これを読んでくれている成人の方に質問です。皆さんはわざと「おねしょ」をすることができるでしょうか。たとえば夜大量のアルコールを飲み、泥酔するもトイレに行かずに就寝、そのまま入眠できたとします。この場合でも、ほとんどの場合、なかなかおねしょをすることはできません。成人の排尿は「随意排尿」であり、「あえて括約筋をゆるめて膀胱を収縮する」という過程を経ないと排尿できないからです。これに対してトイレトレーニングが完了していない乳幼児は反射排尿で、「あえて」の排尿ではありません。膀胱の機能や生理だけではなく夜間尿の生成量・睡眠状態や骨盤内他臓器の影響(便秘をともなっているか)など、多くの要因が関連します。こういったことからも夜尿症は奥が深い病態であることが類推できます。
昨日の内容をうけて、夜尿症の方とその保護者の方に知っておいてほしい、今日からできる「生活改善」のポイントは下のとおりです。
・夜尿症治療の基本は、まず生活習慣を見直すこと。早寝早起きをしていない夜尿症患児は、これだけで 20-30% の方がおねしょを卒業できる、という研究結果もあります。小学校低学年なら 21:00 までに就寝し、7:00 までに起きる、というリズムを作ってみて下さい。
・さらに「決まった時間に食事を摂る」ようにしましょう。ヒトは習慣のチカラで大きく左右される生物です。これにより自律神経が整えられ、カラダが自動的に「あ、そろそろ睡眠の時間だ」と認識するようになります。
・水分の摂り方に気をつける: 午前中から夕方までは水分をたっぷり摂って構いませんが、夕食時から就寝まではコップ 1 杯(200 cc くらい)程度に抑えましょう。ただし最近の夏は厳しいので、季節に応じて室温は 26-28 ℃ 以下を保つようにエアコンを使って下さい。
・夕食の塩分を控える: 塩分を摂りすぎると喉が渇き、夜間の尿量が増える原因になります。一品料理(丼ものとかカレーとかラーメンとかひとつの食器で済む食事)よりも、定食タイプの食事のほうが塩分はおさえられる傾向にありますので、その点をできる範囲で心がけてみましょう。
・寝る前に必ずトイレに行く: 夜尿症の患児に問診していると、意外とこれができていないケースが多いです。基本的なことですが、習慣づけが大切ですのでこれは必ず守りましょう。
・夜中の冷えから守る: 身体が冷えると尿量が増え、膀胱も縮みやすくなります。冬場は腹巻や厚手のパジャマなどで対策しましょう。夏場は、(上にも書きましたが)部屋を冷やしすぎないようにして、お子さんはたいてい布団をはぎとってしまうくらい寝相が悪いので、腹巻などで特に下腹部を冷やさないようにしましょう。
・夜中に無理やり起こさない: 親御さんの判断で無理にトイレに起こしても、夜尿症の根本的な解決にはならず、むしろ(夜間の尿量を減少させる)抗利尿ホルモンの分泌を妨げることがあります。下で出てくる「アラーム療法」とこの「親のタイミングで患児を起こす」は似て非なるものです。
・便秘の改善:夜尿症で来院される方の(院長の印象としては)1/4-1/3 くらいに便秘があります。便秘を治すと夜尿症の 60-70% が改善するという報告があります。膀胱腸管機能不全(BBD と呼ばれる)と呼ばれ、直腸に溜まった便が膀胱を圧迫したり、腸内細菌叢の状態悪化による全身的な体調低下が排尿に悪影響を及ぼすためといわれています。便の回数でいうと、週 3 回以下だったり、硬くて出すのが大変だったりする場合は、まず便秘の治療から始めることもあります。院長がよく便秘について聞くせいで、ときどき初診時に付き添いの親御さんから「おしっこのことで来ているのになんでお通じのことばっかり聞くのこの医者・・・」という表情をされることがあります。こんな事情があるということをしっておいてもらえると嬉しいです。
さて、それでは上記のような生活改善を 1〜2 か月続けても改善が見られない場合、以下の治療を検討します。
