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医師で作家、というのは本当にたくさんいますが江戸時代のあの有名作品を書いたあのひとも実は医者です。

[2025.06.18]

急に暑くなりましたが皆様体調崩しておられないでしょうか。院長は、暑さには特にやられていないものの、先週から続く阪神タイガースまさかの 7 連敗で体調ではなく気分が害されています。(ちなみに、先ほどようやく勝ちを決めてなんとか連敗脱出したようです。これから逆襲!頼みます)。

暑い日には背筋が寒くなるハナシ、ということで江戸時代の有名な怪奇譚、『雨月物語』などはいかがでしょうか。「白峰」に出てくる崇徳上皇の禍々(まがまが)しさ、「浅茅が宿」における死しても尚夫を愛す妻の愛情、「仏法僧」で出てくる、霊となった豊臣秀次から修羅の世界に連れて行かれそうになる親子が感じた恐怖など、夏に読むにはぴったりです。この『雨月物語』作者である上田秋成ですが、彼はある時期、生活の糧を得るために医業を営んでいました。今回は上田秋成を簡単に紹介したいと思います。

上田秋成は 1734 年、大坂で生まれました。4 歳の頃に天然痘にかかり、左手と顔に後遺症を残すという、生涯に影響する経験をしています。この「病とともにある人生」が、彼の文学観、そして人間観を決定づけたのかもしれません。後年彼が紡いだ物語には、身体の不自由さ、宿命、そして「見えざるもの」への想像力が色濃くにじみ出ているような気がします。

彼の青年期以降の生活は、けっして安定したものではありませんでした。儒学を学び、俳諧や和歌にも通じながら文筆活動を行うものの、作品がすぐに大きく売れるという時代でもなく、経済的には常に不安定。その中で、生活の術として秋成が選んだのが「医者」という職業でした。彼は漢方医学を学び、実際に町医者として患者を診るようになります。診療所というより、文人らしく「自宅で患者を迎え、薬を処方する」という形態だったようです。

しかし、彼が「腕利きの医師だった」という話はあまり聞きません。患者が多くて大繁盛、というわけでもなかったようです。とはいえ、当時の記録からは、誠実に患者と向き合っていた様子が残されているようです。ただ、開業した頃から国学の研究に熱中するようになり、医業より執筆業が生活の中心になっていきます。こう書くと秋成にとって医業とは、「稼ぐ手段」のみであったように思われかねませんがそうでもないように思えます。

秋成の代表作である『雨月物語』は、現代のホラーとも少し異なり、「死後の世界」や「報い」「愛憎の執着」などが静かに語られる怪談集です。その中には、疫病、死霊、因果といったテーマが頻出します。これらのテーマは、彼が医業を通して「人が死ぬ」という現実と向き合い、「死にゆく人の言葉」「病を前にした人の表情」を日々見つめていたからこそ、深みを持って描かれたのではないか――そんなふうに思えてなりません。

たとえば「菊花の約」では、病を得て亡くなった恋人との再会が描かれますし、「浅茅が宿」では、妻の亡霊が夫の帰りを待ち続けていたという話。これらはいずれも、「人が病に倒れ、死を迎えても、その想いはなお残る」という余韻を残します。秋成は、医学と文学のはざまで、「死」と「生」の両方を見つめ続けた人だったのです。

医者という仕事は、「病名」をつけて「治療」するだけではありません。患者さんの背景には、それぞれの「物語」があります。なぜ病気になったのか、どんな暮らしをしているのか、どんな不安を抱えているのか――それらすべてを汲み取ってこそ、「よい医療」が生まれます。上田秋成のように、「目に見えぬ想い」や「言葉にされない痛み」に寄り添う感性は、いま私たちが目指すべき「人間中心の医療」にも通じるところがあるのではないでしょうか。

上田秋成は後年、盲目となり、晩年は生活にも苦しみました。しかし、失明後も作品を書き続け、弟子たちと語らいながら「言葉」とともに人生を歩みました。そして 75 歳で没。

現代のように医療制度が整っていたわけではなく、町医者の収入も不安定だった時代。そのなかで、文筆業・医業の二足わらじを履きながら、「人の心」と「人の身体」の両方に寄り添おうとした秋成の姿は、現代を生きるわれわれにも多くの示唆を与えてくれるような気がしています。

診察室で院長はよく雑談をします。

「この患者さんにはどんな物語が・・・?」

すべての診察でこんなロマンチックなことを考える時間はなかなかないのですが、可能な限り、患者さんからいろいろな言葉を発してもらい、「患者」ではなく「人間」として対峙するよう心がけています。どうか受診の際は「医療と一見関係なさそうなハナシ」もしてみてください。時間の許す限り拝聴します。

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