医療者は "ドレイン" にあまり悪いイメージはないのですが、現代社会でこのコトバがネガティブに使われていたので紹介します。
頭部・頸部・胸部・腹部・乳腺領域の体表や整形外科領域の四肢や軟部組織など、ヒトのカラダの部位を問わず、手術を受けたあとに "なにかあったらすぐわかるように体内に置いてくるツールとして "ドレイン(ドレーン)" というものがあります。これがあると、たとえば腹部手術後だったりすると、腸管と腸管をつないだところ(吻合部)に何らかのトラブルがあった場合(腸管内容がドレーンを通じて出てくるので)にすぐ認識でき、迅速な対応が可能です。
このドレインのおかげで、これまで院長はどれくらい助けられたかわかりません。
・前立腺全摘で膀胱尿道吻合部が縫合不全を起こしたときに特にトラブルなく経過した
・後腹膜リンパ節郭清、というかなりガッチリとリンパ節を摘除する手術をしたときに、乳糜(にゅうび)と呼ばれるリンパの漏出をいちはやく確認できたことで適切な対応を行うことができた
・術後ドレインからの排液が真っ赤に染まり排液量も 2 時間で 200 cc を超えていたため術後出血と診断し、再開腹による止血術を行い救命できた
などなど。どれもドレインが入っていたからこそいろいろと患者さんの術後を管理するうえで適切な選択ができたことは数多くありました。
また、ドレインは
感染を起こして膿(うみ)がたまっている場合などでは「治療」にもなり
術後の状態フォロー中では「センサー」であり
合併症が起こってしまった場合などでは、どのくらい出血があるのかを「記録する装置」でもある、
という大変素晴らしい外科系医師にとってのアイディアといえます。
どうしてこんなことを考えたかと言うと、最近「ブレインドレイン」という言葉の意味がちょっと前とは異なる用法で使われていることを知ったからです。「ドレイン」とは日本語だと "排出" という意味で、「ブレイン」は "脳"。ですので少し前まで「ブレインドレイン」というのは「優秀な人材(=ブレイン)が流出(=ドレイン)すること」という意味でした。国や地域が時間とお金をかけて育てた医師、研究者、エンジニアといった “知の担い手” が、より条件の良い国へ移動してしまうイメージです。国家レベルで見ると「知的資本の流出」で、長い目で見ると深刻なダメージになります。大谷翔平さんをはじめ、優秀なプロ野球選手が皆米国を目指すのもこれかもしれません。
しかし最近は「ブレイン(脳)そのものが溶け出すようにドレイン(排出)されていく」というイメージで、(特に若い世代が)「スマホが視界のなかにあるだけで注意力や思考力が低下していく」という意味で使われるようになってきました。ただ、このコトバ、若い世代のためだけではありません。明日は最近院長が経験してまさにこの「ブレインドレイン」のエピソードについて紹介します。IT ツールは手術で使うドレインと同様、上手く使ってこそ役立つもの。「IT ツールたちにヒトが使われたり、とらわれたりしない」ようにしたいですね。