・薬物療法: 夜間の尿量を減らす「抗利尿ホルモン薬(ミニリンメルトというお薬)」や、膀胱を広げる「抗コリン薬」、体調を整える漢方薬などを検討します。薬を出す場合の順番はガイドライン上は ミニリンメルト ⇒ 抗コリン剤・漢方 となっていますが、ときどき漢方だけでかなり改善するケースがあります(冷え性のお子さんなど)。症状を詳細に問診しながら治療薬を検討します。ただし、最初に抗コリン剤を処方することはありません。これだとあまり改善の手応えが少ない印象で、便秘などの副作用が懸念されるためです。
・アラーム療法: 下着にセンサーをつけ、おしっこが出た瞬間にアラームで知らせる装置を使います。これにより、寝ている間に膀胱に溜められる尿量を増やす効果(条件付け)が期待できます。これは有名な「パブロフの犬」研究から思いついたと言われている治療で、「アラーム装着⇒夜中に鳴る⇒親が起こす(ここで脳波的にしっかりと起こすことが大事といわれています)⇒アラーム外して排尿する⇒徐々に夜間の膀胱容量が大きくなる」というデータが世界的に広がり、現在標準治療になりました。ただし短くても 6 週間、長いと 3-4 か月くらい、効果が出るのにかかったりします。薬を使うわけでもなく、大変期待できる治療方針なのですが、家族の協力が必要・アラーム機器に保険適応なし・30% くらいが装着の違和感や家族の協力が続かず脱落、という問題点があります。ただし有効率は 60-70% と多核、再発率は 30% 程度と比較的少ないため、まずはこれを勧めるケースが多いです。
最後に、夜尿症治療で来院されるきっかけとして多い宿泊行事(修学旅行・キャンプ)への対策です。お泊り行事は、お子さまにとって大きな不安要素ですが、貴重な体験の機会でもあります。たとえ夜尿があっても、下記を踏まえたうえで参加するようにすすめています。
・医師への相談: 理想は半年前、遅くとも 3 か月前には相談してもられるとこちらも対応しやすいです。行事に合わせた一時的な薬の調整や、対策のシミュレーションを行ったりします。
・持ち物の工夫: 濡れが目立ちにくい濃い色のパジャマや、市販のおねしょパンツ、専用の吸水パッドなどを活用しましょう。
・先生など引率者との連携: 「授業中そっとトイレに行ける座席にする」「夜中にこっそり起こしてもらう」「失敗した際に目立たず着替えをサポートしてもらう」など、引率側の協力を得ることはとても重要です。
最後にお願いです。大切にしていただきたいのが、「あせらない、おこらない、おこさない、くらべない、ほめる」という 5 つの姿勢です。おねしょをしなかった日はしっかりほめてあげてください。たとえおねしょをしてしまっても、生活改善の約束(寝る前の水分制限など)が守れていたら、その努力を認めてあげることが、お子さまの自信につながります。また、あまりプレッシャーになるような励ましも控えましょう。「頑張ろうな」「今晩は絶対大丈夫だよ」「今年中に必ず治そうな」とか言いすぎると逆効果のことがあります。なるべく保護者の方は大きな気持ちでこの症状に対して向き合って頂けるとありがたいです。
ちなみにおむつについては保護者の生活の質はよくなるものの、児が甘えてしまう、という面もあるので学会でも定まっていません。敷布団が毎回濡れてしまって何回買いなおしても足りない、みたいな状況なら使ってよいと院長は思っています。
・・・いろいろ述べましたが、「夜尿症を乗り越えた」という成功体験は、お子さんが他の困難に対しても自主的に取り組む大きなきっかけになる、という意見もありますし、実際に院長のイメージですが、夜尿の方は「優しく、まわりの気持ちに寄り添える思いやりをもっている児」が多いです。夜尿症は、適切な治療と周囲の理解があれば、必ずゴールが見える病態です。 「たかがおねしょ」と思わず、ぜひ受診を考えてみて下さい。