院長はコーヒーが飲めないのでレストランで食後はいつも "産地や飲み方で味わいが変わる世界で最も飲まれているお茶" をいただいております。
現在はいろいろあるようですが、院長が中学生時代は中 1 で地理、中 2 で歴史、中 3 で公民をやる、というのがデフォルトでした。そして 1989 年・中 1 のときベルリンの壁が崩壊し、1991 年・中 3 でソビエト連邦が崩壊する、というダイナミックな社会構造の変化を目の当たりにすることが出来た世代でした。
そんな中学時代、試験によく出たのが「1 位 中国、2 位 インド、3 位 ケニア、4 位 スリランカ。これは ◯ の生産量ランキングであるが、◯ にあてはまるのは?」みたいな問題です。皆さん、わかりますか?スリランカ、すなわち「セイロン島」がヒントですね。
答えは「茶」。セイロンティーで有名ですね。日本ではお茶といえば緑茶で、最近では抹茶も世界的な人気になっていますが、世界で最も飲まれているお茶は「紅茶」です。
FAO(国連食糧農業機関)によれば、そもそも「茶」は水に次いで世界でもっともよく飲まれている飲料のひとつです。そして、その茶のなかで大きな割合を占めるのが「紅茶」です。文献によって多少数字は異なりますが、世界の茶生産・消費のおよそ 4 分の 3 前後を紅茶が占める、とされます。さすがに 18 世紀からボストン茶会事件とか起きるくらい、紅茶を飲むという習慣は世界で浸透しているのですね。日本にいると、「お茶=緑茶」という感覚になりがちですが、世界標準ではむしろ、"Tea = Black tea" と考えられています。
ちなみに緑茶も紅茶も、基本的には同じチャノキ(Camellia sinensis)の葉から作られます。違うのは主として製造方法です。緑茶は摘んだ葉を早い段階で加熱し、酸化酵素の働きを止めます。一方、紅茶では葉を萎れさせ、揉み、十分に酸化させることで、あの赤褐色の水色と独特の香りを作ります。「同じ植物なのに、加工方法によってまったく違う飲み物になる」というのも紅茶のおもしろいところです。
紅茶を語るときに外せない代表的な産地として、インド、スリランカ、ケニア、インドネシア、中国があります。歴史的にも世界の茶生産を支えてきた地域です。
まずインド。有名なのは「ダージリン」と「アッサム」です。世界の地理でも必ず出てくる学習項目ですね。ダージリンはヒマラヤ山麓の高地で作られ、華やかな香りから「紅茶のシャンパン」と呼ばれることもあります。一方のアッサムは濃厚でコクがあり、ミルクティーに向いています。同じインドでも、ずいぶん性格が違います。
次にスリランカ。昔の国名「セイロン」から、今でもスリランカ産紅茶は「セイロンティー」と呼ばれています。ただし、セイロンティーもひとつの味ではありません。標高の高いヌワラエリヤ、香り高いウバ、バランスのよいディンブラなど、産地によって味も香りもかなり異なります。
そして現在の世界の紅茶供給で非常に大きな存在感を持つのがケニアです。ケニア紅茶は色がしっかり出て、味も力強いものが多く、ティーバッグやブレンドティーにも広く利用されています。「名前は意識していなかったけれど、実は何度も飲んでいた」という方も多いかもしれません。
インドネシアにも古くから茶の生産地があります。なかでもジャワ島の「ジャワティー」は比較的クセが少なく、すっきりとした味わい。食事にも合わせやすい紅茶です。大塚製薬の飲料水ブランド「シンビーノ」でもジャワティーがありますね。個人的にはこの紅茶が普段遣い(食後とかではなく仕事中などで飲む)には一番好きかもしれません。
そして忘れてはいけないのが中国。そもそも茶文化そのものの長い歴史を持つ国です。中国紅茶では安徽省の「キーモン(祁門紅茶)」が有名で、独特の甘い香りと奥行きがあります。雲南省の「滇紅(テンコウ)」なども知られています。
こうしてみると、「紅茶」というひとつの名前でまとめていますが、ワインと同じように、"どこで育ったか、どんな品種か、どう作ったか" によって、まったく違った表情を見せる飲み物です。
そして最近、日本でもあらためて注目されているのが国産紅茶、いわゆる「和紅茶」です。農林水産省も、日本で栽培した茶葉を国内で紅茶に加工したものを「和紅茶」「地紅茶」と紹介しています。一般的には海外産紅茶に比べ、渋味がおだやかで、やさしい甘さやすっきりした味わいを持つものが多いとされています。日本には「べにふうき」という、もともと紅茶・半発酵茶用として育成された品種もあります。農研機構によれば、日本で初めて登録された紅茶・半発酵茶兼用品種です。
日本人が長年培ってきた茶作りの技術で「紅茶を作る」。静岡、鹿児島、熊本、宮崎など、各地で個性的な和紅茶が作られるようになっていますので、紅茶がお好きな方は飲み比べてみても面白いと思います。ちなみに当院がある秦野に和紅茶があり、これまでにお世話に鳴った方に何回かプレゼントとして贈ったことがありますが、大変喜ばれました。
そんな紅茶。紅茶にはポリフェノールが含まれています。緑茶に多いカテキン類は、紅茶を製造する際の酸化によって変化し、「テアフラビン」「テアルビジン」など紅茶特有の成分になります。こうした茶のポリフェノールと健康との関係については、世界中で多くの研究が行われています。実際、茶の摂取量が多い人ほど心血管疾患や死亡リスクがやや低いという疫学研究やメタ解析も報告されています。最近の黒茶、つまり紅茶に限った解析でも、冠動脈疾患リスクとの関連が検討されています。
こういったデータは緑茶などでも示されていますが、飲食物と疾患とが関連する研究のほぼすべてが「観察研究」(研究者が対象者や事象に新しい薬・特別な治療・行動の強制などといった人工的な介入をせず、自然な状態のまま観察してデータを集めて分析する研究方法)であり、解釈には注意が必要です。
紅茶をよく飲む人はそもそも生活習慣が違うのではないか、食生活が違うのではないか、といった周辺の関連する要素を完全には取り除けません。ですので、「紅茶は薬」みたいなことはなかなかいえず、「紅茶に何か特別な健康効果があるから飲む」というより、「砂糖入りのジュースや清涼飲料水の代わりに、無糖の紅茶を楽しむ」くらいの考え方がちょうどよいかもしれませんね。
ちなみに紅茶を美味しく淹れるためには
・使用するポットとティーカップをあらかじめお湯で温めておく
・温まったらお湯を捨て、ポットには茶葉を入れる(使用する茶葉の量はティーカップ 1 杯に対してティースプーン 1 杯を目安に)
・沸騰したてのお湯(100 ℃)をポットに注ぎ、蓋をする。蓋をした状態でポットの中で 3 分ほど蒸らす
・3 分経過したらティースプーンでポット内を軽く混ぜる
・茶こしを使ってカップに注ぐ。複数杯入れるときは濃さが均等になるようにバランスよく注ぐ。ベストドロップと呼ばれる最後の一滴まで、しっかりと注ぐようにする
のような手順を取ると、おいしい紅茶が淹れられます。是非お試しを。
