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医者には、患者さんやご家族に尋ねられたときに安易に「はい、大丈夫です!」とは言えないシツモンがいくつかあります。

[2025.06.08]

昨日は土曜日でしたが多くの患者さんが来院してくださいました。そんなときいつも申し訳なく思うのが待合室の狭さ。立っておられる方がいることがしばしばあり、すぐにはスペース拡張できませんが、ゆくゆくは改善していきたいのでどうかもう少々お時間をください。ちなみに今年は 8 月に受付カウンターを一新します。徐々に患者さんの利便性やスペース有効活用のためにいろいろと環境改善を図っていくつもりです。建築資材費や人件費があまり高騰しないことを祈るのみです。

さて、待合室が混雑する一因として、「医療機関を受診するとき、患者さんに家族など同伴者がいる」ことが挙げられます。これはこちらとしては(認知症があったり 90 歳以上の高齢の方などでは特に)ありがたいことですので是非今後もご一緒していただきたいのですが、ひとりの患者さんに 3-4 名のお付き添いがついてこられることもときにあり、その際は「付き添いは 1-2 名にしていただけるとありがたいんですが・・・」と(直接申し上げたことはありませんが)伝えたくなるときがあります。いえいえ、付き添いの人数が問題なのではなく、当院の待合室スペースが十分でないことが原因ですので基本的にこちらが何とかするしかないのですが。

こういった同伴の方から聞かれる質問、というか付加疑問文で医者の立場としては非常に答えづらいものがあります。

それは「先生、大丈夫ですよね?」とか「それは心配いらないってことですよね?」みたいな感じの質問です。診察や検査に関する結果説明の場面で、よく尋ねられるのですが、回答が難しい。迷いなく「ええ、大丈夫です、まったく心配いりませんよ」と即答できたら、どれだけいいでしょう。しかし現実には、そう簡単に「心配ないですよ」と言い切るのは難しい。

医療はすべて「確率」で成り立っています。そのため "100%" もなければ "0%" もありません。よくテレビやネットなどで「余命半年の宣告を受けたがそのあと ◯◯ のおかげで 2 年以上元気に過ごしています!」みたいな言葉を耳にすることがありますが、そのようなことは がんの臨床をやっているとしょっちゅう経験します。逆に「こちらが告げた平均的な余命の半分程度の期間で亡くなってしまう」こともしばしば。進行がんの方の期待される余命期間にはその患者さんの併存症の有無・年齢・周囲のサポート・栄養状態・体格など、様々な要因により「比較的大きな標準偏差」が生まれるからです。

医療は確率で成り立っている、ということはおくすりの「添付文書」(説明書のようなもの)を見てもすぐに実感できます。たとえば泌尿器科医がよく処方する、排尿障害に対する治療薬であるナフトピジル(オリジナル商品名はフリバス、旭化成ファーマ)の添付文書をみてみると、

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次の副作用があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止するなど適切な処置を行うこと。
  0.1〜1%未満 0.1%未満 頻度不明
過敏症 発疹 そう痒感、蕁麻疹 多形紅斑
精神神経系 めまい・ふらつき、頭痛・頭重 *1 倦怠感、眠気、耳鳴、しびれ感、振戦、味覚異常 頭がボーッとする
循環器 立ちくらみ、低血圧 動悸、ほてり、不整脈(期外収縮、心房細動等) 頻脈
消化器 胃部不快感、下痢 便秘、口渇、嘔気、嘔吐、膨満感、腹痛  
肝臓 AST、ALTの上昇 *2 LDH、Al-Pの上昇  

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と記載されています。このとき、太字にした部分「めまい・ふらつき、頭痛・頭重」が 0.1-1% 未満とありますが、これは当院 450 例ほどの処方経験では 1% よりずっと多く、3-5% 程度にみられます(ただし一過性が多く、投薬中止例は 2% くらい)。一方、AST, ALT(肝トランスアミナーゼとよばれます。健診だと GOT, GPT と記載されているもので飲酒が多いひとがよく健診時の医師診察で注意されるアレです)上昇は(当院で処方した、処方時に AST, ALT が正常であった 450 例以上の患者さんで 3 名= )0.7%  で、まさに添付文書と同じ数字でした。

日常生活のなかで 1% の可能性というとなにがあるでしょう。例えば飛行機に乗って預けた荷物が到着した空港で受け取れないロストバゲージ。「SITA(国際航空情報通信機構)」が発表した "Baggage IT Insights 2023" によると、2022 年に紛失、遅延など正しく届かなかった手荷物の総数は、世界で約 2,600万個だそうです。取り扱いミスがあった手荷物は乗客 1,000人あたり 7.6 となり、ロストバゲージの発生確率は 0.76% になりますので。大体これくらいです。

