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親が医師だと子どももいろいろ葛藤があったのかもしれませんが今は楽しそうにやっています。

[2026.06.11]

勤務医をしていても、開業医をしていても患者さんにときどき「先生、お子さんもやっぱりお医者さんにされるんですか?」診察室で患者さんと世間話をしているとき、ふと投げかけられるこの問いに、私はいつも一瞬だけ答えを窮してしまいます。微笑みながら「まあ、本人の自由なので・・・」と返しながらも、心のどこかで微かな戸惑いを感じている自分に気づくからです。

かつて、医師の家庭に生まれた子どもが医師の道を継ぐことは、疑いようのない「美しい美徳」であり、ごく自然な流れでした。私自身、医療の現場に身を置き、研究と臨床の両面でヘルスケアの進歩に寄与することに深い誇りを持っています。医師とは、これ以上ないほど情熱を注ぐ価値のある素晴らしい仕事です。しかし同時に、一人の親として現代の医療を取り巻く環境、そして以前より徐々に厳しくなる医療の現状を見つめたとき、かつてのような「医師の跡継ぎ」という物語を無邪気に信じることができなくなっているのも事実です。

今回は、一人の開業医として、また親として、今の時代に「医師を目指す」ということについて、自分なりの思いを綴ってみたいと思います。

1. 医師という職業

まず、大前提としてお伝えしたいのは、医師という仕事には他では決して得られない「本質的な輝き」があるということです。最近の「医師への意識調査」を見ても、実に 60% が「人の命に関わる魅力的な職業である」と答え、45% が「学問としての魅力」を挙げています。これは単なる数字以上の重みを持っています。われわれが日々感じているのは、単なる労働の対価としての充実感ではありません。

例えば、重い病を抱えて来院された患者さんが、治療を経て笑顔で「ありがとう」と帰っていかれる。その瞬間の喜びは、何物にも代えがたいありがたい気持ちでわれわれ医療者の胸を震わせます。また、研究を通じて得られる知見が、今は救えない誰かを数年後の未来で救うかもしれないという希望。それは、(現在はかつてより少なくなりましたが)研究に従事する医師が厳しい実験の中に見出している「知的な冒険」そのものです。

人類の健康(ヘルスケア)の根幹に関わり、目の前の一人と人類全体の未来の両方に貢献できる。このダイナミズムこそが、医師という職業の最大の醍醐味だと確信しています。

2. 変化する「医師への道」:親世代の常識が通用しない現実

しかし、この「輝ける場所」へ至る道は、私たちが若かった頃とは劇的に姿を変えてしまいました。現代の医学部受験は、もはや「かつての難関」とは次元の異なる、受験エリート層による熾烈な争奪戦となっています。

具体的な偏差値の推移(私立医学部を例とした目安)を振り返ってみると、1970 年頃は日東駒専レベル以上の学力があれば合格圏内に入れる医科大学がいくつもありましたが 2000 年頃から駿台偏差値 58 以上(MARCH レベル以上の学力が必須)となり、現在は偏差値 63 以上(早慶レベル以上の学力が最低ライン)といわゆる偏差値が高騰しています。かつては「10 人の受験生のうち、上位 2 番以内に入れば合格」と言われていた世界が、現在は「30 人のなかで上位 2 番以内」に入らなければ難しくなってきました。実質的な難易度は倍に跳ね上がっている、といえます。

背景には、私立医学部の学費値下げにより、かつて東大や京大などの最難関を目指していた層も、東京や京都などの都心部を離れずに医学部を受験している現状があります。今は「医学部ならどこでもいい」という時代ではなく、日本中のトップ層との真っ向勝負なのです。親の時代の「なんとかなるだろう」という経験則は、もはや通用しない厳しい現実を私たちは直視しなければなりません

3. 揺れる医師たちの本音:アンケートに見る「勧めたい・勧めたくない」

こうした激変する環境の中で、当の医師たちは自分の子どもに対してどのような視線を送っているのでしょうか。最新の意識調査(m3.com や日経メディカル等の医師専門プラットフォーム)を統合すると、揺れ動く「親としての顔」が見えてきます。

驚くべきことに、現在「子どもに医師になってほしくない」と答える医師は約2割に達しています。また、50.7% という過半数の医師が、子どもの進路に「介入しない(本人に任せる)」というスタンスを取っています。ポジティブな本音としては 「資格があり、経済的・社会的な安定感は随一である」、という感触がある一方、ネガティブな本音は「責任の重さ、肉体的・精神的な負担が、努力の割に合わなくなっている」、というところなのかもしれません。

興味深いデータもあります。ある調査では、1 人目の子どもが医学部へ進む割合は 40%、2 人目は 43 %と高いものの、3 人目になると 30 %にまで低下します。これは、親の期待が次第に分散され、より自由な選択を許容するようになる心理の表れかもしれません。

4. 「医師家系」という目に見えない重圧

ここで、医師の家庭で育つ子どもたちの視点に立ってみましょう。立命館大学の研究報告や、医師たちの体験談からです。「医師の家に生まれたからには、医師になるのが当たり前」 その空気感は、子どもにとってしばしば「消極的な選択」を強いることになります。恐ろしいのは、親の無意識の「記憶のすり替え」です。親が自分の願望を子どもの言葉として上書きし、「あなたがあの時、なりたいと言ったから高い学費を払っているんだ」と、逃げ道を塞いでしまう。

さらに、医師家庭には特有の閉鎖的なプレッシャーが存在します。「子どもが医学部に行かなければ、親のしつけが悪いと言われる」という世間体への恐怖が、親子双方を追い詰める、なんてこともあるようです。子どもが自分の本当の願いを語れず、「医師になるしかない」と自分に言い聞かせて生きることは、あまりにも切ない物語です。

院長は親が特に医療者でもなく、自分で決めて医学部進学を志しました。子どもたち(娘と息子がひとりずつ)はもうふたりとも高校を卒業しており、自らの道を進んでいます。親としては医師・非医師、とかではなく、彼らが人生を自らの手で切り拓いていってくれれば、と祈るのみです。

ふたりともがんばって!

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