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診療所の院長給与と国民平均所得の "見せ方" をみていると、なんとなく省庁が提示するデータの見せ方に作為を感じざるを得ない晩秋。

[2025.11.30]

最近インスタをブラウズしていたら、ロイター社「世界の幸福度ランキング」というページ(https://www.reuters.com/graphics/LIFE-CAREER-LJA/0100B0CQ0S3/)にたどり着きました。1 位は 8 年連続でフィンランド、以下デンマーク、スイス、アイスランド、ノルウェー、オランダ、スウェーデン、ニュージーランドと上位はほぼすべてヨーロッパの高福祉国家が占めていました(そのなかで院長が移住したい国、ニュージーランドは健闘していますね。さすが)。日本はというと、韓国よりも 1 つランク下の 62 位。G7 のなかでは最下位、OECD 諸国のなかでもかなり下の方のランクとなっております。

ではこの幸福度はなにを "幸福" として評価しているのでしょうか。世界幸福度報告では、ひとが感じる幸福(主観的ウェルビーイング)を測定する方法として "生活評価" と"感情" の 2 つを枠組みとして採用しています。 

生活評価・・・ある人の生活またはその特定側面に対する自己評価の。0 から 10 まで 11 段階の自己評価

感情・・・ある人の気持ちまたは情動状態。通常は時間的流れのなかで "特定の一点" を基準として比較することで評価。笑顔・喜び・幸福感などの「肯定的感情」と、心配・悲しみ・怒りなどの「否定的感情」があったかどうかをみる。有無を測る。ちなみに日本は、否定的感情が少ない一方、肯定的感情も少ない傾向があります。「ネガティブな感情を抱く体験が少ないが幸福感を味わう体験もまた少ない国」ということです。

ランキングを決めるうえで客観的な数値として用いられている指標が 2 つあります。「ひとりあたり GDP」。これは 28 位でした。もうひとつの指標が「健康寿命」があり、これは 2024 年では(たしか) 1 位だったと思うのですが、2025 年は 3 位に後退しました。この指標は日本が常に上位におり、「フリーアクセス」「国民皆保険」「医療・介護従事者による親身なケア」などがこの結果に貢献している・・・と思いたいです。

さて、このような一応の成功を収めている日本の医療ですが、昨今の医療業界で語られる話題は専ら暗いものばかり。特にわれわれ医療機関経営者にとっては非常に厳しい話題が多いです。そのなかで院長も「これはどうかなぁ・・・」と思ったのが今月 11 日に実施された「財務省財政制度等審議会」の「財政制度分科会(本当にこういった お上 の名称はややこしいですね)」における社会保障に関する議論のなかで出てきた資料です。

2026 年度予算編成に向け財務省が作成した資料のなかにはこんなことが書かれていました。

「診療所の利益率や利益剰余金は全体として高水準」

「開業医の報酬水準の高さは国際的にも際立っている」。

・・・とのことです。

ここで出ている財務省の資料では院長の給与費が 2653 万円、となっています。しかしこれには下のような事情があります。

(1) コロナ対策などで医療機関に補助金が入った 2022 年の古いデータをもってきている(診療報酬が 2024 年改定され、これにより診療所の収入は落ち込んでいます)

(2) 自費診療を積極的に行っているクリニックが入っている

(3) 院長給与費として「平均値」が用いられている

院長は財務省を目の敵にしているわけではないのですが、これらについてはちょっと反論したくなります。

まず (1)。(特に当院のような法人化しておらず、個人で経営しているクリニックでは)そもそも院長給与はたとえこの額であったとしても、ここからいろいろ引かれます。当院の場合は税理士さんの最終報告書をみても、給与は看護師である妻と "一緒くた" になっており、たとえば「妻は看護師長として獅子奮迅の働きをしているので給与をもっと上げたいのですが・・・」と伝えるのですが「他の常勤スタッフと同じくらいしか認められません!」とキッパリ言われてしまいます。ときどき娘は息子がクリニック業務を手伝ってくれるのですが、その時給についても同じ。「他のスタッフと同水準でないとダメです!」と強く言われます。それが入っての給与費、と考えるとそれほど「報酬水準が高い」とは言えないよなぁ・・・と思うのです。

次に (2)。財務省に確認したいのは、医療機関のあり方的に、「国として自費診療を推進したいのですか?」ということです。統計に自費診療クリニックをいれて計算する、ということは財務省的にはそういったクリニックがデフォルトであると。そうなると、歯科のようにいつのまにか「ここまでは保険、ここからは自費」みたいな「なし崩し的な混合診療」をこれから医科についても導入していきたいのかなぁ・・・と思ってしまいます(まあでもそうなんでしょう)。

最後に (3) 。これは「平均所得の話題」と似ています。厚生労働省が出している「国民生活基礎調査の概況」(2024 年)をみると、平均所得金額は 536 万円です。これはよく「実態と乖離している」と批判が出ます。そして同時に示されている、「中央値」=  410 万円がちょうど「実態と合致している」とされます。これは統計学的には極めてアタリマエのことで、所得というのは下限値は 0 と決まっていますが、上限値はありません。1 億円稼ぐひともいれば大谷翔平さんのように「何個 0 をつければ良いの?」というひともいます。そういった「平均を吊り上げるひと」というのが必ず存在します(下のグラフを比べるとなんとなくカタチが似ていることがわかると思います)。こういった状況を説明せずに「平均値がこんなに高いんだからお前ら儲けすぎだ」と言われてしまうと、ボリュームゾーンと呼ばれる中央値かもしくはその下にいる多くのひとは困ってしまうのです。

日本医師会のまとめですと、最近の診療所の経常利益の最頻値は 0-1%!!です。また、診療所の医師は勤務医を経て開業するのでベテランが多く、現在平均年齢は 62 歳を超えていると言われています(現在クリニック閉院の最も大きな原因が「高齢化」。どこかで一気に開業医が引退し、医療機関が数多く失われるときがもうすぐ、とよくいわれます)。開業して 3 年目となり、しみじみ思いますが、開業医の多くは診療・人事・院内整備・渉外などを含めて「余裕で過労死レベル」で日々働いています。あまり「開業医は儲かっている」という方向のコメントを財務省や厚労省にされてしまうと、われわれ現場は悲しくなってしまうのです。

一昨日のブログで「分断より対話」とタイトルにいれましたが、この段階で「診療所から取り上げて、病院に手厚く」というのはポジショントークと捉えられるかもしれませんが、院長は賛同しかねます。まさに「開業医 vs 勤務医」の分断を生む発想だからです。今回の審議会・分科会に残念ながら医療関係者のメンバーは不在。このような大切な議論でなぜ医療者をいれてくれないのか、不思議に思ってしまいます。

もし「持続可能な医療のためにどんどん自費診療にしていく」方向に舵を切ると、行き着く先は「旅行中に階段で滑って転んで手首を骨折し、日帰りの手術をしてもらったら 600 万円請求された(最近ある知り合いの医師が実際に経験)」米国のようになってしまうかもしれません。

そうなると「世界幸福度ランキング」における「健康寿命」が下がり、「否定的な感情」が上がって全体のランキングがますます下がってしまう気がします。国民皆保険が激しく崩れると、日本は "国としてのありよう" が大きく損なわれる、と信じている院長でした。

(左の図は『日経メディカルオンライン』から、右は厚生労働省資料より引用)

 

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