先月まで放映されていた医療ドラマの第一話を見返して思ったことを書いてみました。
先日「◯◯ 科として標榜できる名称・できない名称」についてふれました。そのなかで「ありふれているので認めてもいいんじゃないかなぁ、と現場では感じるものの、認められていないのが「ペインクリニック科」(なぜか「ペインクリニック内科」は OK)とか、「漢方科」(なぜか「漢方内科」は OK)とか・・・などと書きました。それに加えるとすればもうひとつが「総合診療科」です。総合診療科はこれまであった 18 ある診療科の次に承認された「19 番目の診療科」として学会なども整備され、専門医制度も確立しているのに、なぜかこの診療科を標榜して開業するのは認められていません。ただ、医療機関の名称としての「◇◇ 総合診療クリニック」は OK で、標榜科は「内科・小児科」とか「内科・皮膚科・婦人科・耳鼻咽喉科」など、いろいろな診療科名が書いてあってまさに "総合診療" という感じになっているクリニックもあります。ルールが複雑でなかなか難しいですね。
そんな "19 番目の診療科、総合診療科にスポットを当てたドラマ、『19 番目のカルテ』。つい先月、9 月 7 日まで放送していました。そのなかで第一話、仲里依紗さんが演じる「原因不明の痛みに悩む 30 代女性」が独白でこう言います。
「二度と来ません!
2 時間待って診察は 10 分でした。(1)
しかも結局どんな病気なのか病名もわからない。(2)
なんのための病院ですか! (3)
病院に行くために休むのだって気まずいのに。
あぁ、こんな話、お医者さんにはわからないだろうけど。」
これに少し被せるように、それまでこの患者さんを研修医といっしょに見ていた整形外科医(津田寛治さんが演じています。このひとの演技好きです)がこう独白します。
「患者さんにはなかなか分かってもらえない話だと思うんですけどねぇ。
病名も曖昧なままだと治療ってのはできませんからね。
誤診によるトラブルもコワいですし。
そもそも診断名に応じた治療にしか健康保険は適用できないって国に決められているんですよ。
え?じゃあ病名がわかるまで診ろって?
ご冗談を。
外来の初診料が約 2910 円、再診料が約 750 円。
これ長く診察しても短く診察しても報酬は同じなんですよ。
つまり、より多くの患者を診ないと病院の収益は増えないと。
(となりにいる研修医に話しかけながら)滝野、10 分な。それが俺達に与えられた診察時間だから。」
ハイ、完全に患者さんが病院側に伝えたいことと医者が考えていることがずれています。患者さんは
「システムとかはわからないけどとにかく医療機関の本分は "診断をつける" "病気を治す" "治らないまでも症状を軽くする" なのだからそこをしっかりしてよ」と訴えています。
それに対して医者は「まあいろいろとあるだろうけど診察したくてもこっちはできないの。次から次へと患者を診ないといけないし。診療科ごとの収益なんかで病院幹部に吊し上げられるこっちの身になったら 10 分診療が限界。これってオレ達医者のせいじゃなくてシステムのせいだもん」と、患者さんの不満を医療業界全体の問題のひとつとして類型化し、「気持ちはわかるけどどうしようもないじゃん、文句あるならこのシステム全体変えてよ」と、無理筋の対応を求めて訴えをスルーしている状態です。
・・・これ、どちらの気持ちもよくわかります。それぞれに "弁明" してみましょう。
(1) 大病院の外来医師は病棟の患者さん、ときには術後で ICU 管理となっている方を病棟主治医として抱えつつ、外来診療をしております。しかも患者数を増やさないと病院に収益は上がらないのでやればやるほどたくさんの患者さんを診ないといけなくなるので必然的に診療時間は短くなります。大学病院などの大きな施設で "10 分" の診療というのは平均的かおそらく平均よりやや長いくらい(おそらく平均は 5 分くらいでしょうか。再診にかぎりますが)。
(2) たとえば腹痛で来られた患者さんで、診断が初診で確定する確率は 20% 程度、という報告があります(救急外来ではありませんよ、あくまでも一般的な消化器などの内科外来です)。いくつかの診察日で採血・エコー・内視鏡・CT などの検査をしながら症状の経過も加味して診断が確定していきます。ただし「確定しないままなんとなく症状がおさまって治癒と判断されて終了する」というケースも多い(これは救急関連の論文ですが、そういったケースが 30% 以上ともいわれます)。「すべての症状に確定診断がつく」というのはなかなか難しいことはどうか分かっていただければと思います。
(3) 「病院」は社会のインフラであり、地域の健康を守る砦です。自分の症状がよくならず、診断もつかないことでイライラするお気持ちはわかります。ただ、どうか病院で診療をうけて助かっている患者さんもたくさんいることをアタマのどこかで知っておいてほしいです。また、交通事故などの急な外傷では大病院でしか様々な診療科にまたがる処置や手術はできないので、あまり病院全体を悪しざまに罵るのはどうかお控えください。
・・・まあどれもこんなことを面と向かって患者さんに言ったらますます怒ってしまいそうです。
本来医療機関というのは社会的なインフラのはず。なにか症状があったり、病気やケガになったら駆け込めるセーフティーネットのはずです。しかしながら現在、特に大学病院などの大きな施設で毎年積み上がる借金、治療費未払い問題、働き方改革によるマンパワー不足など、大きな問題が山積しています。
インフラである警察は、特に犯罪者がいなければ、犯人を検挙しなくても報酬は一定です。消防隊員も、火事や救急がなければ署で待機していてもお給料はもらえます。勤務医のみならず、われわれ開業医もある程度「一定の役割に対応して一定の報酬」という、英国式(オーストラリアやニュージーランドなども似ている)の家庭医システムみたいなことをそろそろ検討してもよいような気がしています。現状だと「ろくに説明もせずに診察時間を短くあげてたくさんの患者さんを "さばく" 医師」の医業収入が上がる、というあまりよくないシステムになっているので。
・・・ちなみにこの患者さんは「線維筋痛症」という、ちゃんと病名がある疾患であることを主人公の総合診療医(松本潤さんが演じています。優しそう)が詳細な問診から突き止めました。こういった「診断プロセス」みたいなことは極めて重要なのですが、残念ながら保険点数がついていないのが現状です。今後の総合診療科(別に診断するだけの科ではないのですが)の発展に期待したいと思います。
