精神科のワークショップを受講した本日、国のトップに立つ方のワーク・ライフ・バランスについての報道について知りました。
[2025.10.05]
自民党の新総裁に高市早苗 氏が女性として初めて就任しましたね。まずは日本の政治業界全体を覆うような、なんとなくの閉塞感を打破するにはよい人選だと感じました。「ワーク・ライフ・バランス度外視発言」を問題にしているひとがいますが、長年にわたる成長のみられない経済状況や中国・北朝鮮などの脅威・トランプ関税・旧弊打破など、大きな複数の課題に取り組むべき国のトップが「わたしは全身全霊をかけて政治活動に取り組みます!」という、意気込みの表明です。あまり「国のトップがそんなこと言ったら過労死が増えたりいろいろなところに影響が!」とか目くじらを立てることもないような気がしています。個人的には。
ワーク・ライフ・バランス。そんな言葉に反応したのは、本日午前中に日本プライマリ・ケア連合学会が提供している「総合医育成プログラム」のなかのワークショップのひとつ、「精神科」を受講したからです。われわれ開業医は思った以上にいわゆる "メンタルの不調" を抱える患者さんを多く診る機会があります。不眠症に始まり、なんとなくだるい、仕事がおっくう、家に帰っても心身がゆっくりできないなど。さらに院長は産業医業務も行っており、いくつかの会社でそこで働く方々の健康管理を担う立場にあります。この際、よく相談を受けるのが職員さんたちの "メンタル不調" による時短や休暇取得、あとは残業が長時間にわたる方々の面談です。
こういった方々と話していて痛感するのはこちらが「しっかりと話を拝聴する」という姿勢です。院長は精神科医や心療内科医ではありませんので、重症のうつ病や双極性障害(いわゆる躁うつ病)などを診ることはできませんが、そういった症状が出ている患者さんに対して「自分は診られないので精神科に行ってください」と伝えるだけですと、特に患者さんがうつ症状を呈しているときなどは「見捨てられた」と感じてしまい、状態がさらに落ち込んでしまうことがあります。これは精神症状だけでなく、身体症状でも全く同じ。「自分はその症状に十分に対応することは難しいのですが、◯◯ 病院の △△ 科ですと専門性の高い診察が受けられると思います。もしご理解いただければ紹介させていただきます。ただ、もし今後もなにか困ったことがありましたら当院を受診することは問題ありませんよ」的な対応が望ましいと思われます。
さて、今回のワークショップで最も勉強になったのは、講師の先生がおっしゃった「心はすべて異なりますので、「これを言えば大丈夫!」みたいなキラーフレーズはない」「ただ、ある一定の「型」となる質問や対応の仕方があるので、そのあたりは臨床医のスキルとして非精神科医も身につけてほしい。ただし「言葉には力がある」ことを忘れずによくよく考えたうえで患者さんに質問したり対応したりしましょう」という言葉です。これは非常にためになりました。ただ、これは身体症状、たとえば降圧剤などのハナシにも通じるところがあります。「ガイドラインで ◯ ⇒ △ ⇒ ◇」という順番で処方すべき、って書いてあるから・・・」というだけで薬を出すなら医師は不要です。その患者さんの運動の状況・睡眠時間・ストレス・飲酒・喫煙・これまでの体重推移・他の生活習慣病の有無・家族歴・働き方(夜勤をしていないか、とか)など、本当にさまざまな情報を確認したうえで、さらに運動療法や減塩指導、体重管理に(配偶者などと一緒の)栄養指導を行いつつ、「ではあなたにはこのクスリが適切ではないかと思いますよ」というカタチで処方を提案する、というのはなかなか AI にはできません。そういう意味では「病気を診るのではなく患者を診る」というアタリマエのことをする、というのはどの診療科にも共通する態度でした。
さて、冒頭で政治のハナシをしましたのでひとつだけその関連で。現在「OTC 類似薬」といわれる、「医療機関から受け取った処方箋で入手できるクスリ(OTC)が薬局などで購入できるクスリと(ほぼ)同じクスリ」の "保険外し" が取り沙汰されています。維新の会が中心になっており、もしかすると高市政権が維新と連立を組んだらおそらくこれは断行されるでしょう。そうなるとまずやり玉にあがるのは漢方です。薬局で売っているクスリの箱にたくさん「満量投与」と書いてありますから。
ただ、漢方医のはしくれとして、"満量処方の OTC =医療用と同等" というのは必ずしも正しくはないことを言っておきたいです。OTC の中にも満量に近い処方量をうたう製品は存在しますが、
医療用は医師の診断後に用量・服用期間を調整していること、医療用は患者さんの病態にあわせた用法の変更や調節が可能、などの理由があるからです。特に漢方はややもすると「自然由来のものだから副作用がない」などと誤った認識で多数の方剤を内服していることなどもあります。最近は漢方についても日本東洋医学会による学術的な評価の推進・漢方を診療で活用する医師や医療機関の増加により、多くの科学的根拠(エビデンス)が創出されています。漢方薬を一律に OTC 類似薬として保険外しの対象とすることは、医療の質が損なわれる心配があります。社会保険料の増加から、医療に関する問題は近いうちに必ず選挙の焦点になるはずです。その際に高市さんが(まだ総裁・首相をやっていれば)どのような考えで対応していくか、注視しておきたいと思います。
まずは日本初の女性自民党総裁・首相の手腕を数カ月はしっかり見ていこうと思います。日本国と国民のために(どうか過労死はしない程度に)がんばってほしいです(イラストは Chat GPT が描いた「それっぽいひと」です。ねんのため)。
