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勝手ながら師と仰ぐ江戸時代の "大施主" の享年に自分も達しましたので一度その偉大さを振り返ってみるー後編。

[2025.07.17]

一昨日・昨日と江戸時代晩期に蛮社の獄で処罰され、失意のなかで切腹という武士として最も潔い "カタのつけ方" をした渡辺崋山先生を紹介しました。先生は政治家(田原藩家老)・画家(当時から現在まで評価が高い絵画を多数うみだした)・蘭学者(江戸時代当時最高のシンクタンクである尚歯会の中心メンバーとして活躍)という 3 つの大きな立場すべてにおいて素晴らしい事績を挙げた、"鼎立の名人" でした。そのなかの "政治家" に関わることなのですが、先生は多くの庶民にとって役に立つ訓戒を多く遺しています。そのうちの 2 つを紹介します。

(1)「八勿の訓戒」

これは田原藩家老としてさまざまな交渉・調整を行ってきた華山先生がその心得を示したもので、以下のようなものです。

  1. 面後の情に常を忘れる勿(なか)れ
     面談中、その場の感情に流され、平常心を忘れないように。

  2. 眼前の繰廻しに百年の計を忘れる勿れ
     当面の処理に没頭し、百年先の大局を見失ってはならぬ。

  3. 前面の功を期して後面の費を忘れる勿れ
     目先の成果ばかりに気を取られ、後からのコストを失念しないように。

  4. 大功は緩にあり 機会は急にありという事を忘れる勿れ
     大きな成果は時間をかけて築かれるが、チャンスはすばやく訪れることを忘れないように。

  5. 面は冷なるを欲し 背は暖を欲すると云うを忘れる勿れ
     表情は冷静に(知性)、しかし心の内はあたたかく優しい気持ち(誠意)をもつべき、ということを忘れないように。

  6. 挙動を慎み其恒を見らるる勿れ
     慎重に振る舞い、自らの真意を相手に見透かされないようにせよ。

  7. 人を欺かんとする者は人に欺かる。不欺は即不欺己という事を忘れる勿れ
     人を騙そうとする者は、結局自らも騙される。嘘をつかないことは自己を偽らないことと等しい、ということを忘れるな。

  8. 基立て物従は基は心の実という事を忘れる勿れ
     物事の基礎は「誠実な心」であるということを忘れないように。

また、親しい商人から依頼されその心得を記したものが次の八訓です。

(2) 「商人八訓」

  1. 先ず朝は、召使いより早く起きよ
     → まず主人こそ率先垂範の勤労姿勢を示せ。(⇒ 院長はいつも 6:00 にクリニックに来て開院の準備をしていますが、診療終了後は主に師長が "シメ" の作業をしてくれているので達成度 70%)

  2. 十両の客より百文の客を大切にせよ
     → 売上の大小にかかわらず、少額の客も敬うべき。(⇒ これについては「この患者さんは高い診療点数の処置をするから大事に、この患者さんは検査とかないからテキトーに、などと考えたこと勤務医時代も含めて一回もないので達成度 100%)

  3. 買い手が気に入らず、返しに来たならば、売る時より丁寧にせよ
     → 返品やクレームこそ再来店のチャンスとして丁寧に対応すべき。(⇒ 患者さんが待ち時間や診療内容でクレームというか、ネガティブな態度で来られることは全くないということはありません。これは手術後の合併症発症時もそうなのですが、「そういうときこそ患者さんと接する時間を長く」ということをずっとやってきた自負があります(特に術後合併症が発生したときは本当に頻回にその患者さんの顔を見に行くようにしました)。ですがこういったことはなかなか患者さんの満足度が 100% になることはまずありませんので、そこを考慮して達成度 85%)

  4. 繁盛するに従って、益々倹約せよ
     → 商いが成功しても数字でしっかりと管理して謙虚な倹約心を忘れないように。(⇒ そもそも開院以来 "繁盛" という状態に達したことがほとんどないのでまだこれについては評価できる段階に到達していませんが、院長はあまり物欲がなく、別に外車に乗りたいとかファーストクラスでリゾート行きたいとか銀座でブイブイ言わせたいとかないのでまあ達成度 90%)

  5. 小遣いは一文より記せ
     → 微細な出費も漏らさず記録し、金銭管理を徹底せよ。(⇒ これはあんまりできていないかも・・・。レシート集めて税理士さんにわたす、くらいのことはしておりませんが "微細な出費" まで網羅しているかと言われると・・・。達成度 50%)

  6. 開店のときを忘れるな
     → 開業当初の初心や心構えを忘れて慢心しないようにせよ。(⇒ 当院は外に向けては「患者さんに適切な医療を」というモットーがありますが、同時に内に向けては「スタッフを守るクリニックでありたい」というポリシーも持っています。この訓戒は常に心がけているつもりですが、診療が忙しい日なんかだと(院長も人間ができていないところがあるので)少しスタッフに厳しくしてしまうところがあるので達成度 60%)

  7. 同商売が近所にできたら懇意を厚くして互いに勤めよ
     → 同業者との良好な関係を築き、切磋琢磨すべし。(⇒ 今年 4 月から秦野市内に当院に引き続き泌尿器科のクリニックが開院しました(はだの腎泌尿器科クリニック様)。泌尿器科医は医師全体の 2.5% ほどしかいない小さな診療科です。患者さんを取り合っていがみ合う、みたいなことは地域の患者さんにとっていいことはないのでお互い勉強して励まし合い、競い合う関係でいたいと思います。これからのことになるので達成度 50%)

  8. 出店を開いたら、三ヵ年は食料を送れ
     → 支店や従業員が独立した場合、成果が出るまではしっかりと耐えて三年間は面倒を見るようにせよ。(⇒ ほかの流行っている医療施設のようにまだまだ分院を展開できるような経済状況にないのでこれについてはなんともいえないのですが、もし今後そういったチャンスがあるとすれば是非早急な結果を求めるのではなくじっくりと成長を待てるような余裕を心にもっていたいと思います。達成度評価不能)

・・・いかがでしょうか。どちらの八訓も心に刺さりますが、特に商人八訓は開業医である自分にはとても響く心得です。ひとつひとつについて現在の達成度と簡単な評をつけておきました。

150 年以上経過しても、また、「お客」と「患者さん」の違いはあっても通じる訓戒を遺してくれた渡辺華山先生にあらためて敬意を表したい。また、日々この訓戒を心に留めてクリニックを運営してまいります。

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