メニュー

偉大な心臓外科医が明らかにした血圧が高い動物とは?

[2024.03.11]

日本人の高血圧は診察室測定値で 140/90 とされておりますが、それを大きく超える血圧が高い動物がいるのをご存知でしょうか?動物園には大抵いる動物です。

正解はキリンで、身長が高い個体ですと心臓よりも 3 m ほど高い所にある脳まで血液を押し上げる必要があるので、血圧は上が 250 で下が 200 くらいとされています。血圧 200 以上という数字、院長が臨床で何回か経験したのは褐色細胞腫という(副腎にできるアドレナリンなどホルモンを過剰分泌する)疾患の手術中くらいで、あまり経験したい数値ではありません。

ちなみに世界で初めてキリンの血圧が測定されたのは 1955 年のことで、Goetz 先生という心臓血管外科医による業績でした。当時キリンを実験動物として入手するのは相当大変で、Goetz 先生も苦労されたようです。しかしある日南アフリカで多数のキリンを駆除する予定があるのを知り、担当者に連絡して入手できることになったそうです。駆除目的で捕獲されたキリンの血液成分を検査し、さらに頸動脈にカテーテルを挿入して血圧を実測し、先程の測定値を得ました。ちなみに現在は、こういった動物を用いた実験はに厳しい制限があり、おそらく倫理審査委員会を通すのに相当(キリンくらい)高いハードルがあると思われます。

キリンの血圧は「背の高さ」に起因しますので、生まれたばかりの子どもキリンは血圧がそれほど高いわけではありません。しかし成長して首が 2 m を超えるようになる頃から血圧が上がっていきます。一方心拍数は、ヒトと同じように敵から逃げたり戦ったりしているときは 170 回/分まで増えることがある一方、普段はそれほど多くありません(80-120 回/分)。興味深いですね。

高血圧は言うまでもなく重大な血管や腎臓の疾患につながります。これだけ血圧が高いと腎臓病や網膜血管障害などが心配になりますが、キリンの血管抵抗は非常に強く、血管の調節機構もかなり高度であるため、,腎臓や網膜はこれだけの高血圧でも障害を受けません。これも興味深いですね。こういったヒト以外の生物の研究から新たな医学的革新を探求する学問は Bioinspired Medicine と呼ばれます。もしかするとキリンにおける血圧の研究が今後の新たな高血圧関連疾患の根本的な予防につながるかもしれませんね。

写真は Goetz 先生で、世界で初めて冠動脈バイパス術を成功させた偉大な心臓外科医です。このような偉大な外界がキリンの血圧に興味を持ったというのはまさに Bioinspired Medicine(ヒト以外の生物の研究から新たな医学的革新を探求する学問)で、近い未来に行われるキリン血圧の研究が今後新たな高血圧関連疾患の根本的な予防につながるかもしれませんね。

(Goetz 先生の業績は https://www.annalsthoracicsurgery.org/article/S0003-4975(00)01264-9/fulltext で読めます。写真もこの論文からです。カッコいい先生ですね)

HOME

最新の記事

武田長兵衛という江戸時代の "お薬の仲買い屋さん" が創出した日本有数の薬品会社についてのおハナシ。
90 年くらい前の英国におけるひとつの問いが現在の新薬・新規医療技術確立のために必要な統計的手技法になったハナシ。
ひとのことはよく見えるものですが自分のことはわからないもので、今日も院長は遅くまで仕事をしてしまいました。
医療現場では患者さんの声を聞くことがなにより大事ですが、「ありのまま」に受け取ってはいけないこともあるコトバもあります。
2007 年に文科省が出した指針を本日初めて知り、いちど中学校くらいの英数国理社教科書をさらっとひととおり読み返したくなりました。
一つのコトバが生まれて長い時間を経て "逆の意味が付け加えられた" ひとつの例が "ドクター" という単語なのかも。
いろいろなことの起源を調べてみるとなんだか面白いことを知ることができそうと感じました。
医者には、患者さんやご家族に尋ねられたときに安易に「はい、大丈夫です!」とは言えないシツモンがいくつかあります。
「人生は長い」と言われますが一方で『あっという間にひとは死ぬから』という本がベストセラーになったりと複雑なこの時代だからこそ悩み続けるしかないのでしょう。
気持ちいい朝の時間に少しだけダウナーな気分にならざるを得ない日々のルーティン。

ブログカレンダー

2025年6月
« 5月    
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30  
▲ ページのトップに戻る

Close

HOME