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"沈黙の臓器" としていつもガンバっている縁の下の力持ちに、ときには感謝の気持ちを。

[2026.07.26]

あと 2 日で「世界肝炎デー(日本肝炎デーでもある)」です。昨日は、院長が医学生時代に肝胆膵外科へ進むかどうか迷ったこと、その後、泌尿器科医として肝胆膵外科の先生方に外科治療や自らの手技修得のためにいろいろと助けていただいたことについて書きました。本日はもう少し患者さんによく聞かれる「肝臓のハナシ」をしてみましょう。

初診患者さんでしばしばある訴えが、「健康診断で、肝機能が悪いと言われました」という内容です。この「肝機能が悪い」という表現ですが、診療中のコトバでいうと、「AST・ALT・γ-GTP」あたりの数値が高い、ということになります。お酒を飲む方ならたいていご存知の検査項目かもしれません。今回はこれらの検査値について深堀りしてみましょう。

・AST と ALT は「ふたつセット」で語られることが多いが、それぞれに特徴がある

・AST は肝細胞だけでなく、心筋・骨格筋・血球の損傷や破壊によっても上昇する

・ALT は肝細胞障害に対する特異度が高い

⇒ 簡易的な評価方法として AST/ALT 比に加えて LDH (乳酸脱水素酵素。体内で糖をエネルギーに変える際に働く酵素で全身の細胞に存在する。そのため、肝・心・筋などにダメージがあると血中に漏出し上昇。全身の細胞障害スクリーニングとして使用できる)や CK(クレアチンキナーゼ。筋肉や脳に多く含まれ、エネルギーの代謝を助ける酵素。激しい運動・筋損傷、心筋梗塞などで上昇)を用いるとある程度分類可能になります。

・AST/ALT >2(すなわち、AST 値のほうが ALT 値よりも 2 倍以上高い)なら肝細胞障害以外の要因で上昇しているか、もしくはアルコール性肝障害での上昇(アルコールによる場合は AST が上昇しやすい)を考える

・AST/ALT ≦ 2 なら肝細胞障害を考え、 さらに

 ◯ AST > LDH なら肝細胞障害単独と判断する

 ◯ CK 上昇・LDH 軽度上昇であれば筋組織の障害(横紋筋融解や心筋虚血など)を示唆

あたりを考えながら診察することになります。

一方、γ-GTP  も有名ですね。高いとしばしば「お酒の飲み過ぎですね」と言われるアレです。日常的な飲酒によって γ-GTP は上昇しますが、高値だからといって、必ずしも原お酒が原因とは限りません。胆汁の流れが悪くなっている(胆汁鬱滞(うったい)と呼ばれます)や脂肪肝・薬剤性などでも上昇します。実臨床では、ほとんど飲酒しないのに γ-GTP や ALT が高い方もいれば、かなり飲酒しているにもかかわらず、その時点では数値がほぼ正常という方もいます。ですので、もう少しいくつかの検査項目を同時にチェックすることになります。代表的なのは「アルブミン(Alb)」、「ビリルビン(Bil)」、「プロトロンビン時間(PT)」「血小板(PLT)」などです。これらについてもみてみましょう。

・Alb は肝臓で作られるタンパク質で、進行した肝疾患では十分に作れなくなり、血中濃度が低下します

・Bil は本当に高くなると有名な所見である「黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)」が現れます。これが出るくらいの障害であればさらに精密検査をする必要があります(肝のエコーや MRI など)

・PT は血液が固まるまでの時間(凝固時間)を測り、血が止まりにくい病気がないかを調べる血液検査で、肝機能障害がある一定のレベルを超えるとこの数値に異常をきたします

・PLT は、肝の慢性的な炎症によって低くなることがあります。これは肝臓が硬くなる ⇒ 門脈圧(消化管の栄養分を肝内に送り込む太い血管の圧力)が高くなる ⇒ 門脈と連続している脾臓が腫大 ⇒ 脾臓が腫大するとその内部で PLT が破壊され(もともと脾臓は不要になった血球成分を処理する臓器です) ⇒ PLT 減少 という機序によります。

したがって肝機能について心配される患者さんが来院されたときは「炎症がありそうか」「肝臓が硬い様子はないか(エコーやAST・ALT・PLT・年齢から算出する FIB-4 index と呼ばれる数値をみればある程度わかります)」などについても評価して判断します。

以前、肝は腎とならんで "沈黙の臓器" と呼ばれる、ということを紹介しました。肝疾患は高熱や激痛を伴って一気に始まることは極めてまれで、脂肪性の変化などの軽い炎症が何年にもわたって続き、その炎症が修復され、また炎症を起こす、みたいな小さな障害が繰り返されることで、徐々に機能が低下していくという「長年にわたる影響」がその後の機能に大きく関わります。火事にたとえるなら、ボヤが繰り返し起きて少しずつ山林の木が減っていって、どこかで大きな山火事になって一気に機能が低下する、みたいな感じでしょうか。

肝臓が「沈黙の臓器」と呼ばれるのは、悪くなっても弱音を吐かない健気な臓器だから、と考えてみてください。痛みがない。食欲もある。仕事もできる。だから大丈夫だろう。そう考えたくなりますが、肝疾患では、症状がないことと病気がないことは同じではなく、そこには「じっと耐えている健気な臓器、肝の存在」があります。

2023 年に日本肝臓学会は「奈良宣言」を発表し、「ALT > 30 ならかかりつけ医を受診しましょう」という大きなメッセージを発信しました。当院でも日々こういった患者さんについて「ただちに肝臓専門医と病診連携すべき疾患がありそうか?」という点を注意しながら診療しております。

肝については「検査値が少し異常でも症状が何もないから」とは考えずに「症状が何もないのに検査値が異常になるなんて体調に問題なくても何かあるかも・・・」と考えて(クルマに乗るときの「だろう」ではなく「かもしれない」運転みたいな感じで)是非受診するようにしてください。

もし日々飲酒などで少し肝に無理をさせている場合などは、健気にガンバっている臓器のことを少しいたわることができるよう、こちらから助言などさせていただきます。

肝臓さん、いつもありがとうございます。

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