海外と日本を自分の知っている少ない知識で比べてみましたが、どちらもいいところ・改善すべきところはあると感じます。
昨日は「若手が外科医を選択しない現実」についての報道について紹介しました。日本の外科医(今回は泌尿器科医も含みたいので "外科系医師" とさせてください)はなぜそんなニュースになるほど過酷な日々を送らなねばならないのか。院長がこれまでに学会や SNS、論文についてのやりとりで知り合った海外(英国、ドイツ、オーストラリアでひとりずつ)の先生方との雑談で知った彼らの働き方と日本の外科系医師について比較してみます。
- 勤務環境と労働時間:働き方改革により医師の労働時間にメスが入るまで、日本の医師(これは外科系に限らず)は長時間勤務・過重労働が常態化していました。たとえば院長が勤務医だった頃は当直後もそのまま通常の日勤に入り、朝 7:30 に病院に来たら翌日の 19:00(!)までぶっ続けで仕事をするのはアタリマエでした。今振り返れば 36 時間ずっと院内にいたことになります。すごいですね。これは「若かったからなんとかなった」というレベルではないと、今でしたら感じますが、とにかく少なくとも 10 年くらい前まではそんな勤務形態をどの医師もこなしていました。これに対して海外の先生たちは労働時間の規制がかなりキッチリしており、例えばオーストラリアの先生は「週 48 時間以上の勤務は厳しく制限されている」と、数年前聞いたときは言っていました。またドイツでは(待遇を聞くとあまり医師の給与が良くないようで)医師が賃上げするためのストライキもたびたび起こっているそうです。ドイツ人の彼は泌尿器科医なのですが副業で SE(システムエンジニア)をしており、医師としての年収の 50% を稼いでいる、と確か 2018 年頃に言っていました。まあ、国によっていろいろですが、とりあえず日本よりどの国も医師が診療から離れる時間を確保できていることは間違いなさそうです。
- タスクシェア:日本ではこれが最も進んでいないと院長は感じるのですが、日本の医師はが事務作業・雑務・病棟管理まで担うことがあまりにも多い気がします。2016 年に一度ミュンヘンの学会に行ったときに病院見学をさせてもらったのですが、院長が見学した施設の外科系医師は「手術はするが、術後管理は別」「手術のときに医師でなくてもできる仕事(たとえば患者をベッド移送する、術前の消毒をする、検体を病理の部屋へ運ぶ、など)は医療クラークや手術助手が行う」など、業務が細分化され、医師は資格を要する業務だけに専念できるような体制になっていました。
- 報酬:これは一概には言えない印象です。高給取りで有名なのは米国。Google 検索で出てくる AI による回答だと米国泌尿器科医の年収は $368,000-$480,000、1$=¥130 とすると年収 4700 万〜6200 万円となり、かなり破格といえます(特に米国の泌尿器科は外科レジデンシーを修了しないと専門医コースに進めないので高待遇になるらしい)。欧州や豪州は日本の医師と概ね変わらない印象でした。現在は円の価値が落ちているかもしれないのでちょっと難しいところですが。
- キャリア形成と卒後教育:日本では "医局" と呼ばれる大学病院を中心とした組織が医師の人員配置について大きな役割を担っていますが、海外ではフェローシップ制度や専門医資格が体系化されており、個人のキャリア設計自由度、という点では海外のほうがフリーな感じはします。ただし、やはりコネというか、「有名なこの教授のもとで働いていたほうがいろいろと成長しやすい」みたいなところはあると(話していて)感じました(彼らも有名な外科医のもとで勤務したいと思っているようでしたので)。
- 臨床研究と学術活動:院長はこれが最も差を感じました。まず、オーストラリアの例ですが、2-3 名の泌尿器外科専門医にひとりの研究助手というか、研究に関するデータ収集・整理をするスタッフがついていました。そのひとがエクセルへのデータ打ち込みや暗号化、(他施設との共同研究なら)入力データのフォーマット揃えなどをやってくれており、医師はできたデータの統計学的な操作は行いますが、診療業務終了後にひとり電子カルテの前に座ってエクセルにデータ入力をする、なんて医師はいないと言っておりました。現在は知りませんが、院長が知る限りそのようなスタッフがいるような病院は極めて少なく、日本における多くの臨床研究が診療終了後の疲れた医師の手によって作り上げられたデータに基づいて行われていました。これではなかなか「研究論文をたくさん書きなさい」と言っても難しいと思います。
- 外科医教育:手術を学ぶ・教える、というのは大変難しく、最初からできる医師はほとんどいません。一般の方にはコワいハナシかも知れませんが、「誰しもはじめは手術がヘタ」です。しかし、技術の向上についての貪欲さやひとつひとつの手技をキチンとこなす真面目さが日本人外科系医師は大変優れていると思っております。一方海外では外科教育がかなり体系化されている一方、「技術的にはあまりよろしくないが、常勤スタッフになったらあとは一緒に手術をするのは常に自分より下の先生で、手術室では自分の思うようにできる」ところもあり(日本ではスタッフがひとりだけであとはレジデント、というスタイルばかりではありません。人手不足なのでスタッフ同士が手術に入ることもしばしばで外科医の手技が他のスタッフにさらされることが多い印象があります)、個人的な意見ですが、「外科系医師の技術平均値」は 欧米 << 日本 だと感じます。ひとりあたりの手術症例数は 日本 << 欧米 にもかかわらず。
こんなところでしょうか。もっと細かいところを付けばいろいろとあるのですが、思いついたものを挙げてみました。
現在の若手医師が求めるものはなんでしょう。やりがい?自由な時間?高い報酬?最新の医療をやっているというプライド?・・・いろいろありますが、院長が 24 年前の医師になったときと比べて厳しくなったと感じるのは「社会からの医師に対する目」です。インターネットの発達、AI の登場で医療についての知識が随分と身近になりました。ネット時代前は医師が独占的に持っていた医学的な知識が比較的自由化されることになり、一般の方もいろいろな医療知識をリテラシーとしてもつようになっています。そうすると医師の知識や経験に対するリスペクトは自ずと下がってきます。そういった変化を若手医師が敏感にキャッチし、「医師人生、早く稼いで気楽に FIRE したい」とか「手術を一生懸命やっても医療ミスとかいわれてしまう外科系診療科には行きたくない」とかなるのも仕方ないことかと思ってしまいます。
なんだかどんどんハナシがとっ散らかってしまいましたが、明日は院長が、「ではなぜ "外科" ではなく "泌尿器科" を選んだのか」について言及しながら 24 年前に若手医師だった頃にどのように診療科を決めたか、について述べ、少しこの散らかった内容をまとめていきたいと思います。
ちなみに院長はこれまで 24 年間、辛くなって医師をやめたい、と思ったことが少なくとも 100 回くらいあります。・・・多い?でもどんな仕事でも、一生懸命やっているひとは誰しもそんな感じでギリギリのところで踏ん張っているのではないかと思うのですがいかがでしょう。
