メニュー

手技や手術を十分理解したあとならテクニカルタームは空気のような存在になって自然とクチから出てきますが、外科系の診療科だとそうなるまでに最低 5-6 年くらいかかるんではないだろうか。

[2025.07.14]

昨日のつづきで医療、特に手術におけるテクニカルターム(専門用語)に慣れるまで時間がかかったハナシを。

院長が研修医の頃、診療科内のカンファレンスで「先日の腎摘症例で術後に気胸がみられました。おそらく肋骨切除時に "プロイラ" の損傷があったものと考えられます*1」という発言がありました。

・・・研修医になって 2 週間くらいであった自分は「腹部臓器である腎摘で気胸?なぜ?あと、"プロイラ" って何?」みたいなクエスチョンマークがアタマの中を飛び交いました。これは医者あるあるですが、「上級医師たちの言っていることがわからない。一対一で話しているときなら『すみませんが、〇〇 ってどういう意味でしょうか・・・?』とか聞くこともできるものの、症例カンファレンスなど多くの先生方がいるときは聞きづらく、わからないまま過ぎてしまう」ということがあります。

こういうことを言うと、「わからないことをわからないままにしてはいけません!」という意見をいただくことがあります。ただ、(20 年以上前の)研修医は忙しいのです。疲れているのです。寝ていないのです。だから不本意ながらスルーしてしまうのです(むかし、「忙しい」とは「心を亡くす」と書きます(そうはならないようにしましょう)、という CM がありましたがまさにそれ)。

特に手術中。緊迫した場面で

「その腹膜切るとイントラに言ってしまうよ。今レトロにいるんだから同じ腔内を広げていこう*2」

「骨盤の郭清はウンビリをメルクマールにして進めるようにしたらわかりやすくなるよ*3」

「そのラインで尿道を切るとアペックスに切り込んでしまうよ*4」

など、若手医師の開腹手術時代に数多くの教えをいただきましたが、正直言って最初は何を言っているのかわからないこともしばしばありました。しかしさすがに術中に適当な手技をするわけにはいかないので必ず

「イントラ・レトロってどういうことでしょうか?」と聞いて「全くもう・・・」とかいう感じながら教えてもらって一人前になるのです。外科医は。

大学生になってしまえば「大学受験もためになったな ♪」とか余裕のある発言ができるように、終わってしまえば「喉元過ぎればなんとやら」です。今だから振り返ってこんなハナシをできますが、現在も今年 4 月に研修医・専攻医・レジデントになったばかりの先生方は必死に日々学んでいるわけです。そして 10 年も経つと皆見違えるように立派になります。そんな彼らが「◯◯ 先生はいろいろな用語から丁寧に教えてくれたな」と思えるような卒後教育であってほしいと願います。

ちなみに現在、当院には先週から 2 週間の予定で研修医の先生が実習に来てくれています。日々院長とともに診療に参加してもらっておりますが、教えるときはなるべく平易な言葉を心がけるよう、上の文章を書いていて改めて思いました。

社会も医療も教育、すなわち「ヒトがヒトを教える」ことで進んでいきます。ほんのわずかなお手伝いですが、当院は今後もわずかであっても医療者の教育に携わっていこうと思っております。

「教えることは学ぶこと」!

*1 かつて開腹で腎の手術をしていたときは腰部斜切開とよばれる側腹部に大きな創をつけて行うアプローチが用いられることがありました。このとき比較的やせた患者さんですと視野確保のために切除することがある肋骨(特に第 11 肋骨より頭側)の処理時に肺を包んでいる胸膜を損傷することがありました。プロイラとは英語だ pleura で、胸膜のことです。

*2 泌尿器科の開腹手術では、小腸や大腸の多くが存在する「腹腔(intraperitoneal space = 略してイントラ)」ではなくその外にあるスペースである「後腹膜腔(retroperitoneal space = 略してレトロ)」のみで手術を完結するのが合併症が少なくスマートです。腹腔は「腹膜」に包まれたスペースなので、後腹膜での手術時は腹膜を切ってはいけません。この指摘は「キミが切ろうとしている膜は腹膜で、それを切ると後腹膜腔と腹腔がつながってしまってスマートではなくなるよ」という指摘です。

*3 ウンビリとは umbilical cord/ligament = 臍動脈索/靭帯(実際は血管の退化したものなのでいわゆる靭帯と違うのですが慣習的にこう呼ぶことあり)で、骨盤のリンパ節を切除するときにスペースを分けるのに大変役立つ解剖学的構造物です

*4 アペックスとは apex = 尖部。これは前立腺全摘時に言われることで、尿道を切る時に前立腺の形態を意識しないと(がん なので取り残してはいけない)前立腺組織に切り込まないよう注意してね、という指示です。

・・・泌尿器科、大腸外科、婦人科の先生じゃないとなかなかわからないですがこういうテクニカルタームが飛び交うのが手術室です。使っている当人はアタリマエのように使ってしまうので若手がこういった言葉を知らない、ということを知りません。わからない言葉があったら遠慮なく聞くのが吉です。

 

HOME

最新の記事

Google レビューが最近 ★ 4.0 の大台に乗りました(でも普通にそれを操作する業者とかいるらしので今後すぐまたどうなるかわかりませんが)。
名作古典の冒頭文に出てくる神様をクリニックすぐそばの何気ない細道で見つけて歴史を感じる。
自分に合う医者選びは "百聞(Google レビュー熟読)は一見(診察室に入る)に如かず"、だと思います。
大正から昭和の大女優のエッセイを読みながら院長・師長として二人三脚で歩む夫婦生活を改めて考える。
医療はサービス業のようでそうでもない産業なので "適切な価格設定" は本当に難しいのですがそろそろそういった議論も必要かと。
これまで医療者は「出会いがなかなかない・・・」とこぼすひとが多かったのですが最近はいろいろなツールがあるようです。
もうすぐ大学入学共通テストに医師国家試験と受験シーズン突入ですね。
医療者は "ドレイン" にあまり悪いイメージはないのですが、現代社会でこのコトバがネガティブに使われていたので紹介します。
「医療はヒト相手だからヒトが見て、話して、確認しましょう!」とか言っても "To err is human(ひとは誰もが間違える)" なので "より良いシステムづくり" のほうが結局はミスの軽減につながるはずです。
救急車は病院外からの搬送はもちろん、病院間搬送も行われる極めて重要なインフラですので、適切な 119 番の活用を心がけましょう。

ブログカレンダー

2026年1月
« 12月    
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031  
▲ ページのトップに戻る

Close

HOME