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薬剤耐性について考えていくともし次のパンデミックが起こったときも少しだけ冷静に対応できるかもしれません。

[2025.07.25]

最近抗菌薬のことばっかり書いていますが、その話題も本日で打ち止めとします。この内容は院長も最近(というか今年の 4 月に参加した日本泌尿器科学会総会のセミナーで)改めて知ったのです。特にびっくりしたのが「2015 年の時点で年間 70 万人が AMR(薬剤耐性) に関連して死亡していると推計され、このまま無策でいけば 2050 年には年間 1000 万人超の死者が出ると警告されている」ということです。2050 年となると、院長が 70 歳を超えてだいぶ身体が感染に弱くなっていることが想定される年齢です。その頃日本や世界がどうなっているかわかりませんが、"健康で文化的な最低限度の生活" を送ることができているとすればおそらく様々な医療資源を使わせていただいていることでしょう。そんな頃に抗菌薬の効かない世の中が来ていると思うと・・・心配になってしまいますね。

まあこんなことを書くと「自分のことばかり気にしているヒト」みたいに思われてしまいますが、最近当院でも尿検体の培養検査から ESBL 産生大腸菌(強い耐性を持つ大腸菌と思って下さい)が頻繁に検出されており、喫緊の課題であるという認識を強く持っています。

さて、そんななかで 2025 年 6 月にアメリカの CDC(疾病予防管理センター)が "AMR の観点で脅威となる細菌" というレポートを発出しました。それによると「切迫した脅威(Urgent Threats)」としてカルバペネム耐性腸内細菌(泌尿器科病棟における尿路感染で大きな問題となりうる細菌)が、「重大な脅威(Serious Threats)」として ESBL 産生腸内細菌(先ほどの ESBL 産生大腸菌など)が挙げられるなど、院長の専門である泌尿器科領域で対応すべき AMR のリスクとなる細菌が提唱されており、日本でも早急な対応が求められる事態になっております。ではどうすればよいでしょうか。

抗菌薬の乱用は、いわば細菌との「軍拡競争」を引き起こしました。人間が新薬を出せば、細菌はすぐに耐性を獲得します。しかも製薬企業にとって抗菌薬の開発はあまり儲からない(短期間しか使えない&すぐに耐性が出る)ため、新薬の開発も滞っています(以前のブログ(https://hadanokitaurology.jp/blog/%e4%ba%ba%e7%94%9f%e3%81%ab%e3%81%8a%e3%81%84%e3%81%a6%e9%87%8d%e5%a4%a7%e3%81%aa%e6%b1%ba%e6%96%ad%e3%82%92%e3%81%99%e3%82%8b%e9%9a%9b%e3%81%af%e3%81%9d%e3%82%8c%e3%81%be%e3%81%a7%e3%81%ab%e3%81%a9)で武田薬品工業が「抗菌薬か、抗がん剤か」の選択を迫られ後者を選択したことで米国における同社の発展につながった、というハナシを紹介しました)。つまり今後は、細菌を完全に排除する「ゼロリスク」的発想から、制御しながら共存する「スマートリスク管理」の発想にシフトすることが不可欠です。・・・なんだか新型コロナウイルスで聞いたようなことですね。

そんななか、近年注目されているのが「腸内フローラ」を代表とする常在菌との共生です。ヒトの体内・体表には数百兆個もの微生物が共生しており、免疫・代謝はもちろん、神経活動や精神心理にまで影響を与えているといわれています。

抗菌薬は有害な菌と一緒に(いわゆる)善玉菌も一掃してしまうため、過剰に使えば使うほど自己免疫疾患やアレルギー、精神疾患のリスクも高まることが懸念されます。今後は、こうした “細菌と人との共生環境” を守りながら制御するバランス感覚が求められていくでしょう。その "共生ライン" がどこなのか、この点を常に探索していくことが求められます。これはかなり難しい舵取りになるでしょうが・・・。

AMRとの戦いは、医療技術の進歩だけでなく、人類のライフスタイルや価値観そのものの見直しを要求しています。つまり「細菌=敵」とするのではなく、「うまく付き合い、人類も細菌から学ぶ」ことが、21 世紀的な視点といえそうです。われわれはこれから、「必要な場面で抗菌薬を有効に使い」つつも「不必要な使用は避け」、「細菌の持つ知恵や進化をうまく利用して」、「より洗練された "共存の知恵" を育てていく時代に入って」いると言えます。

・・・これは 2020 年からあれだけ世界中を巻き込み現在も臨床でしばしば遭遇する COVID-19 などの新興感染症ウイルスにも共通する認識と言えるでしょう。まあ、このことをアタマでわかっていても、次のパンデミック発生時にも恐怖や不安に駆られた "極端な意見" による世論形成がされてしまうのが人類なのかもしれませんが・・・。

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