ロストバゲージも大変困ったことになりますが、医療の場合、薬によっては「1% の可能性でアナフィラキシーなどの重大な合併症が起こって致死的になることがある」というところで、他の分野と異なり「"生き死に" に関わる」点でよりその確率の重要性が向上します。

ですから、先程のような質問に対して「検査・診察結果で異常がない」ときでもそれは「本日診察の時点でははっきりした疾患が見つからなかった」という意味にすぎず、翌日状態が悪くなることもあれば 1 ヶ月後に「実はあれは がんだった」と判明することもあります。われわれのようなクリニックには「1 回や 2 回の診察だけでは拾いきれないごく初期の病態変化が含まれる」ことがあるからです。ですので院長は、つねに「見落としがないか」「これが病気の前触れではないか」という警戒を持っています。

それゆえに「(100%)大丈夫」と言ってしまうわけにはいかない、となるのです。仮にその後、予想外の経過をたどったとき、「先生が『大丈夫』って言ったのに」と、患者さんに極めて大きいネガティブな印象を与える結果になってしまうことがあるからです。
医師の言葉は、相手の人生に大きな影響を与えますので、われわれは可能なかぎり「誤解を生まない表現」を選ぼうとします。それが、ときに「歯切れが悪く感じる」「何を言いたいのかはっきりしない」と思われてしまうこともあるかもしれません。

人は、病院に行くときにはたいてい不安を抱えています。「この胸の痛み、狭心症じゃないだろうか」「子どもの熱、重大な感染症だったらどうしよう」「検診でひっかかった影が、がんだったら……」そんな気持ちを抱いて病院を訪れる患者さんにとって、医師の「言葉」はときには薬にもなりますが、使い方によっては大きな毒にもなります。

だからこそ、医師には「希望を与える」ことと「誤解を避ける」ことのバランスが求められます。私たちは、できるかぎり患者さんの不安を軽くしたい。けれど、不確かな情報や根拠のない楽観を伝えてしまうことは、あとで信頼を損なうことにもつながります。

医師がよく使う「今のところ、大きな異常は見当たりません」という言葉には、そうした慎重さと優しさが込められています。
それは、「今は安心して大丈夫です」というメッセージであると同時に、「これからも注意深く見ていきましょう」という姿勢の表明でもあります。

また、医師がよく使う言葉に、「少し様子を見ましょう」というものがあります。これもまた、「具体的なことを言ってくれない」と不安に思われる表現かもしれません。ですが、医療において「時間を置く」というのは、とても大切な判断です。たとえば、軽い頭痛や微熱のような症状は、多くの場合、時間とともに自然に回復します。逆に、初期の検査では判断がつきにくい病気もあります。だからこそ、「様子を見る」ことによって、自然に回復するのか、あるいは悪化する兆候が見えてくるのかを見極めるのです。

ここで大切なのは、「ただ放置する」のではなく、「医師が見通しを持ったうえで、観察する」という姿勢です。
私たちは、必要なときには再診のタイミングを明確に伝え、「この症状がこうなったら、すぐ来てください」とリスクのサインについても説明するよう心がけています。

医療の現場では、どうしても「専門用語」が多くなりがちです。それに加えて、「言い切れないこと」が多いとなると、患者さんは「結局、何が言いたいのかわからなかった」「なんだかもやもやしたまま帰ってしまった」と感じることもあるかもしれません。

そのため院長は「説明」と「対話」を大切にしているつもりです。忙しい外来診療のなかですが、なるべく時間の許す限り対応し、説明しますので、不安に感じたことは、遠慮なく質問してください。たとえ「さっき言ったことと同じ話でもう一度聞きたい」ということであっても、構いません。そのやり取りの中で、少しずつ安心が生まれていくこともありますので。院長が「もっと話したいけどこれ以上は時間を割けないので次の患者さんにいかなければ」と思うときには、隣に座る看護師スタッフ等から同じ内容の説明を異なる言葉で代行してもらうことで、理解を深めていただくよう努めています。

われわれ医療者は、「確率的に問題なさそうなこと」と、「それでも見逃してはならないリスク」とを見極めながら、日々患者さんと向き合っています。そして、説明を通して、少しでも納得と安心が得られるよう努めています。だから少しこちらが結論を濁したようなことを述べたときは、「はっきり言ってくれない医者」と思わず、「丁寧に考えてくれているのかも」とココロのどこかで思っていただければ幸いです。

ただ、むかし院長の娘がある手術を受けたときに主治医から「しっかりやりますから心配しないでゆっくり待っててください」と言われたときは、大変ココロが軽くなったので、本当に難しいもんです。医者同士だから向こうも「リスクがゼロでないことはわかっているだろう」と考えて伝えてくれた言葉だとは思うのですがね。

 

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