気持ちいい朝の時間に少しだけダウナーな気分にならざるを得ない日々のルーティン。
毎日クリニックを開く前に軽く駐車場や入口などを環境整備のために見回るのですが、たいてい 1 日に 1, 2 個くらいはタバコの吸い殻、よくわからないモノ(先日なぜか脱いだ後の靴下があった)、虫の死骸(最近ミミズが増えました)などを見つけては拾ってゴミ袋にいれています。
そのなかで一番悲しく残念なのがタバコ。健康増進・疾患治療のためにある医療機関内の駐車場で(来院されている患者さん本人ではなく付き添いの方かもしれませんが)タバコを吸ってそれを捨てていく、というのは医療者として看過できない行為です。マナーとしてもちょっとどうかと思いますし。当院駐車場には「禁煙です!」みたいな看板をとデカデカと張っていないことが原因かもしれないので、今後そういった注意書きを掲示しようかと思っております。できれば駐車場のレイアウト自体も変えられないかと思っているのでいつになるかわかりませんがなるべく早めに。
タバコが体に悪いことを知らない人は、もはやほとんどいないでしょう。テレビでもネットでも、タバコが「百害あって一利なし」と言われているのは周知の事実です。肺がんや心筋梗塞、脳卒中のリスクが上がるだけでなく、喫煙は膀胱がん・食道がん・咽頭がん・胃がん・膵がんなど、実に多くの癌のリスク因子として認定されています。さらには、肌荒れや歯周病、不妊症など、生活の質(QOL)にも悪影響を及ぼします。
でも、人は「理屈」だけでは行動を変えられません。「体に悪い」「がんになりやすい」「寿命が縮む」と聞いても、「明日死ぬわけじゃないし」「ストレス解消になってるし」「他にも不摂生してるし」と、自分なりの “言い訳回路” が作動するのが人間の脳です。ちょうど、夜中にお腹が空いて、冷蔵庫のプリンを見て「食べたら太る」とわかっていながらスプーンを手に取るのと同じ。
ちなみに、禁煙がなぜ「がん予防」にこれほど大きく貢献するのでしょうか。まず有名なのは呼吸器疾患との関連です。日本人男性の肺がんのうち約 7 割が喫煙と関係しているといわれています(少し前のデータですが)。これは、発がん性物質(タールやベンゼンなど)を長年にわたって直接肺に吸い込むという極めて直接的な影響です。
喫煙の影響は肺にとどまりません。血液に乗って体全体をめぐるため、様々な臓器に悪影響を及ぼします。国立がん研究センターのデータでも、「日本の研究では、がんで亡くなった人のうち、男性で 30%、女性で約 5% はたばこが原因」と示されています。がん予防を語るうえで、禁煙は “王道中の王道” です。
ここまで読んで「じゃあすぐに禁煙しよう!」と行動できる人がいたら、それは立派な意思の持ち主ですが、現実はなかなかそうはいきません。高血圧や心臓疾患で当院に来られる方の中でも、「オレは今まで幾度となく禁煙したことがある!」という、(胸を張れる意味が全くわからない)主張をエラそうにする方は少なくありません。
やめられない原因として最大のもの、それは「依存性」。これは単なる「悪いクセ」ではなく、れっきとした「ニコチン依存症」という病気。つまり「やめたくてもやめられない状態」は、怠惰でも意志の弱さでもなく、医学的な支援が必要な状態といえます。だからこそ、禁煙外来ではニコチンパッチや飲み薬(チャンピックス® など。これだけで劇的にやめられるわけではありませんが)を使い、依存性を和らげながら、カウンセリングと並行して禁煙を目指します。当院では院長自らわかりやすくカウンセリングし、一緒に禁煙できるようプログラムを作成しています。やめたいひとは是非お声がけ下さい。
クリニックの駐車場に落ちていたタバコの吸い殻。それはただのゴミではなく、「依存との長い戦いの途中の一敗」。単なる吸い殻ですが、そのなかにいろんなストーリーが詰まっているのだと思うと、なんだか捨てた本人を一方的に責める気にもなれません。患者さんではなくて付き添いのひとだったらガン詰めしてやりたいところですが。ヒトは、頭では「やめなきゃ」とわかっていても、カラダは「まだ大丈夫」とささやき、それを受け入れてしまうことがある生き物です。その矛盾と葛藤に寄り添いながら、「本気でやめたい」と思ったら、是非一緒に禁煙を目指しましょう。
でも駐車場とかウチの敷地に吸い殻捨てるのは人としてやめて。
