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凡人が初めて英語の論文を書くには上の先生からの大いなる助けが必要です(スゴいひとは不要かもしれませんが)。

[2025.07.07]

昨日炎症のハナシをしました。診療の現場でよく聞く「炎症マーカー」。このなかで現在普通にどこの施設でも(ちなみに当院でも)採血して検査にまわすと早ければ数分で結果が出るのが白血球と CRP(C 反応性タンパク; C-reactive protein)です。これらは肺炎や腎盂腎炎など、われわれ開業医が一般的に診療するなかで使用しやすい身近な検査項目です。白血球は正常値がだいたい 9000、CRP は 0.3 くらい。これらがときに "白血球 23000、CRP 25" のように極めて高値で来院される患者さんがいます。このような数値を示し、さらには "発熱 39.5 ℃" "意識がやや混濁" "著明な倦怠感" などの「ぱっと見で分かる重症感」がみられれば「これはとてもクリニックではみられないから病院に搬送しよう」ということになりますし、もう少し低い値で「食事も摂れていて若くて入院を希望していなくて明日・明後日も自力で来院可能」ということであればクリニックで抗菌薬で治療していこう、という方針をとることもあります。そんなふうに使われることが多い CRP ですが、実はこのマーカー、単なる感染症の指標にとどまらない、とても汎用性の高い “疾患重症度のサイン” です。

まず確認しておきたいのが、「炎症=感染症」ではない、ということ。確かに、風邪や肺炎、尿路感染症などでは、体内に侵入した病原体に対して免疫反応が起こり、それによって CRP が上昇します。しかし CRP の本質は「体内で炎症反応が惹起されているかどうか」のサインであって、感染の有無そのものを示すわけではないのです。

CRP の分泌は、主に肝臓が担っています。刺激を受けるのはIL-6などのサイトカインで、これらが放出されると、肝臓が「おっと、何か体のどこかで炎症が起きているな」と感じて、CRP の産生を始めます。つまり、炎症性サイトカインが放出されるような出来事全般が、CRP 上昇のトリガーになり得るのです。

たとえば…

  • 自己免疫疾患(関節リウマチ、膠原病など)

  • 虚血性疾患(心筋梗塞、脳梗塞など)

  • 外傷、手術後の反応

  • がん(悪性腫瘍)

このように、感染症以外にもCRPが上昇するシーンは多岐にわたります。

この "がん(悪性腫瘍)" において炎症のバイオマーカーである CRP が治療効果判定に役立ちそう、と考えたのが院長の 7 学年上で 2003 年当時ともに茨城県の土浦協同病院に勤務していた、現在 獨協医科大学埼玉医療センター泌尿器科の主任教授である 斎藤 一隆 先生です。「腫瘍」と聞くと、“細胞の増殖”というイメージが先に立ちますが、実はがん細胞の周囲では、常に慢性的な炎症反応が起こっていることが知られています。がん細胞は、成長のために周囲の免疫細胞をうまく利用しながら、サイトカインやケモカインを放出し続けることで、自らの「環境」を整えているのです。これらを踏まえ、「それほど大きくない がん であっても炎症反応が高いケースは予後が悪い(治療後の成績が悪い)のでは?」と仮説を立てて実際に土浦協同病院の腎がん症例のデータベースを作成し検討、院長が第一著者として原著論文を書かせてもらったのが 18 年も前になりますが、英国泌尿器科学会が発行する BJU International の 2007 年 1 月号に掲載された論文(下図)です。

この「はじめての原著論文」、いろいろな先生がいると思いますが、院長のような凡人はほぼすべて(科学英語の書き方、パラグラフ内トピックセンテンスの置き方、抄録の書き方、レター(論文を投稿するときに「こういう論文を書きました。貴誌の読者に "刺さる" 内容だと信じて執筆しましたのでどうか掲載をご検討ください」みたいな手紙)の書き方や、リバイス(一度投稿したものが「◯◯ の点をいくつか修正したら掲載してあげるよ」みたいな条件付きで戻ってくることがある(そのとおり直せば掲載されることがほとんど)のですが、その対応の仕方など、すべて斎藤先生から熱心に指導していただき、掲載されました。

論文が掲載されると、なんともいえない多幸感に包まれます。特に長年かけてようやく掲載された論文などはそうでしょう(院長は最も時間をかかった論文が 9 年間です。本当にスゴい基礎の論文は 20 年以上の時間をかけてデータを取っていくものもザラにあります)。臨床医は論文を書くことがメインの仕事ではないものの、論文を書くことでひとつのことに精通し、日々の診療の深みが増すようになります。現在日本から投稿され、掲載にいたる科学論文数の低下が言われております。日本はもともと "ものづくり" "地道な実験に基づく確かなデータ" "他の科学者が気づかない新たな視点" を数々生み出すことができ、30 年ほど前には先の大戦における敗戦国にもかかわらず製造業分野で "ジャパン・アズ・ナンバーワン" と言われるまでに成長することができました。

この成長には「就業時間を度外視した徹夜作業」などの無尽蔵なマンパワーの投入など、現在の価値観からすると再現不可能な要素があったことでしょう。ですから現在また同じようなスタンスでかつての栄光を取り戻すことは不可能ですが、"他国の科学者とは異なる視点による日本独自の効率化・集約化" の道は必ずあるはずです。凡人の院長には思いつくことはできませんが、現在でもどこかで育っている天才がまた近いうちになにかスゴい論文、もとい世界を一変させるような発見をしてくれるはず。iPS 細胞を樹立された山中先生のように。

・・・今日は寝る前にマンガではなく英語論文を読みたくなりました。

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