文部科学省が行っている「スポーツの実施状況等に関する世論調査」があります。これは「スポーツの実施状況等に関する国民の意識を把握し、今後の施策の参考」とするために行われ、全国 18〜79 歳の男女を対象として有効回収が 40,000 件(220 万のうち)という大規模なものです。
この調査で最初に記載されている「年代別スポーツ実施率(週 1 日以上)」は以下のようでした。
10 代ー57.6%、20 代ー49.3%、 30 代ー46.2%、 40 代ー45.9%、 50 代ー 48.6%、60 代ー55.9%、 70 代ー68.2%。院長の年代、すなわち 40 代が最も低いのです。働き盛りとして日々忙しく過ごしながら、同時に「10・20 年後の健康」がふと頭をよぎる、そんな年代なのに最も実施率が低かったということです。
予防医学の観点から言えば、40 代は人生の大きな分岐点です。ここで運動習慣を持てるかどうかが、将来の健康寿命を決定づけることを示す研究は多数あります。今回はこの調査から、われわれ 40 代(まあ来年は 50 代になるのですが)が「では本日から何をすべきか」を考えてみましょう。
40 代には多くの方が「代謝の曲がり角」を迎えると言われています。筋力が衰え始め、内臓脂肪が蓄積しやすくなるのです。この時期に運動習慣が乏しいというのは、人生 100 年時代における大きなリスクとなります。
特に「40 代女性」は深刻で、性別で見ると、男性 40 代が 51.6% であるのに対し、女性 40 代では 40.0% とさらに低率となっています。女性の阻害要因として「家事が忙しい(21.1%)」が挙げられており、仕事・家事・育児のすべてを背負う「サンドイッチ世代」としての負担が、運動の機会を奪っている実態が伺えます。
男女共通の「運動ができない理由」についてみてみると、「仕事が忙しい」が 32.6%、「面倒くさい」が 26.3%、「体力が衰えた」が 19.2% と、最大の壁は「時間・余裕の欠如」であることがわかります。
しかしながら、これは逆説的に見れば「忙しいから運動できない」のではなく「運動しないから、疲れやすい体になり、さらに億劫になる」という負のスパイラルに陥っている可能性も否定できません。「笑う」ことはさまざまな免疫能を向上させる、という実験があり、このことはよく「楽しいから笑う」のではなく「笑うから楽しくなる」といわれるのですが、運動と時間・体力も同じ様な関係かもしれません。いずれにしてもこの負のスパイラルを断ち切ることこそが、40 代には求められているといえるでしょう。
この調査で、当院がある神奈川県に目を向けてみましょう。全国的な 40 代の不振とは対照的に、令和 4〜6 年 3 年分を合算した「都道府県別スポーツ実施率」のデータによると、神奈川県は 54.7% で、東京都(56.6%)に次いで全国第 2 位という高い順位でした。これは、神奈川県民の潜在的な健康への意識の高さを証明しているのか、はたまた東京都や神奈川県はスポーツしやすい環境が整っているのか。いずれにしても、当院で診察していると、「パークゴルフをしています」「毎朝 1 時間は歩いています」「秦野市カルチャーパーク総合体育館のトレーニングルームは 70 歳以上だと無料なので週 3 回は行っています」など運動に前向きな方は非常に多いと感じます。「全国 2 位」という実績を、具体的な「個人の行動」につなげ、今後は「40 代の実施率」が全国トップクラスに向かうよう、当院でもスポーツを推奨していきたいと思います。
さて、「運動を始めよう」と決心した時、いきなりジムでハードなトレーニングをする必要はありません。調査データが示す、最も現実的な選択肢をご紹介します。現在運動をしていない、いわゆる「無関心層」の方々が「今後始めてみたい種目」として挙げたのは
第 1 位:ウォーキング(散歩等を含む):54.5%
第 2 位:トレーニング:14.8%
第 3 位:体操:10.6%
第 4 位:エアロビクス・ヨガ・バレエ・ピラティス:10.2%
ウォーキングを希望する声が、2 位以下に圧倒的な差をつけています。また、1 年間に実際に実施された種目全体でも、ウォーキングは 62.1%と群を抜いていました。個人的には「早歩きなど、少し負荷をかけたウォーキング」がベストかと思っていますが、このウォーキングは「継続性」と「医学的効果」のバランスが最も良い運動です。
40 代が直面する高血圧や高血糖について、有酸素運動であるウォーキングはそれらのリスクを効率的に下げてくれます。また、忙しい私たちが運動を続けるコツは、「着替えてジムに行く」といった付帯作業を極限まで減らすことにあります。「一駅分歩く」「スーパーまで少し遠回りする」といった日常生活の延長でできるウォーキングは、まさに「まず始めてみる」のに最適な種目でしょう。
それでは、忙しい日々のなかで「せめてもの」運動コースを考えてみましょう。
① 「階段」を最強のトレーニング機器に変える
調査では、10.5% の人が「階段昇降」を運動として実施しています。階段の上り下りは平地を歩くよりも負荷が高く、骨密度を維持し、下半身の筋肉(大腿四頭筋など)を鍛えるのに最適です。駅やオフィスのエスカレーターを止めるだけで、日常生活をトレーニングに変えてみましょう。
② テレワークと「隙間時間」の再定義
運動が増えた理由として「テレワーク等により時間に余裕ができた(6.3%)」という回答があります。 通勤という概念が変わった今、浮いた時間や会議の合間の 10 分を運動の入口にかえてみてください。40 代はしばしば「完璧主義」で挫折しがちですが、10 分の散歩でも血流は改善し、脳の疲労回復にもつながります。
③ スタートは「週 1 回」の低いハードルから
40 代女性のデータでは、運動の「実施率」と「実施希望率」の間に 19.9 ポイントもの乖離があります。「やりたいけれど、できていない」のが現実です。 調査結果で、増加理由として「体力に自信がついた(18.3%)」が挙げられていることに注目してください。最初から完璧を目指さず、まずは「週 1 日」から。一度「できた!」という自信がつけば、体は自然と動くようになります。運動を「義務」ではなく、10年後の自分を救う「お守り」のように考えてみてください。
今後も当院は地域のかかりつけ医として、通院している患者さんの「運動をはじめる最初の一歩」を応援します。近いうちに神奈川県が東京都を抜いて運動実施率トップになることを期待して。