手術は洋食!ー師匠に言われた言葉
いつも日本食を食べていると手術はうまくならないー。20 年ほど前、手術の師匠である当時癌研究会付属病院泌尿器科部長の 福井 巌 先生に言われた言葉です。
どういうことかわかりますでしょうか?
手術は右手と左手が協調して動くことが極めて重要で、それぞれの手がうまく連携することでスムーズな操作が行えます。
洋食は左手のフォークで肉をおさえて右手のナイフで切る、切り終わったら左手のフォークで刺して口に運ぶ。肉にソースをディップする時などもフォークを持つ左手とナイフを持つ右手を有機的に動かしていくことが求められます。
一方和食。左手はお椀を持つことはあってもほとんど細かい動きが求められる場面はありません。箸を操作するのはすべて右手で、ひたすら右手に持った箸で切る、つまむ、よせるなどの操作を行います。手術の場合、こういう「右手ばかり動く術者」の手術は往々にしてスムーズな操作とはなりません。
すなわちキャッチコピー的に言うなら「料理は愛情」「酒は黄桜」(年がバレる)「手術は両手」なのです。
以上のようなことが大前提であるにもかかわらず、泌尿器科でひたすら「片手で頑張らなければならない手術」というものがあります。経尿道的手術と呼ばれる、内視鏡で前立腺・膀胱にアプローチする術式で(下図)、これは 1 本手しかありませんので上に書いたような「両手の協調」ができません。そのために手術は窮屈なもので、なかなかキレイに腫瘍や腫大した前立腺を切除・処理することができません。
・・・ならば「作ってしまおう!」と院長が思ったのがちょうど 10 年前です。このような「自分がいつも行っている手術や手技で疑問や不満に思うこと」を解決するのが研究、特に研究開発を考えるうえでの醍醐味です。明日のブログではその開発についてのこれまでの苦労や成果などを書いてみたいと思います。これはひとつの医療機器のアイディア発想からそれをカタチにしてさらにそれを製品化するまでというのは大変な苦労があることを改めて思い知った貴重な経験でした。