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怒るな働け、これだけ言われたら何かと思いますが、その意味やこの言葉を残した先生の真意を知ると味わい深い。

[2026.04.14]

皆様の「最も古い記憶」なんでしょうか。アンケートをとると 2 歳半〜3 歳半くらいのものが多いらしいです。院長は(おそらく) 4 歳の頃に保育園で空気を膨らませてつくった小さなプールで遊んでいたのが覚えているコトのなかで一番古いかなぁ、という感じです。なぜか水着ではなく普通の白いブリーフを履いてビチョビチョになっていた記憶が妙に残っています。ちなみにあの 三島由紀夫 は「生まれてすぐに産湯(うぶゆ)につかり、そのときの盥(たらい)の感触やまわりの匂い、差し込む光の様子」を覚えている、と『仮面の告白』で述べています。生下時のことを覚えているとはやはり天才なのかもしれませんね。

そんな院長の「古い記憶」のなかで当時の自宅リビングにあった本棚に『嘉悦孝子伝』表紙があった、というものがあります。小学校低学年の頃はこんな漢字は読めず、高学年でも読めず、結局中学生のころにようやく「かえつたかこ でん」と読む、ということを知った、という記憶も共にもっています。院長はわからないことがあったらなんでもおばあちゃんに聞く子どもでしたが、不思議なことにこの本タイトルの読み方については聞くことなく、自力で読もう、みたいな変な意地があったような気がします。なぜかはわかりませんが。

この 嘉悦孝子 女史、そのおばあちゃんが卒業した学校の設立者で、日本で初めて女性に商業(実学)学校の門戸を開いた教育者の先生です。おばあちゃんは大正うまれでたしか 1916 年だったと記憶しているので、卒業は 1934 年頃になるのでしょうか。当時はおばあちゃんは神田須田町に住んでおり、麹町区土手三番町の校舎があった「私立日本女子商業学校」に通学していました。

おばあちゃんは大変成績がよく、特に数学など理科系の科目はダントツで学年トップだったそうで、さらに勉強するべく高等教育に進みたかったそうです。当時女性が高いレベルの教育を受けようとすると、目指すは御茶ノ水、現在東京科学大学湯島キャンパスにあった東京女子高等師範学校(お茶の水女子大学の前身)ということになります。しかしながらおばあちゃんの父親による鶴の一声「女に難しい学問なぞ不要」という、当時的な判断より、進学は認めてもらえなかった、と後年残念がっていました。

嘉悦孝子さんはその学校の校長として、女性の実学教育に尽力されました。彼女は若い頃、父が経営していた熊本の緑川製紙場で女工として働いた経験があり、当時の女性が置かれた過酷な労働環境や、経済的な基盤がないことによる立場の弱さを身をもって知っていました。当時の女性が置かれた過酷な労働環境や、経済的な基盤がないことによる立場の弱さを、彼女は身をもって知ることができたそうです。

「女性が社会で誇りを持って生きるためには、自ら稼ぎ、家計を管理する能力、つまり経済的自立が必要である」

この実体験に基づいた確信が、後に日本初の女子商業教育校を創立する原動力となったのです。

そのほか女史の有名な言葉に「怒るな働け」というものがあります。おばあちゃんはよく院長にこの言葉を言っていました。笑いながら「人間誰だって怒りたくなるときはあるのにそれをおさえて『働け』とか言われても困っちゃうわよねぇ。でもそういう時代だったの」と言っていました。これは単に「文句を言わずに働け」という意味ではありません。 感情に流されて時間を浪費するのではなく、今自分ができることに誠実に、精一杯取り組むこと。そして、自らの手で生活を切り拓いていくことの尊さを説いた言葉です。「怒るな」ということで精神的な安定の重要性を、「働け」ということで成長やまわりのひとを楽にすることの重要性を説明しているわけです。

おばあちゃんが学びたかった東京女子高等師範学校はかつて御茶ノ水の地にあったのが、のちに「東京医科歯科大学湯島キャンパス」となり孫である自分が通い、嘉悦女子中学校・高等学校はかえつ有明中学校・高等学校として東京の湾岸地区、有明に移転してそこからほど近いがん研有明病院 で自分が勤務するなど、なんだかフシギな縁だなぁ、と勝手に思っており、遠く秦野の地から かえつ有明中高の学生さんを勝手に応援しています。在校生・卒業生の皆様、院長のおばあちゃんをはじめ、素晴らしい大先輩の卒業生がいることを胸に、無為に怒ることなくしっかりと社会のために働いて下さるようお願い申し上げます。自分も常に「怒るな働け」の精神で日々を過ごしたいと思っています。

富佐子おばあちゃんの直筆による短歌です。タイトルが「人間往来」。なんという達筆。女子高等師範に行っていたらきっと素晴らしい教育者になっていたことでしょう。

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