出身高校でよく言われていた「〇〇 を追え」という言葉を卒後 30 年経ってから目指してみる。
「先生は泌尿器科なのに内科も診られるんですね」。開業して 2 年が経過し、ときどき患者さんからこんな質問をされることがあります。院長は「泌尿器科専門医」として診療しながら「地域のかかりつけ医」でもありますが、いわゆる「認定内科医」・「総合内科専門医」ではありません。ですので、必ず「自分は内科医ではないのでもし希望すればいつでも内科専門の先生に紹介します」と言っております。
しかしながらこれまで 10 年以上にわたり非常勤として内科も含めた小さな病院も外来を担当していたのと、日本プライマリ・ケア連合学会が提供している総合医育成コースなどに積極的に参加し、さらには秦野赤十字病院様や神奈川病院様など近隣の二次医療施設との関連を密にし、なんとか「慢性疾患のかかりつけ」と「さまざまな疾患の初期対応」は十分できる、とある程度の自信を持って言えます。ぜひお近くにお住まいの患者さんにおかれましては当院を「上手く使って」いただければと思います。
患者さんが冒頭の問いかけをするとき、おそらくわれわれ医師に 2 つの期待があるように予想します。ひとつは専門領域に関しては深く細かく診てほしい。もうひとつは、風邪や高血圧、ちょっとした腰痛など、何でも気軽に相談できる町のお医者さんでいてほしい。という感じでしょうか。これらの期待に応えるには、単なる知識や技術だけでなく、「専門性」と「独自性」をどう共存させるかが鍵となります。
医師としての「専門性」は、ある領域における経験、知識、技術を深く掘り下げることで得られるものです。泌尿器科で言えば、前立腺疾患、膀胱がん、尿路結石、尿失禁など、多岐にわたる疾患を診断・治療できることが専門性の根幹です。とくに昨今は、高齢化に伴って排尿障害や腎機能低下、男性更年期障害など泌尿器科的問題を抱える患者さんが増えており、専門医としての需要はますます高まっています。(当院で使うことはないのですが)ロボット支援手術や免疫チェックポイント阻害薬、再発予防のための周術期薬物治療のエビデンスなど、変革する医学を常にキャッチアップし、患者に還元することが求められます。これらのアップデートに ZOOM 講演や、つい昨日まで視聴できた日本泌尿器科学会総会のワークショップ・シンポジウム・卒後教育のオンライン視聴は大変役立ちます。もともと専門医業務を仕事の中心としていた院長にとって、これらの学びは(十分知っている知識に修正を加えたり記憶に付記するだけなので)ストレスのなく楽しいものです。しかし、それだけでは地域の開業医としては足りません。
開業医は、医療機関でありながらコミュニティの一部です。風邪や頭痛から、認知症、不眠、生活習慣病まで、患者の困りごとは多岐にわたり、専門だけを診ていては成り立ちません。地域の医師は、専門知識を活かしつつも、日常診療のなかで広く浅い知識も求められる。“プライマリ・ケア” の視点です。子どもから高齢者まで、病気だけでなく家庭環境や経済状況にも目を配り、「人を診る」力が必要とされます。このように、当院院長は “専門医” であると同時に、“ジェネラリスト”でもなければならない。そのバランスが難しい反面、ここに「独自性」の種があると私は思っています。
「独自性」とは、医学的な差別化だけではありません。患者さんとの関係性、クリニックの雰囲気、発信する言葉や価値観――これらすべてがその医師の「個性」であり、同じ専門分野であっても他の誰とも違うスタイルとなります。
また、本ブログや SNS などで情報発信することもプライマリ・ケアの一環であると考えています。さらに地域の方々や医療系への進路に興味がある学生などに対して医療リテラシー向上のために微力ながら講演をすることなども、開業医にとってひとつの仕事ではないかと思っております。
そんなわけで、まずは母校の湘南高校で来月医学部を目指す高校生に医療のことを話すという機会をいただきました。30 年も前の卒業生なので、ジェネレーションギャップは相当あると思いますが、20 年以上医療の第一線で頑張ってきたという自負もありますので、ネットや学校ではなかなか得られない、彼らが「本当に聞いてみたい質問」などにタブーなく答えられればと思っております。
湘南高校で昔から言われていることとして、「二兎ではなく三兎を追え」というものがあります。勉強・部活だけでなく行事も頑張れ、という意味でかつての先生はわれわれに言っていたと思います。
現在「クリニック診療と経営」「日々医学・医療などの学び」を行っておりますが、今後は「医療についてイロイロ語る(またはこのブログみたいに「書く」)」の三兎を追ってみたいと思っています。「忙しいのに大丈夫?」と言われますが大丈夫です!なぜならすべて「大好きなこと」だから。イヤイヤやるのはとても無理ですが、好きなことならなんとか乗り切れるもの。まだまだ 40 代で老け込む年齢ではないので(無理はしないように体調管理しながらですが)積極的に情報発信してまいります。
そしていつか「四兎」まで行けたらいいなぁ。
写真は今度母校での講演に使うチラシです。日程は伏せておきます。