隣の芝生は青く見えてもそれぞれがそれぞれにいいところがあるものと思うので今自分がいる足場でこれからも頑張っていきたいと思います。
ここ数日「泌尿器科専門医」についての日米比較について述べてみました。どちらがものすごく優れている、劣っている、ということではありませんが、取得による実利、という取る側からすると金銭的なインセンティブが大きくはたらく部分が米国専門医は大きいようです。
米国ではいわゆる「専門医」は診療に必須ではなく、法的には州の医師免許(medical license)があれば医療行為は可能です。しかしながら実社会でのとらえられ方が大きく異なります。まず、院長の知り合い米国人泌尿器科医に聞いたところ、「泌尿器科医のリクルートを行う多くの医療機関が(いわゆる米国における)"専門医取得" を雇用条件に挙げており、病院で(レジデントという若い研修者ではなく)スタッフとして指導的な立場にいるためには絶対必要」だそうです。
ただ、昨日紹介した米国における泌尿器科医の専門医制度を統括している団体、ABU は現在 5 年間を 1 サイクルとする「継続認証制度」を採用し、
Knowledge Exposure(5 年間のなかで必ず新しい知識やノウハウ、情報に接する機会をもうける)
Knowledge Reinforcement(専門医の知識強化として、大切なことを繰り返し学ぶ形式となっている E ラーニング研修)
Knowledge Assessment(知識のアップデートがしっかり行われているかどうかのチェックシステムによる確認)
が継続して行われているようになっています。「30 代で試験に合格したから、70 過ぎても専門医」ではなく、「今この瞬間も専門医として一定水準を維持している」ことを示すcredential(仕事をするために必要な知識・スキル・経験など)。にしようとしているわけです。
さらに欧州に目を向けてみます。欧州は EU に代表されるように、全体でひとつの共同体を泌尿器科の学会でも共創しています。それが現在泌尿器科学会では(かつては米国の泌尿器科学会でしたが)最も大きい団体となった EAU(Euroepan Association of Urology)で、そのなかの組織で専門医制度の質を担保しているのが "European Board of Urology (EBU)" です。ただ、この EBU は各国の医師に専門医制度のライセンスを発行しているわけではなく、資格そのものは各国の団体が認定します。ただし EU では Directive 2005/36/EC(欧州連合(EU)域内における専門資格の承認に関する協同ルールで、職業上の経験を承認するための制度を定めるとともに、EU 各国内の専門資格を他国でも自動的に相互承認するのを促進する法令)があるので、各国が行う研修制度にはだいぶ共通点が多くあります。
EBU が定めている Training Requirements(専門研修で必要な事項)では、まず 5 年以上の臨床経験を求めており、その期間中は単なる手術件数だけではなく、
・知識(theoretical knowledge)
・技能(clinical skills)
・手術手技(operative skills)
・手術以外の手技(non-operative management)ー ベッドサイドで泌尿器科医が他診療科医師よりよく依頼される、「尿道カテーテルが入りづらい患者さんの対応」など
・診療に必要なコミュニケーション能力(communication)
・医療チームをまとめるリーダーシップ(leadership)
・プロとして誠実に診療に取り組む姿勢(professionalism)
・専門集団の一員として求められる倫理性(ethics)
・生涯学習(lifelong learning)
といった competency(スキルや適性のこと)全体を重視します。
専門医になるとは FEBU:Fellow of the European Board of Urology の一員になることで、この資格を得るための試験が二段階になっています。
Part 1 Written Examination:110 問の 4-5 択一答の試験
Part 2 Oral Examination: 日常診療を想定した仮想症例に基づく口頭試問
により評価されます。したがって試験形式だけを比較すると、日本・米国・欧州いずれも「筆記+口頭」という、まあ似ている構造であることがわかります。
さて、英国を一例として専門医取得のメリットをみてみましょう。英国泌尿器科学会では専門医を取得した医師は "Specialist Register" と呼ばれる名簿にに登録されます。この登録がないと国の医療保険制度である NHS で(一般的な診療医ではなく)"コンサルタント" として勤務できません(英国ではまず "かかりつけ医"(GP(General Practitioner:総合診療医))が患者さんを診て、そこから "コンサルタント(ほかにもいくつか身分があるのですが細かくなるので省きます)" に紹介するシステムが採用されています)。このため、自分の専門領域の患者さんをじっくり診たい、オンコールなど時間外対応で呼び出される環境を避けたい、大学教授など、指導医的な立場で活躍したい、という医師はこ専門医資格を取ってコンサルタントという身分を目指すことになります。
各国の泌尿器科専門医をみると、すごーく単純に書けば
日本は「専門研修を修了したという事実を示すための肩書き」
米国は「独立して専門診療を任せられる医師であることの証明」
欧州「各国の専門医という職業資格+欧州横断的な質的保証」
という感じでしょうか。
ただ、個人的に思うのは、日本の専門医は「制度そのものの教育・試験部分は、国際的に見てそれほど見劣りしないが、選ばれた医師が取得できる特別な称号、というわけでは全くなく、単に「最低限もっておくべきごく基本的な肩書き」になっていることでしょうか。日本の医師数はよく「足りているものの、適正な配置になっていないだけ」と言われます。これは各診療科ごとの医師数もあてはまるのかもしれませんが、診療科内での各分野(腫瘍・結石・アンドロロジー・排尿障害・小児など)専門医数についてもあてはまる、すなわち「しっかりと全体像をみて定員の上限を決める」のも必要ではないかと感じます。
いずれにしても所変われば専門医も変わる。他を見ればそれがよく見えたりもするのが人の常ですが、ここまで医師として成長して来られた要素のひとつに「専門医制度」があったことは間違いありません。院長は現在泌尿器科だけの診療をしているわけではないですし、学会お要職に就いているわけでもないのでこの専門医制度にとやかく言える立場にありませんが、患者さんのニーズに答えられる医師像については引き続き考えてまいりたいと思います。
