教育って本当に難しく、医学部医学科に多様な人材を入学させようと様々な取り組みがなされていますが、その中で少なからず起こるトラブルというのもあるようです。
先々月〜先月にかけて患者さんの診察をしているときに「孫 or 子供が大学受験で・・・」という言葉がよく聞かれました。院長はそういった医療と関係ない雑談・別件が大好きなので次の外来などで「ご自宅で頑張っておられる受験生の方、2 月に入ったので追い込みで大変ではないですか?」と聞くと、少なくない頻度で「もう(AO 入試などで)合格決まったので大丈夫です。本人も落ち着いています」的な返答を頂きます。ちょっと文部科学省のホームページに行ってみてみると現在、全体では、「一般選抜が 57.5%」、「総合型選抜が 12.2%」、「学校推薦型選抜が 27.6%」となっているそうです(令和 5 年度)。
31 年前に大学受験した院長のハナシをすると、当時ウチの高校はクラスで「学校推薦」を受け進学したのは数名、残り 40 名は一般受験であったと記憶しています(たぶん)。医学部受験については、私立でほんの一部学校推薦があったようですが、多くは一般入試、いわゆる「一発勝負」でした。特に学費が高い医学部は、多くが国立狙いになるので、一次試験(当時は大学入試センター試験)の出来いかんでその年の合否が大きく左右されるという状況。かなりシンプルに「一発勝負の試験でちゃんと日頃の努力を発揮できるようになっておけよ」的なメッセージが受け取れる入試制度でした。
大学のほうも、院長の母校である東京医科歯科大学では「前期入試 70 名」「後期入試 10 名」という入口の別はあるものの、どちらもセンター試験で高得点を取れる学生に有利な制度設計になっており、当時はこのどちらかの入試を突破するしか入学する道はありませんでした。
しかしながら現在、東京医科歯科大学改め東京科学大学医学部医学科の入試制度をみてみると、いわゆる "一発勝負" の「前期入試 69 名」「後期入試 10 名」。これはわれわれの頃とほぼ同数。このほか「特別選抜(学校推薦型)5 名」「国際バカロレア選抜 2 名」「帰国生選抜 若干名」「地域特別推薦選抜 15 名」「私費外国人留学生特別選抜 若干名」と、30 年前にくらべて 24-5 名ほど定員が増え、多様な学生を取得しようとしているのが見て取れます。さらに少し前から「ひとつ以上の大学を卒業したひと」を対象とした「学士編入学」も導入されこの定員が 10 名ほどいるので、本当に多種多様なバックグラウンドを有する学生が入ってくるようになりました。
このなかで多くのひとが疑問にもつかもしれないなと思うのが、東京科学大学の「地域枠」。科学大は文京区、御茶ノ水駅前の極めて交通至便の立地がウリです。にも関わらず、地域特別選抜として埼玉・茨城・長野の学生を 15 名入学させています。東京から地理的に離れた地域の枠がある不思議。ただし制度の設計思想は「医師不足が深刻な地域が、大学と協定を結び、将来その地域で働く医師を “前払い” で確保する」ということのようです。大学が東京にあるかどうかは本質ではなく、地域が “養成の一部を外注している” という構図です。
たしか院長が入学した学年は 82 名の新入生がいましたが、そのうち 1/5 の 16 名を東京の超有名進学校、開成高校出身者が占めていました。ほかにも筑波大駒場・桜蔭・麻布・駒場東邦・桐朋に桐蔭学園など、本当に当時の首都圏有名国私立出身者ばかりでした(ちなみに院長の母校、湘南高校は自分のほかにもう 1 名でした)。地域枠や学士編入を採用すれば自ずと様々な人材が大学に入ってきます。大学に限らず組織が発展するのに重要なのはダイバーシティ。その意味で、地域枠もある程度は認められてしかるべきです。
ただ最近、山梨県の地域枠をめぐり、裁判にまで至ったケースが報道されました。この裁判は地域枠で入学した医学部の学生が「卒業後 9 年間にわたり、県指定の医療機関に勤務すること」と "約束" されていたことに端を発します。学生がその "約束" を履行しないことを希望したところ、最大 842 万円の違約金が発生する、と言われたそうです。このことをめぐり、東京の NPO 法人(これがどういう団体なのかは院長も知りません)が契約条項の差し止めを求めたとのことです。一審の結果、甲府地裁の判決で県が敗訴しました、すなわち「地域枠という制度で学生の勤務地を縛ることはできない」ということです。この、山梨県知事である長崎さんは「医師免許の取得や将来の経済的利益を目的に地域枠制度を利用し、就業義務を果たさない行為が生じる余地を残すことを認めてはならない」と控訴する理由を説明。 採決の結果、賛成多数で可決し、県の控訴が決定した、ということです。
地域枠で入ったにも関わらず、その前提である「卒後決められた年数、その地域で勤務すること」を卒業後に拒否する。法的なことを全く考えずに心情的に考えると、ちょっと違和感を覚えますが、6 年間という長い学生時代に自分のキャリアについての考え方が変化するなど当然ありうること。特に医学生といっても現役ならまだ 18 歳の若者です。未熟なところがあって当然。地域枠で入学して 4-5 年して 23 歳くらいになったときに「あのときは若くてとにかく目の前の医学部合格しか考えておらず、あまり熟慮せず地域枠に飛びついてしまいました!申し訳ありません!やっぱり自分、若いうちに米国にいって最先端の医療に触れてその経験を日本の医療に還元したいんです!!」とか純粋な眼差しで言われたら、これも心情的には認めたくなってしまうような気がします。
難しいところですね。明日は医学部医学科の地域枠について、もう少し深堀りしてみたいと思います。
