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外来でよく訊かれる質問 "結局わたしは ◯◯ ワクチンやったほうがいいですか?" にはなかなかクリアカットに答えることができないワケ。

[2026.01.24]

昨日ワクチンについて書きましたが、新型コロナウイルスパンデミックのおかげ(?)で医療従事者でない方も、メディアなどでこのワクチンについてはいろいろと見たり聞いたりされたことと思います。そのせいか、いわゆるパンデミックが終焉を迎えた現在でもこの話題については様々な関心を持っている方が多い印象があります(外来中でもときどき尋ねられます)。そんなときに用語がゴチャゴチャしてわかりづらいものがあります。これは医学全般にも言えることですが、とにかくわれわれの分野は医学用語に「定義」とか「これまで習慣的にこう使われてきた(慣用)」みたいなものが多い。今回はそのあたりのことをちょっと整理してみましょう。

患者さんに「前回インフルエンザワクチンここで射ってもらったら副作用がでて・・・」と言われることがあります。実はこの文脈で「副作用」は用語として間違っています。ちょっとまとめてみましょう。

(1) 有害事象(adverse event): これは「ワクチンを含むあらゆる医薬品を使用した後に起きた、あらゆる健康上の問題のこと」。ですので「有害事象」には、医薬品との因果関係があるものも、因果関係がないものも含まれます。

例えば、解熱鎮痛剤を飲んだ後に胃の調子が悪くなるのも、花粉症の薬を飲んでから眠くなってしまうのも「有害事象」です。極端なハナシになりますが、ワクチンを接種したあとに思わぬ交通事故(だいたいほとんどの交通事故は「思わぬ」のハズ)に遭ったとしても「有害事象」と呼んでよいのです。ただし、成分の作用機序を考えて、解熱鎮痛剤のあとの胃痛や花粉症薬あとの眠気は因果関係がある、と認められる一方、接種後の交通事故は、ワクチン接種後によほど強いふらつきやめまいなどの症状が出現していなければ因果関係があるとは考えづらく、偶然であると判断されることが多いです。このように、「有害事象」とは医薬品が原因であるかどうかを問わない、というところがポイントです。

ですから「このワクチンは有害事象の報告数が多い」とか誰かが言っていると、非常に不安な感じになるかもしれませんが、「"有害事象" の報告数が多いだけなら危険とはいえない」、と認識してください。臥薪嘗胆とか明鏡止水とか伏竜鳳雛とか、四文字熟語ってなんだか "強い感じ" がしてしまうものですが、今回のおハナシではそういった強いものではない、と思って下さい。

(2) 副反応(adverse reaction ← ときに、次に出てくる「副作用」の訳である side effect と記載されることもあります): これはワクチン接種が原因と考えられる反応です。典型的には

  • 注射部位の痛み・腫れ

  • 発熱、だるさ

  • 筋肉痛、頭痛

などで、これらは免疫が働いた結果として起こる、想定内の反応です。「これらは副反応は、人体が特定の病原体(今回の場合は対象のウイルス)に対する免疫応答を準備する過程で起こるもので、多くは数日で自然に軽快します。

(3)  副作用(side effect): これは "医薬品” に使うコトバ。薬理作用の延長として起こる、望ましくない作用を指します。血糖降下薬で下痢になる、とか高血圧でたちくらみがする、とかホルモンのおくすりで "ほてり"(よくホットフラッシュと呼ばれます)が出る、などがこれにあたります。これがワクチン接種で使用されない理由としては、ワクチンは「薬効」ではなく「免疫反応」を起こすものであり、発熱や痛みは “副” ではなく免疫を強化する、という目的に付随する反応であるためです。ですからワクチンに関する文章のなかにはめったに出てきません。

すなわちまとめると、「ワクチン接種後に起きた出来事全体を『有害事象』と呼び、その中でワクチンとの関係があると考えられるものを『副反応』といいます。『副作用』は主に薬に使われる言葉で、ワクチンでは通常用いません。」・・・という感じになります。

わが国では「副反応」は予測されうる反応であり、ワクチンにともなう「健康被害」:極めてまれだが医学的に因果関係が否定できないもの、と区別されています。この区別が予防接種健康被害救済制度につながっています(厚生労働省のウェブサイトによると「予防接種の副反応による健康被害は、極めて稀ですが、不可避的に生ずるものですので、接種に係る過失の有無にかかわらず、予防接種と健康被害との因果関係が認定された方を迅速に救済するものです」とあります)。

万が一健康被害が起こり、これがワクチンに関連していそうだ、と考えられる場合はまずは接種された方(患者さん)が市町村に申請を出します。その後都道府県を経て厚生労働省が「疾病・障害認定審査会」に検討すべきケースとして送り、そこで審査されて結果が厚労省に通知され、「認定」または「否認」となり、市町村に戻ってきて健康被害に対する救済(お金)が支給されるかどうかが決定する、という流れになっています。

それではこれまでに新型コロナウイルスワクチンについて、どのくらい施行され、どの程度の副反応がこの制度によって救済されたかどうか、などについて触れてみたいと思います。2025 年 8 月 1 日の第 32 回感染症・予防接種審査分科会新型コロナウイルス感染症予防接種健康被害審査第一部会の記録を参考にしています。

・これまでに接種された新型コロナウイルスワクチンは 4 億回以上

・うち、健康被害の届け出があったのが 13,992 件で、健康被害と認定されたのが 9,265 件、否認が 3,951 件(保留が 7 件)

・死亡一時金または葬祭料に係る件数は 1,031 件

ということです。数字だけ並べられてもアレなので、ワクチン接種総計を 4 億とすると、健康被害届け出が 0.0034%(1000 回接種して 3 回くらい)、そのうち認定されたのが届け出数のうちの 66%、すなわち 2/3 ということになります。そして死亡され、その死亡がワクチンによる健康被害と認定されたのは届け出 13,992 件のうち 1,031 件ですから 7.3% ということになります。すなわち「1 万例接種すると 30 例ほどの健康被害が出て、被害報告があったケースのうち 2 例がワクチン関連死亡」ということになります。これを多いと考えるか少ないと考えるかは断じることができませんが、どう議論しても「リスクはゼロではありません」という言葉しか医療者としては申せません。是非ひとりひとりの方がこういったリスクについて、簡単な数字にすぐアクセスできるよう、もう少し厚生労働省など公的機関がわかりやすいスライド、インフォグラフィックを充実してくれると助かるなぁ、と思います。

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