Global Health Sector Strategies on, respectively, HIV, viral hepatitis and sexually transmitted infections for the period 2022-2030" があります。すなわち「HIV, ウイルス性肝疾患, 性感染症に関する 2022-2030 年までの世界的な目標」とでも言うべきもので、C 型肝炎については(2015 年をベースラインとして)「死亡率 65% 減少」「発症率 80% 削減」「診断率 90% 以上」「治癒率 80% 以上」をそれぞれ目指すものです。この目標ラインについて、諸外国はなかなかクリアしていない中、日本はかなりいいラインでこの数値を達成しつつある、というデータがあります。あと 4 年ありますので注視していく必要はありますが、こういった「目標を掲げてそこに向けて頑張る」というのは日本人に向いているのかもしれませんね。

本ブログが皆様の健康診断やドックの結果確認時の理解や健康増進につながってくれたら幸甚です。

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