医師業はブルーかホワイトか、はたまた "あの色" か。
最近、いわゆる "ブルーカラー" のほうが稼げる、みたいなハナシを耳にすることがあります。AI 時代になり、これまでは概してホワイトカラーのほうがブルーカラーよりも "稼げる" と言われていたのが逆転した、などというウェブ記事もよく目にするようになりました。ホワイトカラーのいいところは「職場環境が快適」「リモートワーク可能」「仕事の配分を自分で決められることが多い(裁量権がある程度保たれている)」などでしょうか。一方、ブルーカラーのいいところは「基本的に時間により仕事量が定まっているので残業が少ない」「同じことを繰り返す業務が多いのでひとつのスキルを比較的長く安定して続けられる」「仕事を個人ではなく集団で担うので責任が相対的に軽くなる」などでしょうか。
では医師業は?というと、かなり特殊で、きれいに分類しようとするのがなかなか難しいですね。一般にホワイトカラージョブとは「肉体労働よりも知識・判断・管理・事務・専門性を中心とする仕事」。その意味では医師はホワイトカラー寄りかな?とも感じます。診断・説明・処方・カルテ記載・検査解釈・紹介状作成・研究・教育・チームマネジメントなど、知的専門職としての要素が強いからです。
ただ、医師業の多くは机上の業務だけではとても完結しません。外来なら、患者さんを診察、必要に応じて処置、ときに急変に対応、救急外来などでは患者さんの体液などから感染リスクも負ったりします。病棟でも、担当患者さん急変による夜間休日の呼び出し、緊急処置、家族説明など、さまざまな "現場仕事" があります。このあたりに注目すると、やかなり身体的な労働負荷が大きいです。院長の専門である泌尿器科でも、手術したり膀胱の内視鏡をしたり、カテーテルを留置したり、結石で強い側腹部痛を訴える患者さんに鎮痛のための麻酔を背中からいれたり、強い血尿で詰まったカテーテルの閉塞を解除するなど、このあたりにフォーカスすると相当手を動かす仕事であるといえます。
つまり医師は、頭脳労働をしながら、身体も使い、責任も背負う仕事であるといえそうで、この点では「典型的な会社員型ホワイトカラー」とは全く異なるといえるでしょう。
さらに医師業を語るうえで見逃せないなのが、"感情労働" とも言うべき側面です。医師は、医学的に正しいことを言うだけでは仕事になりません。患者さんの不安・悲しみ・期待などに寄り添い、家族関係や経済状況、さらには人生観まで含めて受け止めたうえで診療方針を決定する必要があります。どんなに外来が忙しくてひとりの患者さんに長い時間がかかってしまったとしても、次の患者さんには何喰わぬ顔で穏やかに向き合う必要があったりします。こんなふうにあらためて考えてみると結構なマルチタスクの仕事ですね。
そのうえ、現代の医療はチーム単位で実践することが大変多いですが、医師は多くの場面で "すべての医療者をまとめるチームリーダー" としての役割を求められがちです。それにともなう責任やプレッシャーは決して無視できないくらいのものでしょう。
以上から個人的には、医師業の本質は 知識労働+肉体労働+感情労働+責任労働 の複合体とも言うべきものかもしれません。ホワイトカラー + ブルーカラー だけでは言い表せないような多彩な業務内容です。
またさらに開業医になると、ますますカテゴリーが増えます。診察室では医師。スタッフに対しては管理職。採用・評価・給与・労務では経営者。広告・ホームページ・口コミ対応ではマーケター。電子カルテ・予約システム・業者対応では現場責任者。クレーム対応では最終責任者。なので開業医は、やることが多すぎて 専門職+現場職+サービス業+中小企業経営者 みたいにコトバ上ではなんだか "キメラ" みたいな職業、という感じですね。忙しいわけだ。
医師は、ホワイトカラー的な知的専門職でありながら、ブルーカラー的な現場性と、サービス業的な感情労働を併せ持ち、さらにはほかの業務まで乗っかってくる "注文の多い職業" といえるかもしれません。でも「頼られるとうれしい」というひとが医師には多い気がするのでなんとかやっていけるのでしょう。
・・・こんな医師業を「ホワイト」とか「ブルー」とか "色" でたとえよ、といわれたら・・・"ブラック" かなぁ、やっぱり。
