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本日院長は誕生日を迎えましたが、"突然自分の命がもうすぐ終わってしまうかも" と覚悟した若者が書いた本と、それを覚悟した主人公を描いた本を紹介します。

[2026.02.01]

『罪と罰』。読んだことがあるでしょうか。ドストエフスキーの名作です。・・・ただ、この「名作です」と自分が言えるまでに 20 年以上かかりました。というのも、高校時代に国語副教材である『国語便覧』(現在 "大人の学び直し" としてこの便覧は再ヒットしてるみたいですね)を読んで「面白そう!」となり、世界文学名作へのチャレンジを決意しました。そこでおばあちゃんが揃えてくれた、自宅蔵書の『世界名作全集』で本作を手にとって読んでみたところ・・・「難しい、っていうかとにかくセリフ長い・・・」となってしまい全く入ってこず、残念ながら投げ出してしまいました。現在ならネットで前情報を仕入れて、複雑で覚えきれない登場人物の「正式な名称と愛称」を一覧にしてみながら読む、みたいなことができるかもしれませんが、1992 年当時はそんなものなかったからなぁ。あとはこの作品を理解するには若すぎた、ということもあると思います。結局 37 歳頃でしたかの年末年始に一気読みし、人並みに感動することができました。ロシア名作文学は基本的に "人間的な成熟がそれなりにあるヒト" でないとその価値がわからないような気がしています。

ドストエフスキーの有名なエピソードとして「もう数分後に自分は死ぬ」と覚悟した、ということがあります。すでに作家デビューしてある程度の注目を得ていた彼は 28 歳、農奴制廃止を訴え秘密結社に入り活動していました。しかしながらその結社内部に潜入していたスパイからのタレコミで当局から "危険分子" と認定され、逮捕・投獄。さらには死刑宣告を受けました。しかし銃殺刑が執行される直前、目隠し(当時のロシアにおける死刑は銃殺刑)をされ、「自分はもう数分で死ぬ」と覚悟したその瞬間に、突如現れた急ぎの使者により皇帝からの恩赦が告げられます。

「皇帝陛下の寛大な慈悲によって”死刑執行は中止となった。刑罰は4年間のシベリア流刑に減ずる」。

実は逮捕から処刑中止、減刑すべて皇帝の寛大さを示す仕組まれたパフォーマンスであったのですが、「数分後に命を失う」という境遇に置かれたことはドストエフスキーにとって衝撃的な体験であったことでしょう。ドストエフスキーはのちに、「人生の一瞬一瞬が、どれほどかけがえのないものかを知った」と語ったとされています。彼が後に残した数々の名作には、生きることへの執着、苦悩、救いといったテーマが、圧倒的な説得力をもって描かれています。

そして最近。岩井圭也さんの『サバイブ!』を読みました。なんとなく表紙がキレイというふわっとした理由で何の前情報も知らずに手にとって読んだ本なのですが、22 歳で突然ステージ IV の悪性リンパ腫になった大学生の主人公が、「ただ、精一杯生きるため」に起業し奮闘する姿が描かれる、という一風変わった青春小説の名作でした。

主人公(コタロー)は将来に向けて、これから社会に出ていくはずの時期に急に見つかった悪性リンパ腫。しかもステージ IV。医師の知識からすると、悪性リンパ腫はステージ IV であっても(あくまでも他の がん と比べて、というハナシですが)比較的治療に対する反応が良い疾患、とされていますが、20 代前半の若い男性を襲ったこの疾患のインパクトははかりしれないものがあると思います。「若いから大丈夫」「きっと治る」という言葉では到底受け止めきれない状況。化学療法による食欲低下・脱毛・味覚異常、そして一次治療が奏効せず二次治療に進むときの「自分はこのまま社会に出ることもなく消えてしまうのかもしれない」という恐怖、そしてなんとか寛解(一時的に悪性リンパ腫が消失または縮小して病態が安定すること)副作用、再発の不安。そして何より、「自分の人生は、どこへ向かっていくのだろう」という根源的な問いが、否応なくこの若者に突きつけられます。

そこで彼が「生きる!」ために選んだ道が "起業"。「20 年後の生存率わずか 0.3%」といわれるベンチャー経営。コタローの「生き残り(サバイブ)」を懸けた戦いがはじまります。社名も「サバイバーズ」。まさに自分の人生を賭けた起業です。

起業というと、成功や成長、自己実現といった華やかなイメージを持たれるかもしれません。しかし本作に描かれているのは、むしろその逆です。体調が不安定な中での仕事、うまくいかない人間関係、失敗の連続。「これで本当にいいのだろうか」と自問しながら、それでも一歩ずつ前に進もうとする姿が、淡々と描かれていきます。読んでいて感じるのは、主人公が特別に強い人間として描かれていないことです。怖がりますし、迷いますし、弱音も吐きます。それでも彼は、「生きている時間を、自分の意思で使いたい」と願い続けます。その姿は、病気を経験したことのない方にとっても、どこか身近に感じられるのではないでしょうか。是非ご一読を。本作を元にしたドラマもネットで視聴できるようになっているようです。

『サバイブ!』の主人公とドストエフスキーは、時代も立場もまったく異なります。しかし、「死を強く意識したとき、生の意味が否応なく立ち上がってくる」という点では、共通しているように思います。主人公が起業という不確実な道を選んだのは、成功したいからだけではありません。「自分が生きているという実感」を、なんとか手放さずにいたかったからです。誰かに決められたレールではなく、自分で選び、自分で責任を引き受ける。それは、死を意識したからこそ切実になった「生き方」だったのだと思います。

院長は勤務医生活の長くをがん専門病院で送ってきました。特に若い患者さんから「これからの人生が不安です」「自分は何のために生きているのでしょうか」と尋ねられることはよくありました。これに自分のような者が気軽に伝えられる簡単な答えはありません。けれど、『サバイブ!』を読むと、「生きることは、立派である必要はないのかもしれない」と考えさせられます。迷いながら、転びながら、それでも今日を生き延びる。その積み重ねこそが、生きるということなのだと。

ちなみに本日院長は 49 歳の誕生日を迎えました。ここまでサバイブできたことに親や家族、そして自分や自分の医療を支えてくれてきたすべてのひとに感謝します^_^

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