"OTC 類似薬の保険外し" ですべての漢方が機械的に保険適用外となることには明確な異を唱えたいです。
昨日、漢方医会で OTC 類似薬保険外し、というテーマでの講演を拝聴しました。「OTC(over the counter)薬」とはなんでしょう。ひとことで言うと「医師の処方なしで買える一般用医薬品」のこと。かぜ薬や鎮痛薬、胃薬など、ドラッグストアの棚にずらり並ぶあれです。そして「OTC 類似薬」と言われるのは、処方箋医薬品の中に「成分・作用が OTC 薬とほぼ同じ」「効果がほぼ代替可能」なものが含まれている、という意味合いで作られた政策的なカテゴリーです。分かりづらいですが、説明するとそのようになります。
維新の会が自民党と連立組んでから、政府としてこの「OTC 類似薬を保険から外そう」という動きが活発化しています。このことが「骨太の方針」にも入り、2025 年 11 月 27 日付で厚生労働省から発出された「OTC 類似薬を含む薬剤自己負担の見直しの在り方について」という文書(https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001599954.pdf)にも「2025 年末までの予算編成過程で十分な検討を行い、早期に実現が可能なものについて、2026 年度から実行する」と記載されています。
薬局で漢方薬が商品棚に並べられ、「満量処方」とか書いてあるのを見たことがある方もいらっしゃると思いますが、この「OTC 類似薬に漢方が入っている」、ということが現在漢方に関わる学術団体を中心に問題視されています。
そんななか、日本臨床漢方医会による 2025 年市民公開講座として「漢方薬が保険治療で使用できなくなると?~ 知っておきたいこの問題! 健康を考えた時に」という講演会がちょうど昨日行われました。そのなかで面白かったのが、「漢方が保険から外されそうになったのはそもそも今に始まったことではない」ということ。
・1983 年、当時の厚生次官が「健胃消化剤・総合感冒薬・貼付剤、漢方製剤の薬価削除を提案」(⇒ 審議の結果実現せず)
・1994/1995 年、「上記太字品目の薬価削除を再提案」(⇒ 日本東洋医学会を中心とする全国的な反対署名運動があり、実現されず)
・2009 年、当時政権与党であった民主党による事業仕分け(行政刷新会議)で漢方を含む市販品類似薬(当時 OTC という用語は使用されなかった)の薬価を保険外とする方針を固める (⇒ 日本東洋医学会を中心とする全国的な反対署名運動があり、実現されず)
など、もうすでに 3 回の「漢方薬保険外し」は政府筋によって画策されてきました。となると、さすがにもう 4 回目はないかも・・・と考えるのも無理からぬこと。個人的には今回漢方薬が現状のままで保険診療としてとどまるのは難しいのではないかと愚考しております。なにせ世界で漢方薬が保険適用になっているのは日本だけ、と言われていますので。
ただ、問題点は多数あります。
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受診控えが増える
かぜ症状や軽いアレルギーなど、OTC で済ませようとする人が増えて、そのなかに少数含まれる重症患者さんのの発見が遅れる可能性。 -
医療格差と健康格差が広がる
「軽症は自費で」という方向性は、低所得層ほど必要なケアを避ける原因になりやすい。 -
自己判断による誤用・遅れ
OTC 使用による本当に必要な検査・診察が遅れて悪化するケース増加の可能性。 -
医療機関への相談が減る
具合が悪くても「どうせ保険きかないなら…」と受診せず、疾患の見逃しリスク上昇。 -
薬剤師の負担増大
OTC を選ぶ判断材料を薬剤師に求める患者が増え、説明・指導の負担増。 -
「処方薬=強い薬」という誤解の助長
同成分でも「処方なら効く」という新たな勘違いが生まれ、選択の混乱が生じるリスク。 -
OTC の価格上昇リスク
需要増による収益増を見込んでドラッグストア側による価格上昇の可能性。 -
高齢者の誤服用が増える
医師のチェックなしで購入する場面が増え、重複投薬や禁忌薬誤用の発生リスク増。 -
医療費削減効果が限定的
結局 OTC では対応できず受診する人が多い場合、期待したほど医療費は下がらない可能性。 -
制度の複雑化で混乱
どれが「OTC 類似薬」なのか境界が曖昧で、患者・医療者・薬局の三者ともその確認に取られる時間増。
制度改革はいつも、意図した方向にきれいに進むわけではなく、「副作用」の方が強く出ることがあります。OTC 類似薬の議論は医療費の合理化という大義を持ちながらも、われわれが実際にいる現場の肌感覚ではかなり慎重な運用が求められるテーマではないかと思うのです。
「患者さんは会議室ではなくわれわれ(医療従事者)の目の前にいる」。織田裕二さんがどこかの映画で叫んでいたセリフみたいですが、実際に OTC 類似薬の保険除外については一度大きな政治的なイシューとして広く議論し、外すならどのような運用にするかを明確してほしいと思います。
漢方もしっかりとした薬です。使い方を誤ると大きな健康被害につながりますし、うまく使えば西洋薬よりもよっぽど効果のある強力な治療になります。をいわゆる市販の風邪薬とかビタミン剤と同じように考えるのは明確に反対、と思う院長でした。
明日は本日に引き続き、昨今話題の「低価値医療」「Choosing Wisely という考え」に漢方をからめて述べてみたいと思います。
