昨日までのハナシを受けて院長が自分が進む診療科を決めるに至った積極的な理由と消極的な理由を思い出してみます。
院長は泌尿器科を専門としていますが、よく聞かれるのが「なぜ泌尿器科を選んだのですか?」という質問です。これはなかなか難しく、「ええまあ、なんとなく患者さんひとりを最初から最後まで診られると思ったからでしょうか・・・」などモゴモゴ答えています。
しかし医学生の頃、というかそもそも高校 2 年で出会った手塚治虫先生の『ブラックジャック』を読んで医師を志したので、もともとは外科に進もうと思っていたのです。実際に最後は泌尿器科と第一外科で少し迷ってから進路を決めました。ではなぜ泌尿器科にしたのか。この点について積極的な理由と消極的な理由に分けて考えてみましょう。
- 積極的な理由
- たとえば消化器の がん を見つけるのは内視鏡医、手術するのは外科医、抗がん剤は内科医が行うこともありますが、泌尿器科のがんだとすべて泌尿器科内で一気通貫です。患者さんを長く診られるところが泌尿器科のメリットです。
- ロボット支援手術や再生医療など、新規の技術を取り入れる気概にあふれているのが泌尿器科です。現在日本でロボット支援手術を行っているのは泌尿器科医であり、外科治療で他をリードしていることを嬉しく思っています(国産ロボットの hinotori についても相当泌尿器科医が開発に関わっています)
- 穏やかな先生が多く、みなハッピーに仕事をしています。ぜひ「オペ室で一番怒らないで優しい科の先生は?」と手術室看護師に聞いてみてください。多くが「泌尿器科医かなぁ」と答えると思います。
- 外科治療だけでなく、内科治療も行いますので自ずと全身を診る医師になっていきます。もちろん総合内科専門医くらい「なんでも診られる」わけではありませんが、ひととおりの初期対応ができるようなる経験を積むことができます。
- 消極的な理由
- 外科一本、すなわち手術一本で医師人生を駆け抜けていく自信がなかった。もし利き手を大怪我したり脳梗塞で片麻痺になったらどうしよう、みたいなことを考えながら診療科を選択したことは否めません
- 外科の先生は(当時)コワいひとが多く、人前であっても平気で若手の先生が「そんなやり方じゃ手術が進まねぇだろうが!」「明日までにこの手術の手順をすべて書き出して俺んトコにもってこい!」とか怒鳴りつけられていました。ちょっと「自分には無理かも・・・」と思ってしまいました(あくまでも当時のハナシですよ)。
- 東京医科歯科大学の泌尿器科は(今もそうですが)若手が手技を身につけるために修行しやすい関連病院がたくさん。一方、当時の外科医局はあまりそういった病院がなかったような気がしました(← 何も知らない学生の目から見て、ということですよ。実際はいい施設がたくさんありすので現在科学大の外科医局を検討されている方、どうか安心してください。何よりもう医局に頼るような時代ではありませんしね)。
- これは本当にたまたまそういう先生がいただけだと思いますが、「内科は ◯◯ だから(伏せておきます)」みたいに、「外科は内科よりエラい」みたいな態度の発言を聞いてしまい、「ちょっとそれは・・・」と思うことがありました
- 泌尿器科とくらべて研修中の先生がたくさんいる ⇒ 下っ端の若手が手術を経験できるのはいつになることやら・・・という感じがしました。
などでしょうか。これらはあくまでもまだ医療の現場に出たこともない 24 歳の若造が感じたことなので生温かい目で見守ってやってください。
これらは当時のことなので、現在はもう外科医の働く環境はきちんと整備されていると思います。ただ、外科はどうしても、最初は上の先生に手技を学ばなければいけない「徒弟制度」的なところが多分にありますので「上の先生が言うことは絶対」となりやすいことは間違いないです。現在の若手がなかなか外科に進まないのは、その辺りにも一因があるかもしれません。
では外科医を増やすにはどうするか。・・・ひとまずはもう彼らの報酬を引き上げる努力をするしかないような気がします。それがまずは一番初めにできることのような気が。ただ、そうなると現在の診療報酬だとかなり難しい。そこをどうするかですね。全くの個人的な意見ですが、ある程度は外科医のランク付け(どのようにランクを決めるかは相談が必要ですが)を行い、そのランクに応じた医療費を一部患者さんに負担していただくのはそろそろ本当に検討すべきかもしれません。医師 3 年目も 20 年目も同じ手術代金というのはやはりちょっと・・・。
あとはどこかに「すべて自費でやります!」というスタイルの素晴らしい病院ができてその施設が日本の医療を大きく変えるほどの影響力を及ぼすくらいに力をつけて、患者さんが皆そこで手術したくなるようになる、みたいな施設ができれば大きな変革が起こるかもしれません。個人的にはこういった施設は大きなビジネスチャンスだと思っていますが。
