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腎機能を維持するには現在患者総数 552 万を超えるあのコモンディジーズをしっかりとコントロールする必要があります。

[2025.08.23]

糖尿病というのは長い歴史のある疾患で、なんと紀元前 1500 年頃、エジプトのパピルスに記述ですでにそれらしい病態が記録されています。日本でも古い文献の記載から、「このひとはおそらく糖尿病であったのだろう」と思われる歴史上の人物というのは多くみられ、有名どころは平安時代、藤原実資が残した『小右記』。これは実資の日記ですが、当時権勢を誇りすべてが意のままであった(しかし、実資はその権力に屈せず自分の主張を貫いたひと、と評価されています)藤原道長が「水をたくさん飲み、徐々にやせ衰えっていって目も見えなくなり死を迎えた」という記述があります。かなり糖尿病っぽい。また、織田信長も "飲水病" を患っていたとの記録があり、当時は "やたら水を欲しがる病気(飲水病)" と考えられていたので、おそらく彼も様々な症状を患いながら天下一統事業を進めていったのでしょう。ちなみに院長が好きな漫画で『信長のシェフ』という、「現代の凄腕料理人がタイムスリップして信長の専属シェフになる」というハナシがあるのですが、このなかで信長が現代のプロ料理人である主人公を専属料理人として雇うことを決めるとき、「ワシは毎日新しく美味いものを食したい」というセリフがあります。 いかにも新奇性を好む信長が言いそうなセリフですね。

そして先日、作品『こころ』とともに夏目漱石について触れたことがありました(2025/8/14 のブログ)。この漱石、惜しくも 49 歳の若さ(現在の院長の 1 歳違い!)で亡くなります。Wikipedia にも記載がありますが、漱石はなんとその翌日に東京帝国大学で解剖され、執刀した生前から主治医であった長興又郎医師(院長が長いことおせわになった がん研有明病院の母体、がん研究会や日本癌学会の設立に尽力した名医です)によると、糖尿病性腎症であったと記録されています(長興又郎. 夏目漱石氏剖検(標本供覧), 日本消化器病学会雑誌 1917 年、このリンクから全文が読めます。演説内容を文字起こししており、漢字以外がすべてカタカナなので少し読みにくいですが: https://www.jstage.jst.go.jp/article/nisshoshi1902/16/2/16_2_105/_pdf/-char/ja)。これによると漱石の直接死因は 2 度の出血(胃潰瘍ではなく十二指腸かも、と記載)に関連と書いてありますが、腹腔内に強い癒着があった、とも書かれているのでもしかすると糖尿病の進行による膵疾患などがあったのかもしれません(院長も論文をサラッとみただけなので後日じっくり読んでみます)。

そんな糖尿病ですが、現在は 1998 年に透析の原因疾患 1 位になって以来ずっとトップのままで推移しています(透析となる患者さんの 40% が糖尿病)。こうなると腎機能を守るにはとにもかくにも血糖コントロール、ということになりますね。本日は糖尿病と腎機能について簡単に述べてみます。

HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)。皆さん、聞いたことはあると思います。糖尿病の診断・治療効果判定に用いられる重要な指標のひとつですね。これは「(赤血球内のタンパク質で、酸素を運んでいる)ヘモグロビンが、血液中のブドウ糖とくっつくと糖化ヘモグロビンになる」ことを利用した指標で、糖化ヘモグロビンがどのくらいの割合で存在しているかを割合(%)で表したものです(血糖値が高い状態が続くとヘモグロビンに結合するブドウ糖の量が多くなるので  HbA1c は高くなる)。およそ 1-2 ヶ月の血糖値の推移を表すと言われており、非常に便利なため現在血糖値が高い場合は必ずチェックする項目です。よくこの値については「7% 未満にしましょう」と言われておりますが、これには根拠があり、New England Journal of Medicine 1993 年に 1 型糖尿病を対象として、インスリン療法により HbA1c 7.0% vs. 9.0% で網膜症・腎症・神経障害の割合を調べた研究がそれです。結果は皆さん予想のとおり、7.0% 群のほうが成績が良かったのと、その後の臨床試験でも概ね同じ結果となったため、HbA1c < 7 というのが一定の目標値として定まったいきました。ただし、"下げすぎ" はダメで、いわゆる低血糖発作は生存期間を短縮させる、というデータもあるので、「血糖や HbA1c 値は患者さんごとに目標値を定めて、かつ低血糖は避ける」というのがわれわれが目指すところになります。

さて、未治療の糖尿病で尿タンパクもプラスになっていて、食事・運動・喫煙・睡眠などの生活習慣を変容できない!と声高に叫ぶような方をみると、「糖尿病のおくすり(経口血糖降下薬)を始めませんか?」と言いたくなりますが、いきなりこう言ってしまうと「一生飲まなくちゃいけないかもしれないクスリをそんな簡単に始めたくないよ・・・」となってしまいます。患者さんの気持ちを考えれば当然ですね。ですので生活様式に関する指導をしたうえで、「◯ ヶ月(血糖値や HbA1c の値によりますが、血糖値 400 以上とか HbA1c 10 以上など異常高値は原則として糖尿病専門医の先生に紹介しますので、だいたい 3 ヶ月でしょうか)たったときの生活スタイル・血糖値・HbA1c などをみて目標値に達していなかったら内服を始めることを約束できますか?」とあらかじめ患者さんに "次の一手" を示しておくことが大切だと感じています。ココロの準備をしておいてもらうと、その間に「血糖コントロールは糖尿病早期からしないとよくないんですよー」とか「血糖値が高い期間が長いほど臓器障害が出現しやすくなってしますから」みたいに、ちょっと言葉は悪いのですが、"ボディーブロー" のように患者さんにわかってもらうように伝えています。

クスリの各論についてはいろいろとありすぎてとてもこのブログでは伝えられませんが、ひとつだけ。泌尿器科医として糖尿病患者さんで紹介を受けることがあるのが SGLT2 阻害薬内服中の患者さんに生じることがある、尿路・陰部感染症です。SGLT2 阻害薬とは簡単に言えば「尿中に糖分を捨てるクスリ」で、尿中の糖分はほぼ全例で(++)〜(+++)になります。こうなったときに起こりやすくなるのが膀胱炎などの尿路感染症と、どちらかというと女性に多いのですが、陰部のカンジダなどの皮膚・粘膜感染症です。このあたりはあまりルーティンで診察される部位ではないので、当院でも院長が SGLT2 阻害薬を処方している患者さんには積極的に「最近頻尿とか陰部のかゆみや違和感はありませんか?」と聞いて、特に後者の症状がある場合は陰部の視診・内診を薦めるようにしています。特にカンジダなどの真菌感染がおこると治癒まで時間がかかることが多く、これまで数例ですが SGLT2 阻害薬を中止して陰部感染症の治療をしている間に肝心の血糖コントロールが悪くなってしまったことを経験しております。SGLT2 阻害薬は血糖値だけでなく、腎機能・心機能の保護作用が示されており、特にタンパク尿が出ているような患者さんにはぜひ使いたいクスリです。まだまだデータとしては不十分ですが、寿命までのばしてくれる、という論文もあるくらい、今後期待される治療薬ですので、合併症をしっかり管理してクスリの良い部分を享受できるようにしたいですね。

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