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患者さんがカルテに記載されている自分の病名をみるとちょっとびっくりしてしまうことがある理由を簡単に説明します。

[2026.04.11]

院長が医学生の頃、カルテはほぼすべて紙ベースでした。病棟や外来に実習に行ったときにカルテを読もうとすると、まあ字のキタナイ先生が多く、「・・・なんて書いてあるの?」みたいなカルテが大量にあり、読み取るだけで疲れてしまう、というようになったことが思い出されます(今もそうなのですが、なぜ医者というのは読みやすい字を書くひとが少ないのか・・・)。最近は紙カルテで運用している施設をさがすほうが大変になるくらい、電子カルテが普及しています(皮膚科や形成外科など、一部まだ紙カルテ運用のほうが便利なところは少し大変なようですが)。少なくとも「カルテが読めない」というよくわからない事態に陥ることはなくなった、ということはよかったと思います。

紙カルテ時代、たいていカルテの表紙に「その患者さんの病名一覧」というものが記載されており、長い患者さんだと病名が 8 つも 9 つもついている、なんてことがザラでした。これは「なにか検査をしたり、処方をしたりするためにはそれに対応する病名が必要」という保険診療上のルールによるものです。一応下記のような「傷病名記載上の注意点」というものがあります。

1. 診療の都度、医学的に妥当適切な病名を診療録に記載する。

2. 医学的に妥当な病名を主治医自らがつける。

3. 傷病名欄に症状・病態・徴候等はできる限り使用しない。

・・・などです。ほかにもたくさんルールというか内規があるのですが、これらについてちょっとツッコみをいれてみると、

1. ⇒ 当院をはじめ、地域のクリニックではひとりの患者さんで「高血圧も診て、心臓治療後の血液サラサラの薬も出して、便秘症の薬も出して、腰痛や膝痛についても処方する」なんてことがザラです。こういった「ひとりで多数の併存疾患」は高齢の方に多く、一般的に "ポリファーマシー(多くの薬を服用することで副作用などの有害事象を起こしている、または引き起こしうる状態をさす用語)回避" のために内服薬はひとりにつき 5-6 種類程度以下にしたいのですが、慢性心不全やコントロールがよくない糖尿病をもっていたりするとなかなか難しく、そういった患者さんには検査や投薬のたびに「病名が増えていく」ことになります。

2.⇒ 医学的に妥当・・・。これが意外と難しい、というか実態にそぐわないことがよくあります。たとえば今も院長が日々お薬を飲んでなんとかおさえている花粉症。保険診療上、「花粉症」という病名は実はありません。花粉症に対して、たとえば抗ヒスタミン薬とよばれる第一選択薬(市販でも売っているアレグラとかアレジオンとかのグループがこれにあたります)を処方するときは「季節性アレルギー性鼻炎」という病名が必要になります。一般的な用語で医学的ではないかもしれませんが、これだけ花粉症という一般用語が普及した現在、患者さんへのわかりやすさなどを考えるともう「花粉症」を保険病名に "昇格" させてもよいのではないかなぁ、と思います。あとは院長の専門である排尿障害についても、「前立腺肥大症」という病名はあるのですが、この病名がつけられる患者さんのなかには、医学的な実態としては前立腺が大きくなっていない(肥大していない)けれども「低活動膀胱」とか「男性下部尿路症状のうちの腹圧排尿」などのさまざまな病態が含まれます。こういったときに、「医学的にこれが妥当だ!」とかいって「低活動膀胱」とつけたくても病名リストには残念ながらありません。難しいところですね。

3.⇒ さきほど 2. で前立腺肥大症の話をしましたが、この前立腺肥大症の症状として「夜間頻尿」とか「尿失禁」は起こり得ます。ただしこれらの言葉はあくまで「症状」なのですが、なぜかこれら両方とも「保険病名」として認められています。うーむ。「症状はできる限り使用しない」と書いてあるのに・・・。

という感じになります。

「もっと柔軟に病名を付けてもいいのでは?」と思われるかもしれません。しかし、日本の医療保険制度を維持するためには、避けて通れない背景があり、上記のような複雑なルールがまかり通っている現状があります。現在、日本の国民医療費は約 48 兆円であり、今後も増加が見込まれています。この膨大な費用を公平に負担し、すべての国民が質の高い医療を受けられる「国民皆保険制度」を守るためには、「必要最低限かつ適切な診療(濃厚・過剰診療の禁止)」を徹底する必要があるわけです。厳格な病名の管理やレセプト審査は、いわば「医療費という共通の財産を守るためのフィルター」のような役割を果たしているのです。少し、いやかなりこの「国民皆保険を守る」というのが現状苦しくなってきているのですが・・・。
 
もし患者さんが診断書や何らかの書類を渡されたときに、診察室で医師が説明した内容と書類に記載された病名に、少しでも違和感や不安を感じたときは遠慮なくスタッフにお尋ねください。 それが「保険診療のルール上の名称」なのか、あるいは「検査を行うための根拠として必要なもの」なのか、可能な限り説明します。
 
われわれ医師は、「医学的な立場を堅持しつつ、患者さんの心身の状態を評価・考慮して適切な診療を行う」という責務があります。そのためにはカルテの記載内容や、学会などで通常使用される用語と保険病名との食い違いは起こり得ます。書類やカルテ上の手続きも大切でないとはいいませんが、上記のような事情があることを少しでも知っていただければありがたいです。
 
 

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