「医療はヒト相手だからヒトが見て、話して、確認しましょう!」とか言っても "To err is human(ひとは誰もが間違える)" なので "より良いシステムづくり" のほうが結局はミスの軽減につながるはずです。
若手医師の頃、よく上の先生に「もうすぐ ◯◯(手技や手術の名前)やるから物品準備しとけよ〜」と言われることがありました。例えば腎臓に直接カテーテルを入れる「経皮的腎瘻」という手技なら、物品は下記のようになります。
腎瘻セット・腎盂バルーンカテーテル 2-3 種類・ダイレーター・カテラン針・25G 針・穴開きドレープ・穴なしドレープ・造影剤・生理食塩水・蒸留水・プローブカバー・プローブアタッチメント・(セットに備え付きのものは使いづらいので)ラジフォーカスガイドワイヤー 0.035 インチ・(うつ伏せで 15 分くらいかかる手技なので)患者さんがラクな姿勢を取れるようなクッション etc.
・・・医療者、しかもこういった透視下での処置を経験したことがあるひとでないと何を書いているか全くわからないと思いますが、ひとつの手技を行うだけでもこれだけの医療器具を用意するわけです。大学卒業して 7〜8 年くらいまではスマホもなかったので、ひたすら白衣にしのばせたメモ帳に「自分が次にこの手技をやるときはどの部署に連絡してこの準備してあの物品用意して・・・」とか書くわけです。当時は医療現場は封建的というか、「上の言う事はゼッタイ」みたいな雰囲気で、よく「一回見たんだから次はお前にやってもらうからな!」的なことを言われ、だいぶプレッシャーを感じたことを思い出します。心の中で「一回見ただけでできるんなら苦労しないっすよ親分・・・」という言葉を呑み込んでいましたが。
さて、そんな医療現場にも徐々にビジネスで用いられるような効率化のアイディアが持ち込まれるようになって久しくなりました。そのなかで有名なのが "ECRS (Eliminate・Combine・Rearrange・Simplify)" です。要するに「いらないことを省いて(Eliminate)、重複がないようにこれまで分かれていた複数のステップを組み合わせ(Combine)、効率のよい順番に置き換え(Rearrange)、最後に手順を単純化(Simplify)する、といった業務改善のためのコンセプトです。
有名なのがトヨタ自動車での導入例。
E: かつて多くの工場で「不良は検査で見つけるもの」だったのを、「不良を後工程で見つける作業そのものを省く方向」に生産ラインを自働化したのです。検査工程を増やすのではなく、検査に頼らなくてよい工程設計を採用しました。
C: 作業者一人が一工程を請け負うのではなく、複数工程を組み合わせてひとりが多能工化。これにより、工程間の受け渡し・待ち・確認が減り、ライン全体が「流れ」として見えるようになりました。
R: 工程を一直線に並べるのではなく、人の動きに合わせて工程を再配置。歩行距離が減り、異常にも気づきやすくなった。
S: 作業標準は「誰が見ても分かる」レベルまで削ぎ落として簡略化。文章ではなく、図・色・動作で示す。新人でも迷わない=ミスしにくい。
医療はヒトを対象としますので、すべての医療行為とそれにつながる確認作業を上記の工場生産ライン的に効率化することはできませんが、自分たちが行っているひとつひとつの作業手順を見直す、というのはそれ自体が効率的なこと。これまで当院の医療は「足し算」で進んできてしまった感があり、このような「引き算のコンセプト」は時間・マンパワーが限られたクリニックでは役立つ考え方です。当院でも一度しっかりと "ECRS できないか" 採血やエコーなど、日頃行っているルーティンからチェックしてみます。
