源平合戦・南北朝・戦国など混沌とした時代の歴史小説を読むと、どれだけイヤなことがあっても 「でも "昔はよかった〜" とかとても言えないから今もう少しココで頑張ってみよ」と前向きになれます。
最近またマイブームとして歴史小説が来ています。現在猛読中なのが今村翔吾。がん研有明病院泌尿器科で院長よりたくさん読んでいる 湯浅 健 先生にオススメされました。いや、面白いですねぇ。今は『じんかん』を読んでいます。松永久秀を題材として書かれた物語です。本日は秦野市の休日夜間診療所で 9:00-17:00 まで当番だった(夏場に多い疾患やトラブルの患者さんがたくさん来院されました)のですが、その合間に少しでも読みたくなるような内容でした。子曰く、“古きを温ねて新しきを知らば、以て師と為すべし。” すなわち「温故知新」ということですが、先の読めない時代だからこそ歴史を知ることは明日の道標になるような気がします。診療の合間にこれからも読み進めていきたいと思います。
さて、昨日紹介した『黄帝内経・素問・上古天真論篇』に見られる「女子七七(49歳)、男子八八(64歳)」までの成長・加齢の段階的描写。中国伝統医学における「生命のリズム」や「腎気=生命エネルギー」の理論を表しています。そして驚くことに、この 2000 年以上前に記された人体のライフサイクルが、現代においても驚くほどの "気づき" や "再発見" を与えてくれます。
ここでは、原文の内容を現代医学・現代社会と対比しながら、段階ごとに解説してみます。各描写は院長の考えはなく、「古典の内容」ですので特に女性のところの記述で本気(マジ)で受け止めないようにしてくださいね。
■ 女性編:「7の倍数で変化する」
【一七(7歳)】「腎気盛、歯更髪長」
-
現代との比較:永久歯への生え変わりや、髪の成長が著しくなる小学生低学年の時期。現代でも成長ホルモンの分泌が増える時期で、身体の変化が目に見えて始まります。
【二七(14歳)】「天癸至、任脈通、太衝脈盛、月事以時下、故有子」
-
初潮の時期。現在の平均年齢は日本では 12〜13 歳ですが、かつては 14 歳でも珍しくなかったのかもしれません。生殖能力の獲得=「妊娠が可能な身体になる」時期。
【三七(21歳)】「腎気平均、真牙生而長極」
-
親知らずが生えそろう年齢(20 歳前後)。また体力・容姿・代謝などの「全盛期」。腎=ホルモン系・代謝エネルギー系と考えましょう。
【四七(28歳)】「筋骨堅、髮長極、身体盛壮」
-
筋肉量や体力のピーク。女性としての成熟も頂点(注. 院長の考えではありませんよ!)。妊娠・出産の最適期とされる時期。
【五七(35歳)】「陽明脈衰、面始焦、髪始堕」
-
加齢の兆候が出始める。シミ・そばかす、髪のパサつき、白髪。プレ更年期の入口(注. 院長の考えではありませんよ!)。代謝や肌の質に「変化」が現れ始める年齢。
【六七(42歳)】「三陽脈衰於上、面皆焦、髪始白」
-
白髪がはっきり増え始める。肌のツヤが失われ、いわゆる「老化」の自覚が出やすい年齢。ホルモンの低下による影響が顕著に。
【七七(49歳)】「任脈虚、太衝脈衰少、天癸竭、地道不通、故形壊而無子也」
-
閉経年齢の平均に近い。卵巣機能が終わり、妊孕性がなくなる。ホルモンバランスの乱れから更年期障害が出現しやすい年齢。
■ 男性編:「8の倍数で変化する」
【一八(8歳)】「腎気実、髪長歯更」
-
乳歯から永久歯への生え変わり時期、男児も骨や筋肉の成長が顕著になる。
【二八(16歳)】「天癸至、精気溢瀉、陰陽和、故能有子」
-
思春期の真っただ中。精通(精子を射出する能力の獲得)=生殖機能の成熟。性的関心や自己意識の強化が見られる。
【三八(24歳)】「腎気平均、筋骨勁、真牙生而長極」
-
男性としての肉体的ピーク。スポーツ・筋力・精力・集中力などが高まる時期。親知らずが生えることも多い。
【四八(32歳)】「筋骨隆盛、肌肉満壯」
-
仕事・生活・家庭が安定し始める。筋肉量や精力も最も充実する時期。ただし疲労の蓄積も始まる。
【五八(40歳)】「腎気衰、髪墮齒槁」
-
加齢に伴い、白髪・薄毛・歯のトラブルが出てくる。前立腺肥大や性機能の低下も一部で始まる年齢。
【六八(48歳)】「陽気衰、即上焦不盛、面焦、髪白」
-
顔色がくすみ、白髪が目立つ。「老化」の実感が具体的に現れてくる。上焦(胸から上)が衰える=呼吸器・循環器の機能低下。
【七八(56歳)】「肝気衰、筋不能動」
-
筋力低下、肩こりや腰痛などが慢性化しやすくなる。肝=筋肉・情緒・解毒と考えれば、慢性疾患の兆候が出てくる。
【八八(64歳)】「腎気衰、天癸竭、精少、腎臟衰、形体皆極、故好臥、嗜臥也」
-
腎機能・性ホルモンの著しい低下。全身の活動性が落ち、「寝ていたい・休みたい」という感覚が強まる。まさに老年期の典型的状態。
院長はちょうど「六八」。確かにいろいろと「加齢(老化、とは言いたくない)」の影響は感じるようになってきました。最近ほんの少し「これが老眼かも」という見え方が自覚されるようになってきましたし。
■ 現代における「気づき」と価値
この古典的な成長プロセスは、現代の加齢研究やライフサイクル医学と非常に近い内容を含んでいます。特に以下の点で現代にも示唆があります:
-
「加齢」は段階的・リズム的に進行する
→ 老化やホルモン変化は突然ではなく、周期的かつ緩やかに現れるもの。 -
「腎気」は単なる腎臓のことではなく、ホルモンや全身の活力を象徴する概念
→ 腎=ホルモン系・免疫・代謝などの「全身エネルギー」と読み替えると理解しやすくなりますね。 -
「女性は 7 の倍数」「男性は 8 の倍数」で節目が訪れるという考え方は、現代のライフステージの区切りにも通じるところあり。ただし女性のほうが長生きであることは間違いないので「十三七」くらいまでは項目があるといいなぁと思いますが。
-
更年期の概念が古代から存在していた
→ 現代医学でも「更年期障害」は性ホルモンの枯渇と自律神経の乱れにより説明されるが、それを「天癸竭(ホルモンの枯渇)」として数千年前に語っていたのは驚くべき洞察ですね。
黄帝内経のような古典は、当然現代の科学的知見とは異なる用語や理論体系を持っています。ただ、「人間の一生を通じた身体と心の変化」を的確に描写している点では、現代医学の隙間を補完する "直感的な真理" として、われわれも学ぶべきところがあります。個人的には「アンチエイジング」というコトバが(なんだか自然の摂理に精一杯抗っているような雰囲気が痛々しく感じてしまって)いまいち受け入れづらい院長は、こうした古典の知恵を通して 「年齢に応じた身体との付き合い方」 を考え、かわりに「ピースフルエイジング」とかもう少しナチュラルな表現が普及してくれるといいなぁと思う今日このごろです。
